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第32話 日本酒


「俺とハリーはザイクたちのほうへ行くけれど、リリスはどうする?」


「キュ!」


 約束した通り、ベリスタ村のみんなが俺を訪ねてきてくれたみたいだ。


「私はここでいろいろと調べているから大丈夫」


「了解だよ」


 確かに初対面の人といきなり話すというのも微妙か。リリスについてどう説明するかも考えていなかったし、今回は俺一人で行った方がよさそうだ。




「ザイク、ビーター、待たせてしまったな」


「キュウ」


「おう、ケンタ、ハリー。なあに、いきなりお邪魔したのはこっちだから気にするな」


「ああ、お邪魔させてもらっているよ」


 俺が設営していたテントの前にいたのはベリスタ村のザイクと一緒に酒を飲んで仲良くなったビーターだった。


 リリスから聞いた話によると、この結界は見えない壁の中を認識できなくなる魔法がかけられているらしく、小屋や俺たちがその中にいたことがわからなくなるらしい。


 俺の場合はいきなり結界の中へ入ったこともあり、最初に小屋を認識していたため、結界の中が認識できるようだ。それとウサギや小魚など、ハリーのような小さくて敵意のない魔物にまでは結界の認識阻害の効果は発動しないらしい。


 そのため、小屋の方からいきなり俺たちが出ると驚くだろうし、認識阻害の効果がなくなってしまうので、少し離れた草原の方からテントへと近付いた。


「こいつは土産だ。この前はうまい酒をいただいちまったからな。うちの村で獲れた干し魚とこっちのクロウラビットはここに来るまでにたまたま見つけたから狩ってきたんだ」


「それはすごいな。ありがたくいただくよ」


 ザイクから渡された包みに入っていたのは薄いピンク色の肉だった。すでに解体されて内臓などの部分は取り除かれている。ありのままのウサギだったら少しグロかったかもしれないけれど、すでに部位ごとに分けられているから大丈夫だ。


 干し魚の方は以前村を訪れた時にももらったな。脂がのっていて大根おろしと醤油をかけて食べたら本当にうまかった。


「わざわざ来てもらって悪かったな。まあかけてくれ」


「変わった椅子だな……。おおっ、なかなか座り心地がいいぜ」


「ああ、こいつはいいや。それにこのテントの形は初めて見る。ケンタの故郷は進んでいるんだな」


「確かに俺の故郷の野営道具は進んでいるのかもな」


 内面では少しドキドキしている。一応アウトドアショップで少しレトロな雰囲気のテントやイスを選んだつもりだったが、これでもまだこちらの世界では目立ってしまうらしい。


 別の国から来たというのも嘘ではないし、このまま押し通すとしよう。


「それにしてもこんな場所で過ごしていて大丈夫なのか?」


「ハリーがいるから大丈夫だろう。ビーターは見ていなかったが、ダナマベアを倒した時は本当にすごかったんだぞ」


「そうだな。俺だけじゃ絶対無理だけれど、ハリーは強いから大丈夫だ」


「キュウ♪」


 実際のところはリリスの結界のおかげなんだけれど、ハリーがとても強いのは事実だからな。


「今日は俺たちもここに泊めてもらおうと思っているんだが大丈夫か?」


「ああ、もちろんだよ」


 2人とも大荷物だと思ったけれど、今日はここに泊まるつもりだったようだ。


 ベリスタ村からここまではマウンテンバイクでも1~2時間かかったし、歩きだと日帰りはなかなか厳しいだろう。それなのにわざわざここまで来てくれてありがたい限りだ。


 日が暮れるまでにいろいろと準備をする必要があるため、手分けをして準備をする。俺とハリーは2人からもらったクロウラビットで料理を作り、2人は俺のテントの横に自分たちのテントを設営していく。


 調理道具は事前にテントへ入れてあり、この時間だから晩ご飯は一緒に食べることを予想していたので、必要な食材なんかはリュックに詰めてきた。せっかくだから肉は2人からもらったウサギの肉を使うとしよう。




「ぷはあ~前にもらった酒もうまかったが、こっちの酒もうまいな!」


「ああ、こうガツンと来る感じがたまらないよ!」


「酒精はだいぶ強いから気を付けて飲んでくれよ。いくらハリーがいるとはいえ、夜は怖いからな」


 前回村へお邪魔した時は果実酒を持っていったが、今日はザイクたちがいつ来てもいいように用意した日本酒を飲んでいる。


 ザイクたちにも小屋と結界のことは秘密にしておくため、緊急時以外は元の世界へ戻らないつもりなので、冷蔵庫で冷やしたお酒は飲めない。そのため、常温でおいしく飲める日本酒を選択したというわけだ。


 ふわりと立ちのぼる米の香り。口に含むとそのやわらかな甘みが喉をすっと抜けていく。しっとりとした旨味と、わずかな苦みが織り交ざり、先日飲んだエールとは異なる余韻が舌の上に残る。


 日本酒が初めての人でも飲みやすいように純米酒の甘口で口当たりの良いお酒を選んだので、2人も日本酒の味を気に入ってくれたみたいだ。こちらの世界の人たちに日本のお酒が受け入れられて喜ばしいところだ。


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