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第5話 異世界の情報


「夢……じゃないよな。むしろ全部が夢だったと言われてもそっちの方が信じられそうだ」


「キュウ?」


 首をかしげて可愛らしい様子を見せるハリネズミ。


 仮想通貨で大金を稼いでブラック企業を辞め、田舎に家を買ったら別の世界へと続く鏡を発見してクマもどきやゴブリンに追いかけられた。仮想通貨で大金を稼いだところまでは現実であってほしい。


「あの鏡を通ってこっちの世界に来たのか?」


 前にあの鏡を調べた時、あの鏡の大きさを超えるものは持ち込むことができなかった。少なくともあのクマもどきのような大きな生物は通れないことが分かっていたが、このハリネズミやゴブリンのような大きさの生物は通って来られるみたいだ。


「キュウ!」


「………………」


 ハリネズミが俺の問いに頷いた。


 昨日も俺が小屋の外で待っていてほしいと伝えたところ、俺の言う通りに待っていてくれたし、まさか――


「もしも俺の言葉がわかるのなら、右手を挙げてくれないか?」


「キュウ!」


「マジか……」


 俺の言う通りに立ち上がり右手を挙げるハリネズミ。


 これはもう完全に俺の言葉を理解している。もはやなにが起こっても驚かないぞ……。


「はあ……これからどうするか考えていたんだけれどな。まあいいや、とりあえず朝食を食べるんだが、おまえもお腹が空いていないか? 昨日の果物で良ければご馳走するぞ」


「キュキュウ!」


 再び右手を挙げるハリネズミ。


 どうやらこの子もお腹がすいているようだ。いろいろと考えなければならないことは多いが、まずは腹ごしらえからだ。




「よし、できた」


「キュ~♪」


 ハリネズミの方は昨日と同じでリンゴをカットしたものだ。牛乳は飲めるかなと思ってネットで検索してみたが、むしろ身体に悪いらしい。今家にあるものだとリンゴくらいだ。


 俺の方はというと、サラダ、トースト、ベーコンエッグ、コーンスープだ。ブラック企業に勤めていたころの朝食は時間効率を考えてシリアルばかりだったが、会社を辞めたあとはちゃんとした食事を作るようになった。


 さすがにコーンスープはインスタントだが他のはちゃんと自分で作った。お金はあるからこそ、ちゃんとした食材を使って自炊をしている。


 テーブルの上にハリネズミの分のリンゴを皿の上に載せてあげると、器用に椅子を登ってテーブルの上に立つ。


「いただきます」


「キュキュ」


 両手を合わせていつものいただきますをすると、ハリネズミも両手を合わせる。俺の真似をしただけだろうけれど、随分と賢いことだ。


「うん、うまい」


 カリっとしたベーコンの上にある半熟卵の黄身がトロリとこぼれ、それがまたバターを塗ってサクッとしたトーストによく合うのである。ちなみに俺は目玉焼きは醤油派だ。異論はいくらでも認めよう。俺も昔はソース派だったし。


「キュウ♪」


「うまいか。このリンゴは結構いいやつだからな」


 おいしそうにリンゴを頬張るハリネズミ。


 昔なら安売りのリンゴを買うところだが、今は少しリッチなリンゴを買えるようになったからなあ。


「キュキュウ」


「えっ、もしかしてベーコンエッグも食べてみたいのか?」


「キュウ!」


 リンゴを食べていると、俺の朝ご飯に興味を持ったのか、じっと俺のベーコンエッグを見つめてきた。本人に聞いてみると、頷く。


 昨日ネットで調べたところ、ハリネズミは雑食だから大抵の食べ物なら食べられるはずだけど……。いや、そもそも異世界の生き物だから何を食べても不思議はないか。


「わかった。ちょっとずつ食べてみて問題なさそうならもっと作ってあげるよ」


 別のお皿をもってきて、俺が食べていた朝ご飯を少しずつ取り分けてあげた。


「キュキュウ♪」


「……大丈夫そうだな。ちょっとだけ待っていてくれ」


 今日用意した朝ご飯はどれも食べられるらしい。一応材料はまだ残っているから、俺と同じ朝ご飯を作ってあげた。


「ごちそうさまでした」


「キュ~♪」


「……ちっちゃいのによく食べたなあ」


 結局ハリネズミは俺と同じ朝ご飯を食べきった。リンゴの分もあるから、俺よりも食べていることになる。この小さな身体によくこんな量が入ったものだ。


「これからどうするかなあ。そうだ、せっかく俺の言葉がわかるんだから、いろいろと教えてくれ」


「キュ!」


 あんなに危険な生物がいるのなら、もう鏡の向こうの異世界へは行かないつもりだったのだが、まずはこの子から異世界のことを教えてもらうとしよう。




「……なるほど、俺以外の人もいるけれど、言葉がわかるのは俺だけってことか」


「キュウ!」


 ハリネズミが頷く。


 どうやら異世界にはいろんな種族が暮らしているらしく、俺のような人もいっぱいいるらしい。だが、その中でも言葉が理解できるのは俺だけのようだ。もしかすると俺がこの子の世界とは別の世界の住人ということが関係しているのかもしれない。


 他にもいろいろなことを聞いた。あの湖の近くにも人の住む集落が存在するようだ。そしてあのクマもどきやゴブリンのような生物もいるらしい。


 あんな危険な生物のいる世界だけれど、ハリネズミは防御に特化しているからこれまで生きてこれたのだろう。


「う~ん、異世界には興味があるんだけれど、さすがに怖いからどうしたものかな。あの見えない壁のことも結局わからなかったし……」


「キュウ……」


 この子もあの見えない壁のことについては知らないらしい。俺と一緒で特に何もなく通ることができたらしい。


 異世界に行ってみたいという気持ちはあるけれど、もうあんな怖い思いをしたくない気持ちの方が強い。もうちょっとあの異世界のことを調べてみたいけれど、鏡のある小屋からあんまり離れたくないんだよなあ……。


 そうだ、ここは文明の利器を使うとしよう!


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