第51話 帰るまでが遠足
「いやあ~本当に楽しかったな」
「キュキュウ~♪」
街の市場を回って、さらに追加でいろんなものを購入した。
この市場だと商店では販売していない珍しい食材も売っていたので、ついいろいろと買ってしまったな。まあその分味はあまり期待できないらしいけれど、掘り出し物の食材なんかもあるかもしれないからな。
他には古着なんかも購入した。この街ではあまり目立たないかもしれないけれど、やっぱりベリスタ村へ行った時には少し目立っていたし、念のために購入しておいた。市場で売っていた服は基本的に古着だったが、この世界で服は新品ではなく古着で買うことも多いらしい。
……どの店員さんも支払いの際に少女姿のリリスがお金を渡すと微妙な顔をしていた。うん、その件については諦めるとしよう。俺が大金を持ってこの街を歩く方が怖いものな。
「屋台の料理もやっぱり微妙だった。早くケンタが作ってくれた料理が食べたい」
「クラウドワイバーンの肉はどんな味がするんだろうね?」
「キュキュ!」
市場で買い物を終えたあとは冒険者ギルドで解体したクラウドワイバーンの肉や素材の一部を受け取った。食用部分の素材で使用しない部分だけでも結構な金額になったようだ。
ジャラジャラと大量の金貨の袋が出てきたときには驚いたな。この世界ではお釣りや買取金額を誤魔化される可能性があるので、ちゃんと金貨の数を数えなければならない。あれだけ大量の金貨が並べられると、こちらの世界で高額な金貨は全部でいくらになるのか考えてしまう。
それにしても冒険者ギルドからの受け取るお金でも気をつけないといけないなんて、大変な世界である。
「今日の晩ご飯で早速食べてみたいな。ここまで遠かったけれど、リリスのおかげで本当に楽しめたよ、ありがとう!」
「キュウ、キュキュウ♪」
「2人に楽しんでもらえて良かった。これまでケンタにいろいろとお世話になっていた分を少しは返せた?」
「ああ、もちろんだよ」
冒険者ギルドを出て屋台街で昼食をとり、レジメルの街を出発した。
ここまでの道のりは大変だったが、異世界の街を楽しむことができ、俺の世界とは一味違った料理を味わうことができて大満足だ。リリスには街への移動や街でのお金をすべて払ってもらい、とてもお世話になった。
湖の小屋で俺がリリスにいろいろと協力していたことを気にしていたのかもしれない。俺としてはあの鏡を使わせてもらっているだけで、リリスにはとても感謝しているんだけれどな。
なんにせよ、レジメルの街をとても楽しむことができた。この街には観光地のようなものはないらしいから、今度は異世界のそういった場所へ行ってみてもいいかもしれない。異世界の観光名所がある街というのも楽しそうだ。
……ただ飛行魔法での移動方法が地味にきついんだよなあ。帰りも空を飛んで湖まで戻るのはちょっとだけ憂鬱だ。それに行きではクラウドワイバーンに遭遇したし、帰りも油断せずにいこう。帰るまでが遠足である。
「今日はここまで」
「長時間お疲れさま、リリス」
「キュウ!」
街を出て少し離れ、行きと同じようにハリーにはキャリーケースへ入ってもらって、リリスの飛行魔法で運んでもらった。
数時間飛んで、行きも通った広い森の中にある川の横に到着した。予定通りいけば明日の日が暮れる前には湖の小屋へと帰れるはずである。
「俺はテントを建てて晩ご飯を作るから、リリスは休んでいてね」
「うん。悪いけれどお願い」
今日は午後からの出発だったし、行きの時よりも疲れていない。
あの時は疲れていてカップラーメンだったからな。今日はたくさんの食材もあることだし、気合を入れて晩ご飯を作るとしよう。
「よし、こんなものかな」
「キュウ~!」
アウトドア用のテーブルの上に料理を並べる。森の中だけれど、リリスが作ってくれた例の魔導具のおかげで人や魔物が近付くことなく料理をできるのは助かるな。
「いろんな野菜が並んでいる!」
「まずは街で購入してきた野菜からだ。こっちの皿は生、そっちは焼いたもの、最後は素揚げしたものだよ」
「素揚げ?」
「熱した油で揚げる調理方法だよ。前に作った唐揚げと似ているけれど、衣はつけずにそのまま食材を揚げるんだ」
素揚げとは小麦粉や衣を付けずに170~180℃の油でそのままカラッと揚げる調理方法だ。素材の味や食感をそのまま味わえるのが特徴だ。今回は俺の世界では見慣れない野菜ばかりだし、まずは生と焼きと揚げで素材自体の味をじっくりと味わうことにしてみた。
生食できる野菜は店で購入してきたもので、市場で購入してきた野菜は念のためすべて熱を通している。別皿に塩、マヨネーズ、味噌、ドレッシング、ショウガ醤油などを並べてある。リリスの収納魔法はかなりの容量が入るらしいので、調味料だけはたくさん持ってきて正解だったようだ。
さて、どんな味がするのか楽しみだ。