第19話 村での歓迎
「ハリー、触っても大丈夫かな?」
「キュウ」
「触っても大丈夫だって」
「うん!」
そう言いながらザイクに抱っこされたミレルちゃんは俺の右肩にいるハリーの頭を撫でた。
ちなみにハリネズミは興奮状態になるとその針を逆立たせ、その針が刺さると痛いのだが、今のようにリラックスしている状態だと柔らかいらしい。俺も触らせてもらったのだが、本当にただの毛みたいに柔らかかったぞ。
もっともハリーの針は大きくしたり飛ばしたりできるみたいだし、普通のハリネズミとは違うのかもしれないけれど。
「えへへ~とっても可愛いね!」
「キュキュ♪」
「「………………」」
ミレルちゃんがハリーを撫でて笑っている様子を見て、なんだかザイクと一緒に和んでしまった。ほんの一月前まではブラック企業と仮想通貨のこともあってボロボロになっていた俺の心が癒されていくのを感じたぞ。
「それではケンタ殿とハリー殿の来訪を祝って乾杯!」
「「「乾杯!」」」
持っている木製のコップを村のみんなと一緒に打ち鳴らす。晩ご飯は村の中心に集まって、みんなで俺の来訪を祝ってくれた。
結局今日は一晩この村に泊めてもらうことに決めた。どうせ明日も仕事なんてないからな。無職バンザイだぜ!
「うん、おいしいですね!」
「おっ、ケンタもいけるくちだな」
ザイクにすすめられていただいた酒はエールというお酒だった。ビールのようだがキレのいい味ではないけれど、麦の味がとてもよく感じられてなかなかおいしい。昔味わった地ビールとかに似ている味だ。
もちろん冷蔵庫なんてないので冷えてなんていないが、これはこれでおいしい。異世界の酒、どんなものが出てくるのかと思っていたけれど、これはこれでいける。
「キュウ♪」
「ハリーもおいしいか」
ハリーの方はというと、果物の果汁のジュースのようだ。うちで俺が飲んでいた缶ビールに興味があったので少しあげたのだが、あまりお気に召さなかったので、こっちのジュースにしてもらった。
見たこともない紫色の果物だったので、あとで俺も少しいただくとしよう。
「むっ、ケンタ殿からいただいた果実酒はとても甘くておいしいのう」
「ええ、これならエールの飲めない私でもおいしく感じるわ!」
「気に入ってくれたようでよかったです」
そして俺も初めてザイクの村を訪れるということで、手土産として俺の世界のお酒を持ってきた。
異世界の住人にどんなものを手土産にしようか迷ったのでAIさんに任せてみたところ、お酒を提案された。お菓子とどちらにするか迷ったが、話がより弾みそうなお酒を選んだ。
お酒にも様々な種類があるが、飲みやすさを重視して俺の好きな甘めの梅酒を選び、アルミ缶から金属製の容器へと移し替えてある。アルミ缶はとても身近なものだが、実際にはアルミを極限まで薄くして完全に密閉するという結構な技術が使われているからな。
果実酒は俺の世界でもかなり昔から存在する酒だったから変に疑われることはないと思っていたが予想通りだったな。エールがあることもわかったことだし、今度はビールを持ってきてもいいかもしれない。ただ、こっちのビールはやっぱり冷やしてからこそというのもある。
「この料理もとってもおいしいですよ!」
「キュキュ!」
「大した料理ではないですが、喜んでもらえてよかったですぞ」
村で出されたのはダナマベアの肉、魚、野菜などを使った様々な料理が並んでいた。
そのどれもがお世辞ではなく本当においしかったのだ。味付けは塩味だけだからこそ、素材本来の味が伝わってくる。
「この魚は脂がのっていておいしいです。それに野菜もシャキッとした歯ごたえで甘みもあっておいしいですね」
ぱりっと焼き上がった皮は薄い焦げ目の下にうっすらと脂をにじませていて、アツアツの中身はふっくらと柔らかく、口の中でほろりとほどけて魚の味がこれでもかと主張してきた。
ほくほくとしたジャガイモやシャキッとした歯ごたえのある紫色の謎の野菜は酸味があって新鮮だ。ニンジンは青臭さの欠片もなく、ほんのりと甘い。正直に言うとニンジンはそれほど好きではないのだが、これは本当に臭みもまったくなくていくらでも食べられそうだ。
特に野菜ははっきり言って俺の世界の物よりもうまいぞ。収穫したばかりだからか、この世界の品種だからかわからないがこれは驚いた。
「何もない村だが喜んでもらえてよかったぜ」
「うむ、これほどうまい酒をふるまってもらったことですし、ぜひいろいろとお持ちください」
「ありがとうございます」
ハリーがザイクを助けたこともあって、お酒を持ってきた時も少し申し訳なさそうにしていたことだし、遠慮なくいただくとしよう。どの料理もとてもおいしいのだが、味が塩のみなので自分で料理がしたくなってしまうな。
いただいた野菜や魚を使って、いろいろと料理してみるとしよう。