第43話 朝ごはん
「ごちそうさま。やっぱりケンタの世界のラーメンは至高の味」
「キュウ~♪」
「ごちそうさま。2人とも満足してくれてよかったよ」
結局カップラーメンとサラダにおにぎりを1個食べてお腹がいっぱいだ。2人もおにぎりを食べて満足してくれたらしい。特にハリーは小さな身体なのに本当によく食べるよなあ。
「このランタンもすごく明るい。明かりの魔道具だとここまで明るくならない」
「これも電気を使っているんだよ」
晩ご飯を食べている間に日が落ちて周囲が暗くなってきたので、スタンドにランタンを吊るして明るくしている。最近のキャンプ用のランタンは本当に明るいと俺も思っていたところだ。
「でも明かりは虫や生き物を集めるから、今日はもう寝る」
「うん、了解だよ。明日も朝早くに出るもんね」
「キュ」
晩ご飯を食べ終わった後はすぐに寝ることになった。魔道具の結界があるとはいえ、虫は通れるからすでに集まってきている。
疲れもあることだし、早く寝て明日に備えるとしよう。
「……それじゃあおやすみ」
「キュウ~」
「おやすみ」
同じテントの中で隣にはハリー、そしてその隣にはリリスが寝ている。
そう、このテントはファミリー用で大きいとはいえ、同じテントの中でリリスと一緒に寝ることになった。街まで移動する際に野営をすると聞いて、テントを2つ用意するか聞いたところ、非常時にすぐに行動できるよう同じテントで寝た方が良いと言われた。
ハリーがいるとはいえ、女性と一緒に寝るというのは非常に緊張する……。リリスの見た目は少女だが、実際の年齢はもっと上みたいだからな。
リリスの方はあまり気にしていないみたいだけれど、男として見られていないのか、俺を信頼してくれているのか、異性とあまり接したことがないのかよくわからない。
隣にハリーがいてくれて助かったとも言える。もちろんこの状況で俺が何かするわけはないけれど、これだけ近いと少しだけ意識してしまう。
う~ん、明日も朝早く移動する予定だし、ちゃんと寝られればいいんだけれどなあ……。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「ふあ~あ」
昨日の心配を他所に一瞬で寝られてぐっすりと眠れたようだ。
疲れていることもあったけれど、俺はだいぶ図太いみたいだな。というか、昨日の恐怖と疲れで思った以上に心身が疲れていたのかもしれない。
「キュウ!」
「おはよう、ケンタ」
「おはよう、ハリー、リリス」
どうやら2人とも、もう起きていたようだ。
リリスの方はまだ起きたばかりなのか、目を擦って眠そうにしている。……エルフの少女の寝起き姿というのも貴重なものだ。
「ケンタが貸してくれたマットと寝袋は寝心地がよかった」
「それはよかったよ。最近のこういった道具はだいぶ使いやすくなっているみたいだね」
アウトドアショップで購入してあるマットや寝袋の寝心地はだいぶよかった。
「今日もいい天気みたいだ」
テントを開けて外に出ると、見事な晴天だった。リリスの魔道具のおかげか、魔物に襲われるようなこともなかったらしい。
「焼けたパンの中にいろんな食材が入っていて、すごくおいしい!」
「キュウ!」
「パンに食材を挟んで両面を軽く焼いたホットサンドっていうんだよ」
今日の朝ご飯はホットサンドとサラダだ。
食パンに食材を挟んで、ホットサンドメーカーという2枚の鉄板に入れて、ガスバーナーで焼いて作ってみた。外側はトーストのようにサクッとして、中からはアツアツになった中身がよく合っている。
ハムとチーズとケチャップを挟んだホットサンドはかなりシンプルだけれどおいしいな。なるほど、溢れる自然の中で食べる朝食というのもいいものだ。キャンプが好きな人の気持ちがよく分かる。
「ケンタが飲んでいるのはなに?」
「キュウ?」
「ああ、これはコーヒーという飲み物だよ。俺も普段は飲まないんだけれど、こういう時にはいいかと思ってさ」
普段はあまり飲まないけれど、野営をする朝にはちょうどいいと思って持ってきた。まあ、本格的な物じゃなくてお湯に溶かすだけのインスタントだけれどな。
自然の中で飲むコーヒーというのも悪くない。このほろ苦い味がホットサンドによく合っている。
「苦い……」
「キュウ……」
「慣れてくるとこの香りと苦みが癖になってくるんだけれどね。あっ、無理して飲まなくていいから。こっちの飲み物の方が甘くて飲みやすよ」
「こっちは甘くておいしい!」
「キュキュウ♪」
俺が飲んでいるコーヒーは口に合わなかったので、リリスにお湯をもらってインスタントココアを作ってみた。
どうやらこっちは2人とも大丈夫なようだ。俺も久しぶりにココアを飲んだけれど、甘くて温かくてほっとする。いつもの湖にある小屋の前で食事をするのも良いが、たまには別の自然溢れる場所で過ごすのも悪くないかもしれない。
まあ、リリスとハリーが一緒にいてくれて安全面が確保されているからこそ楽しめているのだろうけれど。