第54話 プレゼント
「ふあ~あ。やっぱり慣れたうちのベッドで寝るのはいいなあ」
「キュウ!」
昨日の夜は安全でだいぶ慣れてきたうちの家の柔らかいベッドで横になれたこともあって、ここ最近では一番ぐっすりと眠ることができた。
外でテントの中の寝袋で寝たり、宿のベッドは硬くて隣にリリスもいたし、熟睡できなかったから当然といえば当然か。
「さて、卵とかが切れていたし、午前中は買い物に行こうか」
「キュキュ」
一度鏡を通って簡単な朝食をリリスと一緒に食べて、ハリーと一緒に車で街まで出かける。食材の他にも欲しいものがあるし、いろいろと買ってくるとしよう。
「ただいま、リリス。簡単なお昼にするからちょっと待っていてね」
「大丈夫」
リリスはというと、いつものように小屋の中で俺がこちらの世界から持ってきた物を見ていたり、漢字のドリルなんかをやっていた。昨日まで出かけていたのにだいぶ元気である。
「あとは頼まれていた漢字ドリルと英語の学習用の本だよ」
「ありがとう」
リリスは漢字の方もだいぶ覚えてきていた。漢字をマスターしたら次はアルファベットや英語を勉強するらしい。俺も昔使っていた英単語のターゲットなんかも買ってきてあげた。
確かに俺の世界の物を調べる際に日本語や英語を読めるとだいぶ楽になるとはいえ、本当にすごいな。
……すぐに俺よりも英語ができるようになってしまう気がする。
「それとは別にもうひとつリリスにプレゼントを買ってきたよ」
「プレゼント?」
勉強用の本とは別に街の家電量販店で購入してきたあるものを渡す。
「……何かの板?」
「横にボタンがあるから、それを一回押してみて」
「っ!? これはケンタが持っているスマホ?」
「スマホみたいなものだけれど、こっちはタブレットっていうんだ。機能は俺のスマホと似たようなものだね」
「これをもらっていいの!?」
「うん。今回の街までの旅行ではすごくお世話になったからね。俺のスマホを欲しがっていたみたいだし、こっちの世界ではそこまで高いものじゃないから」
少し型落ちしたタブレットであればそれほど高価な物でもない。さすがに最新のものまでは必要ないという判断だ。スマホやタブレットは最新だと10万円を余裕で超えるからなあ……。スマホやタブレットはここ最近でだいぶ値段が上がったものだ。
「……でも、本当にいいの?」
リリスが不思議そうに聞いてくる。
確かに今までリリスは俺のスマホが欲しいとは言ってこなかった。きっと俺の世界の大抵のことを調べられるスマホというものの危険性を察していたのかもしれない。
「その代わりに条件がある。これを使えば俺の世界の大体の知識を自分で調べることができるけれど、その知識を使って武器や危険な物だけは作らないでほしいんだ」
こちらの世界の魔法という力と俺の世界の科学の知識をリリスが自由に使えるようになれば、きっととんでもない武器なんかを作ることができてしまうだろう。
俺としてはこちらの世界にお邪魔してのんびりと生活ができればいいだけなので、争いの元になりそうなものを作るのだけは止めてもらいたい。
「わかった、誓う!」
もちろんこんな口約束はいくらでも破れるのだが、そこはリリスを信用することにした。リリスとの付き合いも長くなってきたし、お金や地位などに執着している気配もなかった。誰かに俺のことを話すこともきっとないだろう。
唯一知識欲に負けて危険な実験をしないかだけが心配だが、そこだけは俺も見張ることにしよう。
「それと徹夜は厳禁だからね。ちゃんと睡眠はとること」
「……わかった。熱中し過ぎないように頑張る!」
「うん、約束だよ」
こっちの方は少しだけ自信がなさそうだな。まあ、俺もスマホに夢中になって夜更かししたことは何度もあるから、そこまで強く言えない。ゲームとか動画とかを見始めたら止まらなくなってしまうのはたぶん誰でも経験したことがあるだろう。
「使い方はこっちのボタンを押すと画面が表示されるよ。こうやってタッチして操作するんだ。これが検索のサイトだね。このタブレットの操作方法なんかも調べればすぐに出てくるよ。漢字じゃなくてひらがなでも大丈夫だから」
「すごい……」
「キュキュウ」
タブレットを操作して検索サイトを開く。ローマ字入力はまだできないと思うから、日本語のフリック操作なんかも教えてあげないと。
最近は検索サイトで検索するとAIでの検索結果が一番上に出てくるから、だいぶ検索はやりやすいだろう。まだ読めない漢字もあるけれど、その漢字もタブレットで簡単に検索できる。
鏡を通してWi-Fiを持ってきているので、こちらの世界にいてもこの小屋付近ならタブレットを使用することが可能だ。これで今まで以上に俺の世界のことを知ることができるだろう。