第18話 ベリスタ村
「よし、マウンテンバイクはこの辺りに置いていこう」
「キュウ」
マウンテンバイクでしばらく走ると、ドローンで事前に調べておいた村の手前へと到着した。
ここに来るまでは特にゴブリンなどとは遭遇せずに無事辿り着くことができた。もしゴブリンに遭遇したとしても、マウンテンバイクの速度ならたぶん追いつかれないだろう。ここは見晴らしが良いからダナマベアみたいな大きな魔物が出てきてもすぐに見つけられそうだ。
それにしてもハリーと一緒にマウンテンバイクで走るのはサイクリング気分でとても楽しかったな。小屋の周りを走り回るだけでもいい運動になりそうだ。
「さて、安全な村だといいんだけれど……」
「こんにちは」
「キュ」
「むっ、初めて見る顔だな。ああ、黒い髪の男と背中に針のある魔物、もしかしてあんたがケンタか?」
「はい、ザイクさんの知り合いの者です」
木の柵で囲まれた集落には数十人が住んでいる。勝手に中へ入らないようにして、柵の外側から声をかけた。
ザイクさんはちゃんと俺のことを話してくれていたみたいだ。
「おお、よく来てくれた! ザイクから命の恩人だと聞いているよ。本当にありがとうな」
「いえ、ザイクさんを助けたのは俺ではなくハリーですよ」
「ああ、そうだった。ありがとうな、ハリーくん」
「キュキュウ!」
この人の言葉はわからないから、たぶん俺の言葉に反応したのだろう。
「ようこそベリスタ村へ。村長のところへ案内するよ。あとザイクを呼んでくるな」
「ありがとうございます」
どうやら検査とかもなくそのまま村へ入れてくれるらしい。きっとハリーがザイクさんを助けてくれたからだろう。良いことはしておくものだな。
「初めましてケンタ殿、ハリー殿。このベリスタ村の村長をしておりますセルムと申します。この度はザイクを助けていただきましてありがとうございました」
「いえ、とんでもないです。突然お邪魔してしまいすみません」
村の奥にあった村長さんの家へ案内してもらった。
セルムさんは真っ白な髭を生やしたおじいさんだ。
「ザイクのことだけではなく、あのダナマベアのことについても感謝しております。あやつはこの辺りを荒し回っておりましてな。害獣であるゴブリンどもを狩ってくれるのは助かるのですが、ワイルドディアやルピラビットなども根こそぎ狩ってしまうので困っておりました」
「それは何よりです」
確かにあんな大きなクマがこのあたりにいたら怖いよな。ゴブリンだけを狩ってくれたら助かるのに。
「ケンタ、来てくれたんだな!」
「ザイク、怪我はもういいのか?」
「おう、おかげさまでもう治ったぜ。ケンタの治療のおかげだな」
少し待っているとザイクがやってきた。一昨日治療した包帯を外していたけれど、もうほとんど治っているらしい。傷の治りがだいぶ早いな。
「ケンタ殿とハリー殿からいただいたダナマベアの肉も本当に感謝しております。大した物はない村ですが、ぜひのんびりとしていってください。ザイク、客人を案内してくれ」
「ああ、任せてくれ」
「ありがとうございます」
「キュウ」
「早速来てくれて嬉しいぜ。ぼろっちいが客人用の家もあるから、よかったら泊っていってくれ」
「ありがとう、ザイク。もしかしたらお願いするよ」
ザイクの案内で村の中を歩いていく。ハリーはいつものように俺の右肩に乗っている。
俺の希望で畑なんかを見せてもらっている。この村でどんな野菜を育てているのか興味があったけれど、ドローンだと細かい野菜の種類までは見られなかったからな。
どうやらこの世界でも俺の知っているジャガイモなどの野菜が存在するらしい。そして俺が見たこともないオレンジ色の丸い野菜や赤くて細長い野菜もある。もしかすると俺が知らないだけで地球上にもあるのかもしれないけれど。
「うちの村だと畑で作物を育てたり、森で狩りをしたり、湖で漁をして暮らしているんだ。食料にだけは困らないのは助かるところだ」
「なるほど」
湖があるというのは大きいな。魚を獲れるだけでだいぶ生活が楽になりそうだ。村の人たちも楽しそうに暮らしている。
昨日ドローンで見たけれど、やっぱり俺と同じ黒い髪と瞳の人はいないみたいだな。茶色や金色どころか青色の髪の人までいる。黒髪だからといってそこまで目立つことはなさそうだ。とはいえ、やっぱりよそ者が珍しいのか、たまにチラチラと見られている。
「お父さん~だっこ~」
「おおっ、ミレル! ほ~れ、高い高い! ああ、本当に可愛いなあ!」
ザイクに村を案内してもらっていると、5歳前後の女の子がこちらにやってきた。
ザイクはミレルという女の子を抱き上げ、デレデレとしている。どうやらザイクには娘がいたらしい。
「お父さん、このお兄ちゃんだあれ?」
「このお兄ちゃんたちはお父さんの命の恩人なんだ。ケンタ、俺の娘のミレルだ」
「初めましてミレルちゃん。ケンタだよ。この子はハリーって言うんだ」
「キュキュ!」
「うわあ~可愛い! ケンタお兄ちゃん、この子に触ってもいいかな?」