第46話 冒険者ギルドマスター
「食べられる部分はすべてこっちで引き取る。角以外は全部売却で」
「クラウドワイバーンだと、爪や牙はかなり貴重な素材になるけれど、本当にいいのか?」
「問題ない」
「了解だ。今日中には終わらせる。久しぶりの大物だし、腕が鳴るぜ」
そう言いながら腕をまくるノコギリを持ったおっちゃん。やはり大きさが大きさだけに結構な時間がかかるようだ。明日の朝以降にもう一度ここまで来ればいいらしい。
「あの、リリス様。少しだけお時間をいただけないでしょうか?」
先ほどからどこかへ走っていなかった職員さんがこちらに戻ってくる。
「なに?」
「その、当ギルドマスターがご挨拶をさせていただけないかと……」
「今は連れもいる」
「ほ、ほんの少しだけでも大丈夫です! ぜひともよろしくお願いします」
「俺たちは大丈夫だよ、リリス」
「キュ?」
ギルド職員の女性が必死にリリスや俺たちに向かって頭を下げる。
さすがにこの状況でノーといえないのは気の弱い俺の良くないところだ。まあ、挨拶だけと言っているし、そこまで時間は取られないだろう。
「……わかった」
「ありがとうございます」
職員さんに案内されて、先ほどまでいた冒険者ギルドへ戻って来て、2階のとある部屋へと案内された。
「初めまして、リリス殿。ギルドマスターのセレナだ」
その部屋にいたのは細身で長身の紫色の髪をした女性だった。下にいた女性の冒険者とは異なり、こちらの世界のスーツのような服装をしていた。
……意外だ。冒険者のギルドマスターというからにはもっとムキムキのマッチョだと思っていたけれど、そんなことはなかった。リリスもAランク冒険者だし、どうやらこっちの世界では腕力や性別などの外見はあまり関係ないらしい。
「リリス。こっちは連れのケンタとハリー」
「ケンタです」
「キュウ」
「初めまして、セレナだ。おや、こっちの魔物は……」
「えっと、俺の友人なんです。いきなり人を襲ったりはしませんので」
「……いや、失礼した。なんでもないよ」
セレナさんがハリーさんを見て少し言いよどむ。そういえばリリスもハリーは見たことがない種類の魔物みたいだったし、この付近には生息していない魔物なのかな?
「それで、用件は?」
「ああ、いきなり呼び出してしまってすまなかった。実はリリス殿にひとつお願いがあるんだ」
「今は忙しいから無理」
セレナさんのお願いの内容を聞く前にバッサリと断るリリス。
ギルドマスターを相手にしてそんな対応でいいのかな……。
「いや、お願いというよりは聞きたいことがあるというべきか。正確に言えばリリス殿の師匠のことなんだ」
「師匠の?」
「ああ、リリス殿は彼女が今いる場所を知らないだろうか? 実は彼女宛の国からの依頼と彼女からの被害報告がいくつか上がっていてね。早急に連絡を取りたいところなんだ」
リリスの師匠? あの鏡を一緒に作ったという人物か。まだリリスからそこまで詳しく聞いていなかったけれど、どうやら女性だったらしい。
……というか、国からの依頼とか被害報告ってなんなんだ?
「私も知らない。むしろ師匠を見つけたら私にも知らせてほしい」
「そうか、リリス殿も知らないのか。わかった、どこかの街で見つかったらこの冒険者ギルドへ連絡が入るよう手配しておこう。その代わりにリリス殿も彼女の居場所が分かったら、こちらにも教えてくれないだろうか?」
「そういうことなら了解。そちらへの連絡手段を渡しておく」
「助かるよ。魔法使いとしての腕は本当にすばらしいのに、いつもどこかをふらついていて……おっと、弟子のリリス殿の前で失礼した」
「気にしていない。それは私も常々そう思っている」
「そうか……」
……セレナさんとリリスが2人でため息を吐いている。というか、本当にどんな人物なんだろうな?
「キュウ?」
ハリーは2人の言葉がわかっていないから不思議がっているけれど、俺もあまり詳しいことは聞くのが怖い気もする。
セレナさんがリリスを呼んだ理由は本当にそれだけだったみたいで、俺たちは冒険者ギルドから出た。
連絡についてはリリスが鳥の模型みたいな魔道具をセレナさんに渡していた。手紙を持たせて飛ばせると、リリスが指定した座標である湖の小屋まで運んでくれるらしい。さすがに電話やメールまではいかないが、便利な魔道具があるものだ。
解体所に預けたクラウドワイバーンは明日の朝までに解体を終わらせてくれるらしい。買い取ったお金もその際に渡してくれるそうだ。
「まずは宿を確保する」
「了解だよ」
冒険者ギルドを出てそのまま市場へ向かいたいところだったけれど、先に宿を確保するらしい。
確かに旅をする時は宿の確保は必須だ。特に事前に予約ができないこの世界ではリリスの言う通り先に確保しておいた方がいいだろう。漫画喫茶とかもないだろうし、宿を取れなかったら街の中で野宿とか最悪だからな。