第21話 おいしい魚料理
「ああ~風呂はいいなあ~」
「キュキュウ~♪」
真昼間からお湯を張ってハリーと一緒に浸かる。
ハリーはいつものようにちょうど良いサイズの風呂桶に入れたお風呂のお湯の中で気持ちよさそうにしていた。
平日の昼間にこんなことができるなんて本当に幸せだなあ。よし、このままベリスタ村でもらった魚でも焼いて昼間からキンキンに冷えたビールとしゃれこもうじゃないか!
「ぷはあ~! これだよな!」
「キュキュキュ~!」
朝からマウンテンバイクを数時間漕いで疲れ切ったところでゆっくと温かい風呂に浸かり、その後に飲むキンキンに冷えたビールは最高にうまい!
ハリーも冷やしたジュースをおいしそうに飲んでいる。やはり風呂上りは冷たい飲み物だよなあ。
「うん、こっちの焼き魚もうまい」
「キュ~♪」
「ハリーもそうか。シンプルな塩味もうまいけれど、やっぱり焼き魚は醤油と大根おろしで食べるのが好きだな」
ベリスタ村の料理はどれもおいしかったけれど、全部塩味だったところをみると、あんまり調味料や香辛料が広まっていないのかもな。こっちの世界でもそういったものが世界中に広がったのは歴史的にもしばらく経ってからだったはずだ。
パリッとした皮の下に脂ののった魚の白身の淡白な味が大根おろしのさっぱりとした風味と醤油がよくあう。ピリッと辛味のある大根が絶妙に絡み、喉をすべるようにするりと消えていく。こいつがまた冷えたビールと合うんだよなあ~!
新鮮な魚だから刺身で食べたいとも思ったけれど、村の人も魚は生で食べないらしく、ネットで調べたら湖の魚には寄生虫がいる可能性が高いらしい。異世界の寄生虫とかとんでもなく凶暴そうだよな……。
「さて、お酒も飲んでしまったことだし、今日はのんびりと過ごすか。ハリーはまたアニメでも見るか?」
「キュ!」
また街で買いたいものがあったんだけれど、今日は酒を飲んでしまったし、ゆっくりと過ごすとしよう。
昔からサブスクでアニメを見ていたのだが、ハリーも興味があったようで今では一緒に見ている。ハリーも俺と同じでこちらの世界の文字は読めないが、言葉は分かるらしい。
最初テレビを見た時はものすごくびっくりしていたっけ。確かにあんな薄い板から映像が流れるんだからすごいよな。昔の分厚い箱型のブラウン管テレビを知っている俺からすると今のテレビはだいぶ薄くて大きな物になったものだ。
他にも動画配信などで料理やキャンプ飯を作ったりする動画が好きらしく、あれが食べたいとリクエストをくれる。確かに料理番組で見た料理ってつい食べたくなるよな。昔は自炊する時間がほとんどなかったけれど、今では時間がたっぷりあるから時間のある料理を自分で作るのも楽しいものである。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「よし、こんなところか」
「キュッ!」
そして翌日になり、また街で買い物をしてきた。
今回はアウトドアショップで大きめかつ、この異世界にあってもおかしくないレトロなテントを購入した。
もちろん俺がこの異世界で野営をするためでない。さすがにゴブリンやクマが出歩いているこの異世界でキャンプをする度胸なんてないぞ。
「これでもしザイクたちがここに来たとしても大丈夫かな」
「キュウ」
例の見えない壁から少しだけ離れたところに購入してきたテントを設営する。ザイクは壁の内側にある小屋が見えなかったし、俺も仲良くなったとはいえあの鏡のある小屋へ招待するのはさすがに憚られた。
そのため壁の外側に仮の野営地としてこのテントを設置しておいたわけだ。ザイクたちがここに来たとしてもここで待っていてくれるに違いない。
もちろん壁の外にあるわけだからゴブリンやクマに荒される可能性もゼロではないが、食料などは一切置かないから多分大丈夫だろう。ネットで調べたら、キャンプをしていて野生動物が荒す場合は外に食料などを放置している場合が大半らしいからな。
「せっかくだし今日のお昼は外で食べようか?」
「キュッ!」
こんないい天気だし、アウトドアショップでいろんなキャンプギアを買ってきた。今日は外でまったりと料理をするようにしよう。
「よし、できたぞ」
小屋の近くまで戻り、ハリーと一緒にまったりと料理をした。今日はお土産にもらった魚と野菜を中心に作ってみた。
「おっ、良い感じだ! バターと醤油の香りがたまらないな」
「キュキュ~♪」
アルミホイルをそっと開いた瞬間、ふわっと立ちのぼる湯気とともに芳醇な香りが鼻をくすぐった。
一品目はホイル焼きだ。切り身にした魚をキノコとバターと一緒にアルミホイルへ包んで、バーベキューコンロの上にのせてしばらく待ったら完成だ。
さすがに魚を三枚におろすのは初めてだったけれど、ネットで調べたらなんとかなるもんだな。次はもっとうまくできるように練習したいところだ。
「いただきます」
「キュキュ!」
いつものように料理を前にハリーと一緒に手を合わせた。
さて、どんな味がするのか楽しみだ。
「……あなたたちは誰?」
「っ!?」
ハリーと一緒にお昼ご飯を食べようとしたまさにその時、見えない壁の中なのに後ろから突然声をかけられた。