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第16話 クマ鍋


「おお……やっぱり映像がものすごく綺麗だな!」


「キュウ、キュウ!」


 ハリーもドローンからの映像を見て興奮している。キラキラと光り輝く透き通った大きな湖、緑色の自然溢れる草原とその奥に佇む山々。その上空をドローンが高速で舞う。


 モニターも前のドローンの物より大きいので、以前よりも臨場感が増している。


「思ったよりもこの湖は大きい。おっと、ようやく向こう岸まで渡れたみたいだ」


「キュ」


 大きな湖を直進し、ドローンが対岸まで辿り着いた。かなり大きな湖のようで、多少時間はかかったが、バッテリーはまだまだもちそうだ。どちらかというとドローンの電波の届く距離の方が心配である。


 一応電波の届く範囲があとどれくらいかは画面に出るのだが、もう残り半分くらいまで来てしまった。余裕をもって活動限界の4分の3くらいまでで引き返すつもりだ。替えのバッテリーもあるし、1日で3回くらいは飛行できそうである。




「おっ、たぶんあれだ」


「キュキュウ!」


 1度ドローンを飛ばし、対岸へ到着してから左方向へ向かわせたが、ザイクの村は見つからなかった。一度ドローンを小屋まで戻し、バッテリーを変え、今度は右方向へ向かわせたところ、無事に集落らしき場所を発見できた。


 やはり空からドローンで探すと、広範囲を一気に探すことができるな。


「……丸太でできた柵に木やレンガ造りの家。ザイクから聞いていた通り、畑もあって漁をしているみたいだな」


 このドローンはカメラのズーム機能も備えているので、だいぶ高くからでも詳細な村の様子を見ることができた。もちろんこの文明レベルだとドローンなんてないからバレないだろうけれど、あんまり低いと鳥だと思われて落とされてしまうからな。


 他にも湖で漁なんかもしているみたいで、釣った魚を干したりもしている。村の人たちはみんなで楽しそうに暮らしていることだし、見たところ平和で食料には困っていないように感じた。


 村で暮らしている人々は子供から老人までいて、人族が多いようだが頭からケモミミを生やした獣人のような者もいる。


「うん、これならあの村にお邪魔しても大丈夫そうだな」


「キュキュ!」


 ザイクを信用していないわけではなかったが、思ったよりも危険な世界みたいだし、事前の偵察はしたいと思っていた。ハリーは俺の想像以上に強いみたいだし、最初に湖を歩いた時よりも安全になる防具などをネットで購入した。あのクマもハリーが倒してくれたし、この村へ行ってみてもいいかもしれない。


 とりあえずバッテリーも限界だし、今日はこのまま帰還するとしよう。




「キュウキュウ~♪」


「今日の料理はダナマベアの鍋だぞ」


 元の世界へ戻ってきて、今日の晩ご飯が出来あがった。


 昨日ハリーが倒してくれたダナマベアの肉を使った鍋だ。どう調理しようか迷ってネットで調べたところ、鍋が良さそうだったので鍋にしてみた。薄切りにした肉と野菜を鍋で煮込んでいる。


「スープは2種類あるからな」


「キュウ!」


 街へ行った時に面白そうな鍋があったので、つい衝動買いしてしまった。この鍋は2色鍋といって、鍋の真ん中に仕切りがあって、2種類のスープの味の鍋が楽しめるようになっている。


 確か某しゃぶしゃぶチェーン店で見たことがあったな。普段ならこういった調理道具を買う時はいろいろと調べたり、あんまり使わなそうなものは買わないが、お金があると気にせず購入できてしまうのだ。


 スープのほうは市販の鍋スープを使った。最近は鍋の出汁やスープをパックに詰めて販売している。これを使って野菜や肉を煮るだけでお店レベルの味が家でも再現できて便利なんだよなあ。


「こんなものかな」


 ダナマベアの肉は牛肉よりも少し赤黒いが、真っ白な脂身もあってとてもうまそうだった。たっぷりの肉を2種類のスープの中に入れてしばらく煮込み、ハリーの分も含めて取り皿へ取ってあげた。


「いただきます!」


「キュキュキュ!」


 いつものように料理の前に手を合わせると、ハリーも同じ仕草をする。この肉を食べられるのはハリーのおかげだから、ハリーに感謝しよう。


 さて、異世界の肉はどんな味がするんだろうな?


「……こいつはうまい!」


 箸でそっとつまんだクマ肉はしっかりと煮込まれていて、ほろほろと崩れそうなほど柔らかい。口に運ぶと脂の旨みと味噌の甘みが見事に溶け合い、驚くほどまろやかだ。それでいて臭みなんてまったくなく、どこか野生の力強さを感じる奥深い味わいが舌に残る。


 この前食べたA5ランクの和牛は今まで食べた中で一番うまい肉だと思っていたが、それにかなり近いレベルの味だぞ。クマ肉は初めて食べたが、こんなにうまいものなのか? いや、こいつは異世界の肉だからこんなにうまいのかもしれない。


「キュキュ~♪」


「そっちの和風スープもさっぱりしていておいしいな。ハリーはそっちの方が好きなのか」


 ひとつ目の鍋は味噌ベースのスープで、もうひとつは和風醤油スープだ。


 味噌ベースのどっしりとした味とは対照的に、昆布と鰹の重なるやさしい香りが野趣あふれるコクと溶け出した肉の脂のまろやかさが口の中にじんわりと広がっていく。


 和風スープには別に用意した大根おろしがよく合う。味噌と和風、2種類の味の鍋をいっぺんに味わえるのはありがたい。


 俺とハリーはしばらくの間ひたすらダナマベアの鍋を楽しんだ。


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