第61話 朝の漁
そして翌日。昨日はお酒も少し入ったこともあり、ぐっすりと眠れた。
朝起きてハリーとリリスと一緒に家を出ると、もう村の人たちは働いていた。
「へえ~漁ってあんな風にするんだ」
「キュ」
村を散歩していると、村の横にある湖で村のみんなが漁をしている姿が見えた。
木製の10メートルほどの船に乗り、大きな網を投げては陸にいる村の人たちが引っ張っている。確かあれは地曳網という漁の方法だったかな。他にも別の船の上からは網を投げて回収する投網で魚を獲っていた。
「おはようございます、皆さん」
「おはようございます、セルムさん」
「キュキュ」
「おはよう」
村を散歩していると、村長のセルムさんがやってきた。
「昨日は本当にありがとうございました。みな本当に楽しんでおりましたよ」
「それはよかったです。朝はみんなで漁をしているんですね?」
「ええ。朝は総出で湖に出ております。そのあと各自で獲った魚を捌いたり、畑仕事をしたり、狩りへ出たりと分かれるわけです」
村には人がほとんどいなかったのはそういう理由か。早朝は村の人みんなで一丸となって漁をするらしい。
「この湖のおかげでこの村の者はそれほど食べる物には困っておりません。魔物が多少出たり、街や他の村から遠いのは少し不便ですがね」
「なるほど」
これだけ大きな湖だから、この村の人たちが食べ物については日々豊かな生活を送れているようだ。
「そういえばこの湖には大きな魚や魔物なんかはいないのですか?」
「いるにはいるのですが、浅瀬の方にはほとんど出てきません。なので儂らもあまり湖の奥の方には行かないようにしているのですよ」
「そうなんですね」
どうやら浅瀬付近は大丈夫なようだ。確かにラジコンボードで湖の中を見た時も浅瀬にはそれほど大きな魚もいなかった。まあ、あの時はリリスの結界の範囲内を見ていたからかもしれないけれど。
ふむ、それほど大きな魚や魔物がいないなら、この湖で釣りなんかをしてもいいかもしれない。釣りは子供のころにやったっきりだ。それにあの時は川釣りだったから、湖での釣りとは違うんだろうな。
うん、帰ったら釣り竿を購入してみるか。
「ケンタ殿に渡す分も捌いた状態でお渡ししますので」
「とても助かります」
前回は他の野菜をいただいたこともあって、俺があまり持てなかった。しかし、今回は収納魔法を使えるリリスがいることもあって、大きな魚を切り身の状態でいただくことになった。
ネットで調べて三枚におろしてみたけれど、そこはやはり素人だから、少し身が潰れてしまったんだよなあ。ここから小屋へ戻るまで時間もかかったし、今回は最高の状態で異世界の魚を楽しむことができそうだ。
「ハリーちゃん、リリスお姉ちゃん、ケンタお兄ちゃん、おはよう!」
「キュキュウ」
「おはよう」
「おはよう、ミレルちゃん」
村長さんと話しているとミレルちゃんがこっちにやってきた。
俺がしゃがんであげると、右肩に乗っているハリーを優しく撫でている。ザイクも今は漁を手伝っているみたいだな。
「リリスお姉ちゃん、また昨日のをやって~!」
ミレルちゃんがリリスのもとへ走り、お願いをする。昨日のとはたぶん火魔法のことだろう。
「これ、ミレル。すみません、リリス殿」
「別に構わない。でも昨日のは少し危ないからこっち」
「うわあ~綺麗!」
「ほお~これは美しい!」
リリスは昨日と同じように手を前に出す。しかし、出てきたのは火柱ではなく、白い冷気と共に出てきた透明な氷の塊だった。
なるほど。氷を見たことがない人からしたら、透明で宝石のような氷はさぞ美しいだろう。形も宝石のようにしてあるから、俺から見てもすごく綺麗だ。
「冷たいからずっと直接持たないように気を付けて」
「うん! リリスお姉ちゃん、ありがとう!」
リリスが収納魔法で布を取り出して、その上に15センチメートルほどの氷を載せてあげる。こうすれば冷たくなりすぎることはない。
朝から眩しいくらいの子供の笑顔を見ると元気になるなあ。社畜時代もハリーと一緒に過ごしたり、こういう笑顔を見られればもっと元気で頑張れた気がする。……まあ、あのブラック企業で頑張れなくてよかったような気もするが。
そのあとは漁から戻ってきたみんなと朝食を食べ、朝漁で獲ってきた魚をいただいた。
そして畑や釣りのことを村長さんに聞いた。小屋に戻ったらいろいろと試してみるとしよう。
「またいつでも来てくだされ」
「ケンタ、またな!」
「ハリーちゃん、リリスお姉ちゃん、また来てね!」
「ああ、またお邪魔させてもらうよ」
「キュキュウ~!」
「また来る」
村の人たちの見送りを受けて、ベリスタ村を出発する。
定期的に野菜と魚を交換してほしいと伝えたので、また少ししたらお邪魔させてもらうとしよう。




