第71話 家の中探検
「すごい、家の造りが全然違う。上には電球があってこんなに明るい……」
「そうだね、俺も初めてあっちの世界へ行った時はいきなり大きな湖と綺麗な景色が目に飛び込んできて驚いたよ」
「キュウ!」
少し古い田舎の家とはいえ、それでもリリスの世界のレジメルの街やベリスタ村で見てきた家々の造りとは違う。
とはいえ、予めタブレットで俺の世界のことを勉強していたこともあって、電球についてもそれほど驚いてはいないみたいだ。
「うおお~なんじゃこりゃあ!」
問題はヴィオラさんのほうだな。別の部屋からヴィオラさんの叫び声が聞こえたので、すぐに2人と一緒に声のした方向へ急いだ。
「すげえ、面白そうなもんばかりだぜ!」
「ここがリビングと台所になります。危ないものとかもあるので気を付けてくださいね」
「おう!」
リビングにはテレビやソファにパソコン、台所には冷蔵庫や電子レンジなど様々な家電が置いてあって、それを目にしたヴィオラさんが目をキラキラさせながら叫んでいる。こういうところはリリスに似ているな。
「……ちっ、やっぱりここじゃあまともに魔法は使えねえか」
「えっ、でも今使えていますよ?」
色々と周囲を見回して、先ほどよりも真剣な表情をして目の前を見つめているヴィオラさんは手には小さな炎が灯っていた。ちゃんとこちらの世界でも魔法は使えているように見えるけれど……。
「ああ、使えることには使えるが、ケンタの世界には周囲に魔力というものが一切存在していない。俺たち魔法使いは周囲の魔力を使って魔法を使う。だが、ここだと自身にある魔力しか使えないから大した魔法は使えねえし、自然に魔力は回復しねえからこっちで魔法を使うのは現実的じゃねえな」
「前に魔道具で検証した通り。師匠、こっちでも魔道具なら使える」
「なるほどな。魔石を元にした魔力を使う分にはいけるわけか」
そういえば以前リリスに頼まれて、俺の世界でいろいろと魔道具について検証したことがあったな。
確かに周囲の魔力と取り込む魔道具を使っても、ここでは魔力を集めることはできなかったんだっけ。そしてリリスから聞いた話だけれど、魔力とやらを使いすぎるとめまいや嘔吐などの体調不良が起きるようだ。
極限まで使用すると命にもかかわるらしいし、自然に魔力が回復しないこっちではそれほど魔法を使わない方がよさそうだ。
……俺としてはヴィオラさんが自由にとんでもない魔法を発動することができないのは少しだけ安心できる。
「ケンタ、これはなに? もしかして冷蔵庫?」
「ああ、そうだよ。ほら、中は冷たいでしょ。こっちは冷凍室で、さらに冷たくて物を凍らせたり、氷を作ったりすることができるよ」
「おっ、本当に冷てえ! こいつはおもしれえ道具だな! おい、こっちの変な管はなんだ?」
「これは蛇口ですよ。こうやってひねると水が出てきます」
「うおっ! なんじゃこりゃ! ケンタの世界には魔法はねえんだろ。どうしてこんなことができるんだ?」
「ええ~と……俺の世界だと雨や川の水を溜めておいて、その水を綺麗にしてから各家庭につなげているんだよ」
スマホを操作して水道の仕組みを調べる。昔社会の授業で勉強したっけ。
ここは田舎だが、ギリギリ電気や水道は繋がっている。俺としてもその辺りのライフラインは必須だったからな。
「それぞれの家にそんな面倒なことをしているのかよ……。そういやケンタの持っているそれも面白そうだな」
「……俺のスマホは高いので触らないでくださいね」
ヴィオラさんが俺のスマホをのぞき込むが、俺はスマホを隠してポケットに入れる。
さすがにリリスのタブレットのように穴をあけられては困る。こちらの世界では身体強化の魔法なんかも使わないらしいけれど一応な。
「ちぇっ、ケチだな。まあ、いいや。そんでこっちのやつはなんだ?」
「ケンタ、こっちのはなに?」
「ええ~と、これはねえ……」
そのあとしばらくの間はヴィオラさんとリリスの質問攻めにあった。まあ、俺も初めてあちらの世界へ行った時はいろんなものに興味しかなかったから気持ちは分かる。
「師匠、これはテレビといって、カメラという映像を保存する道具で撮った絵をそれぞれの家に映し出す装置」
「はあ~こんなに薄い板が精密な絵を動かしているとは驚いたな。それに同じ絵を多くの場所に映し出すとかとんでもねえなあ。中身がどうなっているか見てみたいところだぜ」
「俺も直せなくなるので絶対に止めてくださいね」
「キュ」
台所の家電から始まり、リビングのテレビに至るまで説明をしていく。
リリスは事前に俺の世界の物を調べていたこともあって、テレビやカメラなんかについてはもう知っている。とはいえ、自分の目で見るのは初めてなので、とても興奮した様子だ。
ハリーだけは俺と一緒に俺の世界でだいぶ過ごしただけあって落ち着いている。
ぐううううう~
「っ!?」
そんな説明をしているとリリスのお腹から可愛い音が鳴った。
そういえばいろいろとあり過ぎたから時間が経つのを忘れていたが、もう日が暮れて夜になっている。




