第15話 新しいドローン
「キュキュウ?」
「こいつはラジコンボートというものだ。ドローンに近いけれど、水の上を走れるんだぞ」
通販で届いたこの30センチメートルほどの小さなボート。こいつは水の上を走れるラジコンだ。
最初は水中ドローンを購入しようと思っていたのだが、調べてみるとかなり高額なうえに操作範囲がかなり狭かった。やはり水中では電波がないので有線の物が多いから仕方がないのだろう。
代わりに購入したのがこのラジコンボートだ。これなら水上を走ることができ、なおかつカメラで水の下の様子を探ることができる。元の世界と比べて湖がとても澄んでいるからきれいに映るだろう。
とりあえずあの見えない壁が湖の中でどうなっているのかを調べたいだけだから、一旦はこいつで十分だろう。
「まずは小屋の近くで操作の練習だな。ほら、こうやって水の上を走れるんだぞ」
「キュウ!?」
小屋のすぐそこの湖の近くまで行き、アウトドア用の椅子を準備する。その上に座りながらラジコンボートを操作して湖の上を走らせる。
その様子にハリーが驚いていた。思ったよりも速く動くんだな。
「なるほど、ドローンと違って急な方向転換はできないみたいだ。うん、すごく綺麗だから結構奥まで映っているぞ」
「キュキュ!」
ラジコンボートの船底に付いている水中カメラもばっちり映っている。
透き通った水の向こうに、色とりどりの海藻があった。異世界の海藻は随分とカラフルだ。魚がすいすいと泳ぎ、光のカーテンが水中に差し込んでいて、まるで別の世界を覗いているかのようである。
水の中の世界は本当に美しく、見ているだけで心が弾んできた。
「奥まで行くとさすがに底が深くて映らないか。でもこれなら十分にいけそうだな。ハリー、ちょっと場所を移動しよう」
「キュ!」
小屋の前でしばらくラジコンボートの操作を練習してから、例の見えない壁のある場所に置いたロープのところまでやってきた。
見えない壁の中とはいえ、もちろんクマ撃退スプレーは持ってきている。
今度は見えない壁に沿ってラジコンボートを動かして観察してみるとしよう。
「なるほど、やっぱり湖の中にもあの見えない壁は広がっていそうだ。小さな魚なんかは通れるけれど、大きくて獰猛なやつは通れないのか」
そのあとしばらくの間ラジコンボートを充電して見えない壁があると思われる場所でボートを止め、カメラで水中の様子を窺っていた。
ラジコンボートはそこまで高くはなく、いつくか予備で購入しておいたので入れ替えて充電をしながら湖の底を見ていた。すると見えない壁があると想定される場所へ普通の魚は入ってこられたが、大きな魚が3回ほど壁の近くで引き返したのを確認した。
しかも壁へぶつかる前に自分から向きを変えて去っていったので、魚にはあの壁が見えているのか、あるいはあの壁自体を認識できずに離れたくなるような仕組みが施されているのかもしれない。少しずつだが、見えない壁のこともわかってきた。
「今のところは浅瀬のほうなら大丈夫そうか。奥の方も確認してみたいところだけれど、これ以上はわからなそうだな」
「キュウ!」
とりあえず湖にも見えない壁が存在することはわかったのでよしとしよう。
ラジコンボートも面白いけれど、視点が水面の上からだけなのでどうしても飽きてしまう。やっぱり空を飛ぶドローンのように自由に水中を動かせるほうが面白そうだ。何十万円もするが、ドローンの操作は面白かったし、水中ドローンも買ってしまおうかな。
「さて、今日はこれからが本番だ。前よりも高性能なドローンを買ってきたぞ!」
「キュキュウ!」
ハリーの前に大型のドローンを置く。
このドローンは家電量販店で置いているような一般用の物ではなく、テレビのCMなどで使われる映像を撮れる空撮用のドローンだ。値段はなんと50万円もしたのだがその分性能もレベルが違い、なんと数キロメートルの距離が離れても大丈夫で、バッテリーも1時間近くもつのだ。
映像も綺麗だし、スピードも速い。今日はこのドローンでザイクがいる村を観察してみるつもりだ。ザイクのことを信用していないわけではないが、この異世界の村の文明レベルをこの目で見てみたいと思っている。
それにこの小屋の周囲をもう少し調べてみたい。湖とは反対側の方には森が見えるし、そっちの方も空から観察するつもりだ。
少しお金を使いすぎているような気もするが、安全のための初期投資は大事である。家の家賃なんかはもう払わなくてよくなることだし、後々のことを考えた結果だ。
ちなみにこのレベルのドローンを元の世界で飛ばそうとしたら、場所や高さに制限があり、電波法も関わってくるのでちゃんとした免許や許可が必要だ。……さすがに異世界は適法外ということで。
それでは初飛行といこう!