第7話 ドローン
「よし、それじゃあ本格的にこの辺りの調査と例の見えない壁を調べてみよう」
「キュッ!」
ハリーとドローンで追いかけっこをしながら遊んだりして、ドローンの操作にはだいぶ慣れてきた。
いよいよこの異世界を本格的に調査してみる。差し当たってはあの見えない壁だ。もしもあの壁が危険な生物を通さないのならば、この小屋の付近は安全ということになる。
「おっと、ここか」
まずは昨日クマもどきがゴブリンを倒した場所へドローンを飛ばしてみる。
そこには引き裂かれたゴブリンの死骸があった。昨日は双眼鏡で遠くから見ていたから気付かなかったが、そこら中に青い血が残っている。ゴブリンの血は青いんだな……。
ある意味ドローンの映像で良かった。リアルで見たら臭いもあって吐きそうになっていたかもしれない。
「ここが見えない壁のあった場所か。まずはドローンが通れるのか確認してみよう」
昨日はこの位置に見えない壁があった。
ドローンを操作してゴブリンの死骸の奥まで飛ばしてまた戻すと、特に何かにぶつかることなく戻って来た。どうやらこのドローンも見えない壁を通過することができるようだ。
「そうなると昨日のあの時間だけあったとかか。あるいは危険な生物を寄せ付けないとか? よし、近くに生き物がいないか確認してみよう」
「キュウ」
見えない壁を越えて、昨日と同じように湖の周囲を飛ばしていく。昨日のクマもどきやゴブリン、あるいは他の生物がいないかを確認してみる。
「おっ、ゴブリンだ!」
あれからドローンで湖の近くを回って何か生物がいないかを確認した。一度バッテリーが切れそうになったので、小屋まで戻してバッテリーを交換した。
昨日はあの短時間にクマもどきとゴブリンの2体と遭遇したが、そこまで生物がたくさんいるわけではないらしい。だいぶ運が悪かったようだ。
そしてしばらく経ったあと、ようやく湖の水を飲んでいるゴブリンを発見した。昨日の個体とは異なり、棍棒のような武器は持っていない。とはいえ武器を使う知能はあるみたいだし、石などの投擲による攻撃をしてくる可能性もありそうだ。
こうやってドローンを使って安全圏から眺めているだけなら心に余裕があるな。よし、これならいけそうだ。
「よし、ドローンに気付いたみたいだぞ。そのまま追ってこい」
「キュッ」
ドローンからは音声が流れないからわからないが、ゴブリンはこちらを威嚇しているようだ。
ハリーと一緒でドローンを恐れることなく近付いてくる。たぶん鳥とかだと思っているのかもしれない。
あまり引き離さないようにドローンを操作しながら小屋の方へと引っ張ってくる。仮にあの見えない壁がなくてゴブリンがこの小屋に近付いてきたとしても、今回はクマ撃退スプレーもたくさん買ってきたし、他にもいろんな防衛グッズを購入してきてある。金に糸目はつけず、安全第一である。
「おっ、やっぱりあの見えない壁はあるみたいだな」
ゴブリンはそのままドローンを追ってきて、ゴブリンの死骸があるところで見えない壁に衝突した。昨日と同じで、やはりあそこには見えない壁が存在しているらしい。
ゴブリンはそこらへんにあった石を掴んで見えない壁を破ろうとするが、その石も通さない。危険な生物だけを通さない壁かと思っていたけれど、武器なんかんかも弾くようだ。昨日のクマもどきの強力な攻撃も防いでいたし、強度はかなりありそうだな。
「あとはこの壁がどこまで続いているのかも確認してみよう」
ドローンを横に移動するとゴブリンもついてくるが、見えない壁もそのまま続いている。
この見えない壁がどこまで続いているのかも知っておきたい。湖側はゴブリンも追ってこないだろうから、湖とは反対側へドローンを移動する。
ゴブリンは壁に阻まれつつもドローンについてきた。これでこの見えない壁がどこまで続いているか、なんとなくだが分かるはずだ。
「……なるほど、どうやら見えない壁はこの小屋を中心に円形に囲んでいるみたいだ。あとは反対側と湖側と空がどうなっているのかも確認したいところだな」
「キュキュ!」
ゴブリンはしばらくの間ドローンを追っていたが、途中で見えない壁を抜けることは無理だと諦めて去っていった。
それでも壁の大体の位置を把握することができた。最初は真っすぐな壁かと思っていたのだが、どうやら緩やかな円を描いており、この小屋を中心にして丸い円の形をしている可能性が高そうである。
途中でゴブリンが去ってしまったからまだ確信は持てないので、同じように反対側も確認してみよう。あとは湖にもこの壁はあるのか、どれくらいの高さがあるのかも確認したいところだけれど、今のところはそれを確認するすべはないか。
それと俺やハリーみたいに壁を通れる条件も知りたいところだが、どうすれば分かるんだろうな? いや、焦らずゆっくりと調べていくことにしよう。
「日も暮れたみたいだし、今日はこれまでか」
結局今日は反対側までは確認することができなかった。
少し大きなウサギのような生き物を発見したのだが、ドローンを追ってきてはくれなかったし、続きは明日だな。
「俺は家に帰るけれど、ハリーはどうする?」
「キュウ……」
「……もしよかったら、うちに来るか? おいしいご飯もご馳走するぞ」
「キュキュウ!」
俺がそう言うと、ハリーは嬉しそうに手を挙げる。
昨日この世界についていろんな質問をしていた時にある程度察した。親は亡くなってしまったのか、家族で離れて暮らす習性なのかわからないけれど、ハリーは一人ぼっちのようだ。
ちょうど俺もあの家に一人で暮らすのは少し寂しいと思っていたところだし、もしもハリーが望むのならうちに来てもらうとしよう。
実を言うとハリーがそう言ってくれてもいいようにいろいろと買ってきて準備をしてある。喜んでくれるといいんだけれどな。