第10話 大掃除
「あった。ハリーが入ってきたのはこの穴だな」
「キュ!」
周囲の見えない壁の調査は引き続き行うとして、続いてはこの小屋だ。
ハリーが鏡を通ってきた時のように、この異世界からいきなり変な生き物がこっちの世界へ入って来られないようにしておく。いきなりゴブリンなんかが俺の世界へやってきたら大騒ぎになるだろう。
ハリーがこの小屋に入ってきたのは小屋に小さな穴が開いていたからだ。しっかりと塞いで、他に通り抜けられるような穴がないかを確認したおいた。それと、鏡のあるこの部屋の扉をもっと強固なものにして、鍵でも付けておきたいところだ。
「大工用具はあとで買ってくるとして、まずはこの小屋を掃除しようか。鏡を通るたびにせき込んでくるもんな」
「キュウ」
鏡を通ってこっちに来るたび、ホコリだらけでしんどい。こっちの世界へ頻繁に来ることになりそうだし、しっかりと掃除をして快適な状態にしておくとしよう。
この小屋にはあまり不要な物はほとんど置いていないので、ごみを捨てる必要はなさそうだ。まずはこのホコリの山をなんとかしないとな。
「キュ、キュウ!?」
「これは掃除機というんだ。ゴミとかを吸い取ってくれる道具なんだよ」
ホコリが溜まっているところにいきなり雑巾やモップをかけるのはNGらしい。窓を開け、掃除機でひたすらホコリを吸い出して外に捨てていく。
この掃除機はコードレスなので、この小屋に持ってくることが可能だ。ロボットの掃除機を買うか迷ったのだが、あの家は古い家で部屋ごとの敷居が高くて使えなかったので、こっちにしたのが結果的には良かったらしい。
ハリーは驚いているけれど、これでも最近の掃除機は音がだいぶ少ないうえに、吸引力がすごい。みるみるうちにホコリが消えていく。
「よし、壁や天井はこんなものだろう。次は少し濡らした雑巾で拭いていき、そのあとは家具で最後に床だな」
脚立を使って壁や天井から掃除を進めていく。ホコリは下に落ちていくから、上から順番に掃除をしていく。俺の家を掃除した時も古かったからだいぶ時間がかかったが、この小屋はそれ以上だ。唯一の救いは小屋がそこまで大きくないことだな。
それにしても一体この小屋は何なんなのだろう?
人が住んでいた形跡はあるが、長年放っておかれているようだ。たくさんの本があるから何かを研究していたのかな。もしかするとあの鏡を研究していたのだろうか? それにあの見えない壁はこの小屋の持ち主が作ったのか?
わからないことだらけだが、少なくとも掃除をすることで怒られることはないはずだ。念のため小屋にある物はすべて残しておき、配置なんかはなるべくいじらないようにしておこう。
「よし、こんなところか。ほとんど一日使ってしまったな」
「キュキュウ~」
だいぶ汚かったこともあり、ほとんど一日中かかってしまった。
だけどおかげである程度快適に過ごせるようになった。これなら小屋で過ごすことも可能だ。まだ細かいところは残っているから、少しずつ終わらせるとしよう。
「今日はホコリだらけだし、一緒に風呂にでも入るか?」
「キュウ?」
「そっか、風呂っていうのは温かいお湯に身体を沈めることだ。温かくて気持ちがいいぞ」
「キュ!」
ハリーは俺の言葉は理解できるみたいだが、知らないものは知らないらしい。
「ああ~生き返るなあ~」
「キュウ~」
お風呂にお湯をはって、ハリーと一緒にお湯へと浸かる。
仕事をしていた時はいつもシャワーですましていたけれど、やはり風呂はいいものだな。これからは毎日風呂に入ってもいいかもしれない。
この家は古いがちゃんと自動お湯はり機能はあるから助かった。逆に言うと、俺にはそれがないくらい古い家にはとても住めない。
「ふふっ、ハリーにぴったりみたいでよかったよ」
「キュキュウ♪」
さすがに湯船はハリーには深かったようなのだが、風呂桶にお湯をくんだところにハリーが入るとぴったりだった。風呂桶でのんびりとしているハリーはとても可愛らしい。あとは小さな手ぬぐいでも頭に乗せてあげれば完璧だろうな。
もちろん風呂桶はそんなに大きくないから、追加で温かいお湯を入れてあげるとしよう。
「よし、それじゃあ身体を洗ってあげよう」
「キュウ!」
普通の石鹸では肌に合わない可能性もあるので、自然由来の石鹸を購入しておいた。こういった配慮は大事だ。
「気持ちいいか?」
「キュウ~♪」
モコモコとした泡に包まれたハリーも可愛いなあ。
しかしハリーの針は全然痛くないんだな。ハリネズミの針はもっと硬いものだと思っていた。まあ異世界のハリネズミはこっちの世界のハリネズミとは違うのかもしれない。
ただお風呂に入っただけなのにだいぶ癒された。
さて、明日はやる事もあるし、午前中は車で街まで出かけるとしよう。