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第59話 村へのお土産


「おおっ、ケンタにハリーじゃねえか。また来てくれたんだな」


「お邪魔しているよ、ザイク」


「キュキュウ」


 野菜と塩や香辛料を物々交換し終わったところで、ちょうどザイクが無事に村へ戻って来た。前にビーターと二人で湖の小屋に来てくれてから随分と久しぶりだ。


 怪我はもうすっかり良くなったようで、狩りに出かけていたらしい。今日は残念ながら獲物を狩ることはできなかったようだが、怪我なく帰ってきただけでありがたい。


「ああ、あんたがリリスさんか。うちの娘が失礼した。なんでもエルフは実際の年齢よりもだいぶ若く見えるんだってな」


「別に気にしていない。よろしく、ザイク」


「ああ、こちらこそよろしく頼む」


 どうやらザイクとリリスも問題ないみたいだな。これでこの村のみんなとリリスの顔合わせはすんだけれど、問題がなさそうで本当によかった。お世話になった人たちが争ったりするところなんて見たくないからな。




「うおっ、こいつはうめえ!」


「ああ、いつもと味が全然違うぜ!」


「ふむ、辛味があってうまいですな。ケンタ殿、ありがとうございます」


「今日の分はお試しとお土産ということなので、遠慮なくどうぞ」


 今日の晩ご飯は魚の身と野菜を炒めたものとつみれのような魚のスープだが、仕上げにメンギアの実をすりつぶした香辛料をまぶしてある。レジメルの街で購入してきた赤黒いこの実はすりつぶすと辛味と酸味のある香辛料となる。使う直前にすりつぶしたほうが風味が豊かになるということで、実のままもってきていた。


 このメンギアの実も野菜と交換したのだが、今日の料理に使った分はサービスしておいた。この先もベリスタ村のみんなとは定期的に取引をしたいし、最初は少しくらい気前が良いところを見せないとな。


 他にも村の子供たちには街で買ったおもちゃなんかをお土産にプレゼントしてある。


「キュウ~♪」


「とってもおいしい」


「うん、前のご飯もおいしかったけれど、今日のご飯もおいしいな」


 ハリーとリリスも今日の料理には満足しているようだ。やっぱり街で食べた料理よりも野菜がおいしい。収穫したばかりの野菜の味には2人もご満悦だ。


 前回のような塩味だけでもおいしかったけれど、今回のような味付けも悪くない。魚のスープの方はタイ料理のトムヤムクンに近い味かもしれない。普段慣れていない香辛料を使っているからか、なんだか新鮮な味だ。


 せっかくだし、家に帰ったら俺もこちらの世界の調味料や香辛料を使っていろいろと料理を作ってみるか。


「辛味と酸味のある料理と言えばやっぱりあれだな。リリス、例のお酒をお願い」


「わかった」


「うおっ、こいつが魔法か!」


「へえ~初めて見たよ」


 リリスが収納魔法を発動させて黒い渦を出すと、横にいたザイクだけでなく、村のみんなもリリスに注目する。みんな魔法という不思議な力に興味津々のようだ。


 野菜を収納してもらった時は村の一部の人しか見ていなかったからな。


「はい」


「ありがとう、リリス。さて、ザイク、ビーター。これは俺の故郷で作られたお酒なんだ。この持ってきた果実酒や日本酒とはまた違う酒だから、みんなで飲んでくれ」


「おいおい、そう何度も酒なんて受け取れないぞ」


「ああ。前もうまい酒をもらってしまったからな」


「前の分はグロウラビットをもらったお返しだから気にしないでいい。晩ご飯もご馳走になって泊めてもらうわけだし、今回のお酒はそこまで高いものじゃないから遠慮する必要はないぞ。それに量もそこまでないから、一人一杯くらいだ」


 リリスに陶器製の大きなポットを取り出してもらう。器の上部には真っ白な泡、その下には黄金の飲み物が沈んでいる。


「サンキュー、ケンタ。ありがたくいただくよ……って、この酒は冷えているのか!?」


 ポットを傾け、ビーターの空になった木製のコップに注ぐと驚いた声を上げる。そう、このビールはキンキンに冷えている。


「ああ。この酒は冷やして飲むのがうまいんだよ。リリスが魔法で冷やしてくれたんだ」


「へえ~そんな魔法もあるのか!」


 今回は冷蔵庫で冷やした缶ビールを陶器に入れ替えて時間の停止するリリスの収納魔法に入れてもらったわけだが、リリスは氷魔法も使うことができるので、本当に冷やすこともできる。


 リリスが俺たちと一緒にこの村まで来てくれたおかげで、冷えたビールをみんなと一緒に飲むことができるようになった。


 2人のコップにビールを注いだ後は俺のコップにも注ぎ、そのあと他の希望者に回してもらう。


「色や香りはエールと同じみたいだな」


「ああ、俺の故郷のエールみたいなものだよ」


 じっくりとコップの中を覗き込むザイク。以前にこの村へ来た時にもらったエールとは若干色が異なる。どんなお酒なのか興味津々なのだろう。


 さて、みんなが飲みやすくなるようにまずは俺から飲むとしよう。


「……うん、思った通り今日の料理によく合うな。みんなも遠慮なく飲んでくれ」


「ありがたくいただくぜ。……うおっ、こいつはうめえ!」


「ああ、エールよりも飲みやすい! 確かにこれは今日の料理によく合っているよ!」


 2人ともいい飲みっぷりだな。そこまでうまそうに飲んでくれると、俺もプレゼントした甲斐があるというものだ。


 この酸味と辛味のある香辛料を使った今日の料理には冷えたビールがよくあっている。


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