第47話 異世界の宿
「いらっしゃい。うちの宿は晩ご飯と朝ご飯が付いて一人銀貨8枚だよ」
「ケンタ、ハリー、ここでいい?」
「うん、リリスに任せるよ」
「キュウ!」
少し歩いて宿が立ち並ぶ通りへとやってきた。その中でも結構立派な宿へと入っていく。
異世界の宿の相場なんてわからないので、ここはリリスに任せるとしよう。
「おおっ、思ったよりも立派な部屋だね」
「キュキュウ」
案内された部屋はかなり広く、ベッドが2つあった。
昨日と同様にリリスと一緒の部屋である。まあ、今日は昨日のテントほど狭くないし、ベッドも離れているから昨日よりは大丈夫だと思うけれど。
「一人銀貨8枚ならこんなもの。冒険者用の宿は食事なしで銀貨2枚で泊まれるけれど、防犯に問題があるからこっちにした」
「うん、俺もそっちの方が助かるよ。でもそんなに安く泊まれるんだね」
銀貨1枚が千円くらいの計算だから、たったの2千円か。昔は地球の世界もシングルルームなら3~4千円で泊れていたけれど、今は物価高の影響で1泊1万円もするもんなあ……。どうやら宿事情はこちらの世界の方が安いみたいだ。
ちなみにハリーは半分の値段で合計金貨2枚となった。魔物も宿に泊まることができるけれど、何かを壊したりしたら弁償しなければいけないらしい。
あと宿の女将さんは俺たちを見て少し困惑していたな。年頃は兄妹か親子に見えるけれど、リリスはエルフでハリーはいるし、お金はリリスが払ってくれたから俺はどんな関係なんだと思われたかもしれない。……まあ、その辺りは触れないようにしておこう。
「これで準備は整ったよね。早く市場に行ってみたいな!」
「キュ!」
「2人とも興奮しているみたいだけれど、スリや強盗も多いから気を付けるように」
「了解だよ」
「キュキュ」
ぶっちゃけ街に入ってから俺のテンションは上がりまくりだ。やはり異世界の街というのは歩いているだけで興奮してしまう。通りだけじゃなく、冒険者ギルドには屈強な冒険者がいたし、解体場などもすごく見ごたえがあった。
少し危険な思いもしたけれど、すでに異世界の街までやって来てよかったと思えている。しかもこれから行くのは街の市場だから、さらに楽しみだ。
だけどリリスの言う通り、悪人の多い世界だし、飛行魔法で飛んでいるよりも危険かもしれない。リリスとはぐれたら大変だし、これまで以上に気を付けていこう。
「おお~これはすごい人だ!」
「キュウ!」
宿を出て道を抜けると街の入り口の通りよりも人が多い大きな通りへとやってきた。
道は広いが馬車などは通行禁止なのか一台も通っておらず、いろんな種族の人が大勢歩いている。
「ここは料理などを売っている屋台街」
「だからこんなにいい匂いがするんだね」
通りの両端には屋台がずらりと並んでいて、まるでこっちの世界の縁日や初詣へ行った時に並んでいるお店のようだ。どの店も料理を売っているようで、とてもおいしそうな香りが漂っている。
「晩ご飯は宿で出てくるけれど、少しだけ何か食べようか?」
「キュ!」
「了解」
俺の右肩に乗っているハリーと隣にいるリリスが頷く。これだけ周囲からおいしそうな香りが漂っているのに何も食べずにいるのは不可能だ。
人が多いからはぐれないように気を付けないと。
「そこの美人なお姉さん、うちの店の串焼きは絶品だよ!」
「お兄さん、うちの特別製の煮込みを食べていってよ!」
なるほど。店やお客が多い分、お店ごとの呼び込みは激しくなるわけか。
「あら、そこの……可愛い魔物を連れたお兄さんとお嬢さん。ワイルドディアの串焼きは1本銅貨5枚よ。おひとついかが?」
とある屋台の女性の店員さんに呼び止められた。少し言い淀んだのは魔物を連れたハリーとエルフの少女であるリリスが一緒にいてなんと呼ぶか迷ったのかもしれない。俺も他の人とは少し異なる服を着ているし、今更ながら変わったメンバーだものな。
屋台をのぞき込んでみると、ジュウジュウと焼けていい匂いのする串焼きが並んでいる。
おいしそうだし、リリスに頼んで買ってもらうおうかな。
「3本もらう」
「まいどあり!」
俺がリリスに頼もうとしたところで、それを察してかリリスがお店の人にお金を渡す。
俺も緊急用のお金はもらっているけれど、あまり大金を持つと狙われるかもしれないので、基本的には支払いはリリスに任せている。……傍から見たらリリスのヒモみたいに見られるかもしれないが、この際安全性を重視しよう。
屋台の横には座って食べることのできるベンチがあったので、そこに座りながら購入した串焼きを食べる。
「うん、ジューシーかつ野性味のある味でなかなかおいしいね」
「キュウ!」
味付けは塩のみのシンプルな料理だけれど、なかなかいける。これで銅貨5枚だから500円くらいか。
グロウラビットやダナマベアには劣るかもしれないが、屋台で出すお肉なら十分だと思う。
まだもう少しお腹に入りそうだから、別の屋台も見てみるとしよう。