第42話 野営
「リ、リリス。今の魔法は?」
「障壁魔法でクラウドワイバーンの衝突を止めた。その後は風でできた見えない刃を放つエアカッターという風魔法」
「な、なるほど……」
障壁魔法はバリアのような魔法か。あの見えない壁の結界のようなものだろう。いくつか魔法は見せてもらったけれどあれらの魔法は初めてだ。
そして先ほどのワイバーンの固そうな首を落としたのは風魔法か。不可視の障壁に刃か。リリスが説明してくれなかったら、何が起きたのかまったくわからなかったな。
「実際に戦っているのを見たのは初めてだけど、リリスは本当に強いんだね」
「キュキュウ!」
「……それほどでもない」
俺とハリーに褒められて、少し照れているリリス。
……いや、その姿は可愛らしいのだけれど、目の前にある大きなワイバーンの死骸を見ると、とても謙遜しているようには見えないくらい強かったぞ。
「今日はこの辺りまで。予定通り、明日日が暮れるまでには到着できそう」
「お疲れさま、リリス」
「キュウ!」
クラウドワイバーンの死骸はリリスが収納魔法によって収納した。あれだけ大きな物であっても全部収納できるとは本当にすごい。素材や食材としても優秀らしく、街で解体をしてもらう。
道中話を聞いたところ、一部の魔物は魔力に敏感で、魔力の強い人や魔物を襲うらしい。そんな魔物がこの世界にたくさんいるのかとも思ったが、そんな魔物はかなり稀らしい。
……ダナマベアに遭遇したことといい、俺はあまり運がないのかもな。ハリーに出会ったことは運が良かったと思うけれど。
「この魔道具があれば湖の小屋と同じで、人や大きな魔物は気付けないし、入って来られない」
「これがあれば夜は見張りをしないですむんだね。とても助かるよ」
「キュ」
リリスが収納魔法から取り出してくれたキューブ状の魔道具は小屋の結界と同じ効果のある魔道具のようだ。ただし、小屋に設置してある結界は周囲から魔力を吸収していたが、この魔道具は魔石によって動いているらしい。
予備の魔石もあるようだし、この魔道具のおかげで夜はゆっくりと休めそうだ。あのワイバーンやダナマベアみたいな魔物が存在するこの世界で普通に野営なんてしたくないものな。
「私も手伝う」
「ありがとう、こっちのテントは少し設置が面倒だから、テーブルとイスの設置をお願いするよ」
収納しておいたテントやテーブルやイスを取り出して設営を始める。
アウトドア用のテントは少し大きめの物を買って家の庭で一度建ててみたけれど、設営が結構難しい。もう少し簡単なテーブルとイスの設置をお願いした。
「……本当はなにか作るつもりだったんだけれど、今日はカップラーメンでいいかな?」
「もちろん大丈夫!」
「キュ!」
テントやテーブルの設営が終わり、晩ご飯を作ろうと思ったのだが、思ったよりも身体と精神が疲れているらしい。
途中からはリリスに飛行魔法で運んでもらったわけだけれど、想像以上に疲労が激しい。やはり最後にクラウドワイバーンと遭遇したことで、一気に疲労を意識したのだろう。午前中はマウンテンバイクを1時間半以上漕いでいたわけだしな。
連続でラーメンになってしまって申し訳ないが、今日は料理を作る気にはなれなかった。
「次はこれを食べようと思っていた」
「味噌味か。俺は何にしようかな。ハリーはどうする?」
「キュキュウ」
リリスがテーブルの上に出してくれた様々なカップラーメンの中から、某北海道の有名なラーメン監修のカップラーメンを選ぶ。醤油、豚骨醤油は食べたことがあるから、新しい味に挑戦してみるようだ。
ハリーは塩ラーメンを選ぶ。最近のカップラーメンはパッケージに完成したイラストが描かれているから、それを見て選んだようだ。
「それじゃあ、俺も違う味にするか」
せっかくならみんな違う味の方が良いかなと思い、カレー味のヌードルにした。他にも博多豚骨、シーフード、担々麺にチキンラーメンなど、最近のカップラーメンは本当にいろんな種類があるなあ。
「リリス、お湯をお願い」
「了解」
お湯の方はリリスが魔法で出してくれた。キャンプなら火を起こしてお湯を沸かすところだが、リリスは魔法ですぐにお湯を出せる。本当に魔法は便利だ。
「3分間の間にサラダくらいは作るか。それでも足りなかったら、多めに作ったおにぎりもあるからね」
せめて多少野菜はとっておかないと。
カップラーメンだけだと少ないかもしれないので、おにぎりも用意しておく。朝がんばっていっぱい作っておいたかいがあった。
「すごい、前のラーメンとは味が全然違う!」
「キュウ、キュキュウ♪」
「本当にカップラーメンはいろんな種類があるからね」
出来上がったカップラーメンをみんなですする。
心身共に疲れ切っていたこともあって、塩分の効いたカップラーメンの味は沁みるなあ。特にこのカレーヌードルはスパイシーなスープが最高である。
「……ケンタのはすごくいい香り。少しもらってもいい?」
「ああ、もちろん。そういえばまだカレーは食べたことがなかったよね。ラーメンと同じで俺の世界で有名な料理だから今度作るよ。ハリーも食べてみるか?」
「キュウ!」
そんな感じでお互いのカップラーメンを少しずつシェアした。
なるほど、こうやっていろんな種類のカップラーメンをみんなでシェアして食べるのも悪くないものだな。