第102話 祝杯
「さて、何を作ろうかな」
「キュ!」
ヴィオラとリリスが無事に帰ってきて、宿で祝杯を挙げることになった。
冒険者ギルドの方でも宴会を行うらしいが、気を遣って俺とハリーと一緒に宿で過ごしてくれるみたいだ。今はゆっくりと戦いの疲れをこの宿のお風呂で流している。
その間に俺とハリーは部屋で晩ご飯の準備をする。リリスの収納魔法で俺の世界のガスコンロや包丁にまな板、調味料などを持ち込んである。もちろん宿の人にも部屋で調理をする許可は取ってあるが、火事にならないように注意するとしよう。
「……これが特殊個体のアースドラゴンの肉か。前に食べたクラウドワイバーンの肉よりも濃い赤色で少し黒いみたいだ」
机にまな板を置き、その上にアースドラゴンの肉を載せる。
先ほど2人から聞いた話では無事にアースドラゴンと特殊個体の討伐が行われた。解体についてはまだまだ時間がかかっているようだけれど、先にアースドラゴンの特殊個体の食べられる部位だけ持ってきてくれたようだ。
特殊個体も食べられるのかと聞いてみたけれど、どうやら特殊個体は普通のものよりもおいしいらしい。基本的には魔力を多く持っているらしいし、この異世界の食材が俺の世界の物よりもおいしいのは魔力を含んでいるという説がより有力になった。
「とりあえずドラゴンといえばステーキだな。それとリリスの好きなカツも試してみるか。あとはシチューとかローストも試してみたいけれど、それは家に戻ってからにするか」
「キュウ!」
アースドラゴンの肉は普通の肉と同様にそのまま調理して食べられるようだ。とはいえ、今はガスコンロしかないし、2人ともお腹を空かせているだろうから、手の込んだ料理は家に戻ってから試してみるとしよう。
最近は時間もあるからいろんな料理を作るのも趣味になってきた。本当に時間とお金に余裕があるのは大事なことである。
「それじゃあ、アースドラゴンの討伐が無事に終わったことを祝って乾杯!」
「「乾杯!」」
「キュキュウ!」
2人がお風呂から出て、いつもの服に着替え、こちらも特殊個体のアースドラゴンの肉の調理が終わり、みんなと一緒に乾杯をする。
「ぷはあ~! やっぱしケンタの世界のビールってやつはうまいぜ!」
「やっぱりキンキンに冷やしたビールはうまいよなあ。でも飲みやすいけれど、酒精は結構あるから気を付けてくれ」
まずは飲み物で乾杯だ。ヴィオラも先日初めて俺の世界のビールを解禁したが、早くもそのうまさの虜となっているようだ。特に仕事終わりとか風呂上がりのビールとか、身体に沁みて最高だよな。
とはいえ一昨日は飲み過ぎて二日酔いになってしまっていたから気を付けてもらわないと。無事に討伐を終えたあとだから、明日はゆっくりと起きてもらってもいいけれど、急性アルコール中毒とかになったら大変だからな。
「この黒い粒の弾力があっておいしい。それに一昨日飲んだタピオカミルクティーよりも甘い!」
「これは黒糖ミルクティーだから、前のより甘いらしいね」
リリスは一昨日飲んだタピオカミルクティーが気に入ったようだ。前回は普通のタピオカミルクティーだったけれど、今回は黒糖入りなのでさらに甘いようだ。どうやらリリスは甘党のようだな。
「キュキュ!」
「ハリーはコーラが気に入ったのか。他にもいろんな炭酸飲料があるから、帰ったらいろいろ試してみような」
ハリーにはコップではなくお椀にコーラを注ぐ。意外と炭酸が気に入ったらしく、タピオカミルクティーよりもコーラの方がよかったらしい。
コーラ以外にもサイダーやファンタなど炭酸にもいろいろあるし、どれが一番好きか試してみよう。
各々俺の世界の飲み物でもいろいろな好みがあるようだ。
「こいつはうまそうだな! この銀色のやつはなんなんだ?」
「これはアルミホイルといって、金属を極限まで薄く伸ばしたものだよ。焼いた肉にかぶせてしばらく待つと、余熱でじんわりと中まで肉に火が入るんだ」
「へえ~こんな紙みたいな薄さにまでできるんだな」
以前リリスにした説明をヴィオラにもする。ヴィオラはステーキを食べるのは初めてだ。
綺麗なアルミホイルに興味を持ったようだな。やはり魔道具を作る職人気質な人にとってはこのアルミホイルやビールのアルミ缶は気になるのだろう。
しかし、俺の興味はそのアルミホイルの中から出てきたアースドラゴンの肉にしかない。ワイバーンは食べたことがあるけれど、ドラゴンの肉は初めてだ。やはり異世界へ来たら、ドラゴンという生物の肉は食べてみたかった。はたしてどんな味がするのだろう!




