第9話 壁の調査
「うう~ん……」
「キュウ!」
「おはよう、ハリー」
目を覚ますと俺の隣にはハリーがいた。
その愛くるしい顔に朝からとても癒される。頭とお腹を撫でてあげると嬉しそうにしていた。
ネットで調べてみると、ハリネズミの針は威嚇している時や警戒している時は鋭く刺さりやすいが、リラックスしているときは大丈夫らしい。お腹はフサフサしていてとても柔らかい。そのお腹を守るために丸まって完全防御態勢になると獰猛な動物にも手が出せなくなるようだ。
「ベッドの寝心地は問題なかったか?」
「キュ!」
「そうか、それはよかった」
買ってきておいたハリネズミ用のクッションベッドには満足してくれたようだな。昨日うちに泊まるかと聞いたけれど、ペットショップでハリネズミ用のエサを買ってきた時にベッド、トイレ、給水器などを購入しておいたのだ。
「さて、朝ご飯を食べたら今日も鏡の向こうの世界を調査だ」
ちなみにハリーの朝食への反応は芳しくなかった。昨日あれだけうまい肉を食べた弊害だろうな。こればかりは仕方がない。
「……なるほど、どうやら反対側も見えない壁はあるみたいだ」
「キュ」
朝ご飯を食べたあとは鏡を通って異世界へ行き、昨日と同様にドローンを使って魔物を引き付けて見えない壁を調査した。
今日はオオカミのような生物がドローンを追いかけてきたが、やはり見えない壁に阻まれた。こいつもしばらくドローンを追ってきてくれたので、昨日とあわせて見えない壁の位置がだいたい把握できた。
ゴブリンがいた反対側も見えない壁は存在しており、予想通りこの小屋を中心に円の形をしているようだ。
「でも小さなウサギはこの壁の中に入ってこられたんだよなあ。ハリーもそうだけれど、小さい生物は入れるのかな? でもそれだと俺は入れないことになるんだが……」
「キュウ?」
さらに分かったことがあり、ハリー以外にも小さくておとなしいウサギがこの見えない壁の中に入ってきていた。ハリーだけが特別というわけではないらしい。ちなみにウサギだけど頭には角が生えていたな。
これまで得た情報から考えると、一定の大きさ以上の生物は通さないという壁だろうか? そうなると俺が通れるというのはおかしな話だが、俺は別の世界から来たから特別という可能性もある。
もうひとつ可能性があるとすれば、敵意のある者を通さない壁ということだ。クマ、ゴブリン、オオカミすべてに共通することだが、俺やドローンを認識してすぐに襲ってきたものばかりだ。俺、ハリー、角の生えたウサギに共通することは俺やドローンに対していきなり攻撃を仕掛けてこなかった点になる。
敵意なんてどうやって判別できるのかとも思うが、そもそもあの見えない壁の仕組み自体さっぱりだからな。まあ少なくともあの大きなクマもどきを通さないような壁なのでほっとした。
「よし、覚悟を決めて行くか」
「キュウ!」
見えない壁があってある程度安全ということはわかった。ここからはさらに安全となるように工夫していくとしよう。
まずは見えない壁がどこまであるのかを目に見えてはっきりとわかるようにする。ドローンで周囲に危険そうな生物がいないことを確認してから、ゴブリンの死骸のある場所へと移動する。もちろん新しく購入したクマ撃退スプレーを持っているが、それでもあんなことがあったばかりだから少し怖い……。
「よし、ここだな」
幸い危険な生き物に遭遇することなくゴブリンの死骸のある場所まで辿り着いた。すでに小動物なんかに食い荒らされて悪臭を放っている。あとで埋めた方がいいのかもしれない。
そして引っ越しの時に使った荷造り用の紐テープを取り出し、見えない壁があると予想される場所に線を引いていく。昨日別のゴブリンがドローンを追って通った場所は草が踏まれていたり、足跡が残っている。
多少危険だが、痕跡の残っているうちに目印を残しておく。紐テープだけだとすぐに風で飛ばされそうだから、所々で石をのせておき、今度街へ行った時に杭とロープでも購入しておくとしよう。
反対側にも先ほどのオオカミが通った痕跡を頼りに紐テープを設置した。ゴブリンとオオカミの痕跡が残っていない箇所については予想となってしまうが、そこまでは完全に小屋を中心に円の形を描いていたので間違いはないだろう。
「あとはどれくらいの高さがあるかと湖の方も確認しておきたいところだな。湖の方は確か水中用のドローンがあったはずだ。高さの方は……少し難しいか」
「キュウ……」
他にも小屋の周囲に防犯用の警報装置なんかを用意してもいいかもしれない。一昨日のこともあったし、安全には最大限気を遣うとしよう。
だけどこの調子でいけばだいぶ安全性は確保できそうである。この湖のほとりのすばらしい景色を見ながらハリーと一緒にのんびりと過ごすのは楽しそうだ。あの鏡を割るという選択をしなくてよかったかもしれない。
さて、次はこの小屋の改善だな。