第52話 メイン料理
「うん、こっちの黄色いスターブルブはほんのりと甘みがあって生でもいける。このムーンリーフはシャキシャキとした歯ごたえで酸味もあっていけるぞ。このブロウイモはホクホクとしているから、蒸したほうがうまいかもな」
「キュキュウ♪」
いろんな種類の野菜をじっくりと味わっていく。当然だが野菜の種類ごとに味がまったく異なり、料理方法が違うだけで味の印象もだいぶ違ってくる。
だが、一貫して言えるのはどの野菜もすごくおいしい。俺の世界の野菜よりも甘味や酸味などの味の要素がどれも濃いイメージだ。農薬を使っていないからか、大気にある魔力というものが関係しているのか、理由はわからないけれどすごいうまいな。
「こっちの素揚げはおいしい。外はカリッとしていて、中はとってもジューシー!」
「焼いたものとも違った味がしておいしいよね」
「キュウ」
生で食べるシャキッとした食感、焼いてコゲ目がつき香ばしい香り、揚げて旨みが凝縮した味、どれも特徴があってうまいものだ。
「シンプルな塩味もいいけれど、いろんな味を付けてもおいしいな」
「マヨネーズは唐揚げだけでなく野菜にもあう。あと色は微妙だけれど、こっちの茶色いペースト状のものも生野菜によく合っている」
唐揚げの時にもつけていたマヨネーズは野菜にもよく合う。生野菜もいいけれど、焼いたり素揚げした野菜にもあっているな。
そして茶色いペースト状のものとは味噌である。味噌に大葉と砂糖を混ぜ合わせたもので、野菜スティックとかに付けるやつだ。生野菜にはこれが一番合うかもしれない。
「キュキュウ♪」
「ハリーはマヨネーズとドレッシングがいいのか。どっちもうまいよなあ」
ハリーはその2つがお気に入りらしい。やはりというべきか、ドレッシングは生野菜が一番合うな。
個人的にはシンプルに素材の味を味わえる塩を少量だけ振りかけるのが好きだ。野菜本来の味が俺の世界のものよりも強いから、それだけで本当においしい。
あと素揚げには塩もいいが、ショウガ醬油も最高である。前にネットでレシピを調べていたら、揚げたあとに出汁と醤油などで作ったつゆに漬けて食べる揚げびたしもうまそうだったな。家に帰ったらやってみるとしよう。
「さて、これが今日のメイン料理のクラウドワイバーンのステーキだ!」
「良い香り!」
「キュキュキュウ!」
野菜を食べたあとはいよいよメイン料理のクラウドワイバーンの肉である。今回は野外でそこまで調理道具が使えるわけでないため、シンプルな調理方法であるステーキにした。
解体した肉を受け取る際にどの部位がおいしいのかを聞いてある。さすがに牛ならともかく、ワイバーンの肉の部位なんてさっぱりだからな。こいつはクラウドワイバーンの腰の部分で、牛でいうとサーロインとかランプとか呼ばれる部位だったか。
以前にA5ランクの松阪牛を焼いた時と同じよう、強火で両面を焼き上げてから弱火で中まで火を通し、野菜を食べている間にアルミホイルを被せて少し休ませておいた。
アルミホイルを取ると、美しい焦げ目の付いたクラウドワイバーンのステーキが現れ、辺りに香ばしくうまそうな香りが漂ってくる。あの巨大で恐ろしかったクラウドワイバーンの肉はどんな味がするのか楽しみだ。いざ、実食!
「おおっ、これは最高だ!!」
「キュウ、キュキュウ♪」
ステーキにナイフを入れると肉は何の抵抗もなくスッと断ち切れる。中はしっとり柔らかで、噛むほどに肉汁が弾け、周囲のなにもかもを忘れてしまうほど至福の味が舌の上に広がっていく。
クラウドワイバーン特有の野性的な風味と力強さは前に食べたステーキ以上の味だ。まさかあの味を超えることができるとは思ってもいなかったぞ。あんなにでかいからといって肉の味が大味になるというわけではないらしい。
「………………」
「リリス、大丈夫?」
なぜかリリスがステーキをフォークで口元に運んだままフリーズしている。
「もしも口に合わないようだったら――」
「おいしい!!」
俺がリリスに声をかけようとした瞬間、いきなりリリスが再起動して一気にステーキを平らげた。
なんだ、おいしくて固まっていただけか。確かに俺もそれくらいの衝撃があったもんなあ。
「すごくおいしかった。クラウドワイバーンは以前に食べたことがあるけれど、その味とは全然違う。いったい何をしたの?」
「何をというか、俺の世界の焼き方で焼いてみただけだよ。もしかしたらワイバーンの個体の差もあったりするのかな?」
「そんな次元の話じゃなかった」
「そっか。一応肉の厚さや火加減、塩コショウの量とかいろいろと細かいところに気をつかって料理したからかな」
肉の厚さも以前デパートの人に聞いた通り3センチメートルくらいにしたり、いろいろと気をつかった部分も多い。
この世界の屋台では肉の切り方や焼き方が結構大雑把だ。きちんと料理すると肉の味はだいぶ違うのかもしれない。そういえばリリスは以前ステーキを食べた時にいなかったもんな。
初めてちゃんとしたステーキを食べた衝撃もあるのだろう。
「1枚全部食べちゃったな。まだ別の味もあるから、もう少し焼こうか?」
「お願い!」
「キュ!」
2人ともまだ食べられるようだ。俺もあまりにおいしいから、もう1枚くらい食べられそうだな。今回は肉の味をしっかりと味わうために塩コショウだったが、今度は違う味で食べてみるとするか。