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 竜王国で活動している部隊から、定期報告が届いた。


 報告は決して文書で残さない。万が一、私が命じたことが発覚すれば、男爵としての地位だけでなく、命すら危うくなる可能性がある。それほどのことを彼らに命じている自覚はある。


「ターゲットの前国王は、薬により最大限の苦痛を与えた後、半年後に絶命したとのことです。元々高齢でしたので、治療に当たった者たちは称賛されるべきでしょう」


 社長補佐のマルクスが、淡々と報告を続ける。彼は後ろ暗い仕事を一手に引き受けている男だ。


 竜王国の前国王。彼は前世の「彼女」を妾として囲い、地位を利用して彼女を弄び続けた。既に八十を超えていた老い先短い彼を、私はできるだけ長く苦しませるつもりだったが、寿命には抗えない。死が訪れる前に、できる限りの苦痛と絶望を味わわせる必要があった。


 身体の自由を奪い、関節に鋭い痛みを走らせる薬を盛らせた。


 前国王のような立場の者なら、丁寧に介護され、全身を拭かれるたびに、針で刺されるような激痛を感じるだろう。そして、胃に直接食事を流し込まれ、生かされ続ける。


 どれほどの苦痛と恐怖を抱きながら死んだのか、直接確認することはできなかったが、それでも満足だ。彼が自然死ではなく、私の意志によって命を絶たれた事実にこそ意味がある。


 他のターゲットたちの進捗に関しても報告を受ける。


 例えば、前世の彼女に嫉妬し、恥辱と痛みを与えた元王女。彼女には「事故」として視力と聴力、さらに両脚を失わせた。嫁ぎ先にも手を回し、手厚い介護を受けられない環境に追いやっている。しかし、それでも彼女が前世で受けた苦しみの償いには到底及ばない。


 さらに、前国王の息子である現国王も彼女に手を出した。彼の心身を少しずつ病ませ、国政に支障をきたすまで追い詰めている。もはや竜王国全体が混乱の渦中にあるが、民がどうなろうと私には関係ない。彼女を苦しめた国であるという一点で、その国すべてが罰を受けるべきだ。


 そして最後に、彼女の四肢を奪った豚、かつて彼女を直接傷つけた元将軍には、彼女以上の苦痛を味わわせている。治癒魔法陣の実験台として、彼の手足を繰り返し切断し、また繋げる。指が全てなくなれば、次は手首、足首、さらには内臓……その度に治癒魔法の効果を試している。


「豚の処理は、現地に任せる。ただし、絶命させる際には最大の苦痛を与えるように」


「かしこまりました」


 マルクスは薄く笑いながら了承する。


 こんな非道な命令を受け入れる人間もどうかしているが、それを下している私も同様だろう。それでも、この復讐には意味があると信じている。


 今生の彼女――アリアが、幸福に老衰でこの世を去る日が訪れるまで、私の罰は後回しだ。彼女を護るため、外敵を排除し、不自由のない生活を提供する。それが私の使命だ。


「竜王国では戦争の準備が進んでいるようです。ハンサウット国が魔法陣の買い付けを希望しています」


「武器関連は、サナリア国と協議して対応しろ」


 マルクスが答えながら、にたりと笑みを浮かべる。彼の笑顔には、竜王国全体を滅ぼす計画を面白がっているような色が見え隠れしている。


 全く接点がなかった竜王国の王族や周辺貴族の暗殺を指示した時、理由を問われるかと思ったが、この男は自分なりに解釈し、育てていた部下を使って見事に要望通りに働いてくれている。


 どうやら戦争を始めさせ、スオウ社が保有している国防関連の魔法陣を高値で売るためと判断しているようだった。


 正直、戦争はどうでもいい。儲けられれば言うことはないが、それでアリアから軽蔑されないか。それだけが心配事項だ。


 いや、どうせ別の男に任せるのだ。アリアは護られていることも知らないまま、平和に生きればいい。


「あちらでの依頼は目途が立っていますが、ご婚約者様の処遇はいかがいたしましょう」


「処遇?」


 その問いに、自然と声が低くなる。


「……訂正いたします。アリア様に嘘を吹き込んだ者たちへの対応はいかがいたしましょうか。ほぼ全員の裏取りが完了しております」


「基本的には退学処分とするが、マッカスに関しては別だ。奴は新たな事業を始めている。事業基盤を徹底的に崩し、次男を正式な後継者に立てるように仕向けろ。腐っても公爵家だ、次期当主には恩を売っておきたい」


「かしこまりました」


 マルクスの声には、ほんのわずかに失望の色が混じる。


「以前から言っている通り、この国では竜王国のような処理を行うことはしない。基本的には手を汚さない方法で対処する。それを忘れるな」


「承知しております」


 彼は一瞬だけにたりと笑うが、その表情に異常性は隠せない。


 それでも、彼は忠実だ。竜王国のような徹底的な処分が望めなくとも、必要な仕事を確実にこなしてくれる。時にはその冷酷さに不快感を覚えることもあるが、少なくとも私に敵意を見せる素振りはない。


「それと、覚えておけ。たとえアリアが私の婚約者でなくなったとしても、彼女は未来永劫、私の守護対象だ。彼女やその家族に何をしようと、決して手出しをしてはならない。それがどんな犠牲を伴おうともだ」


「……承知しました。社長にも、一つくらい趣味は必要でございます」


「………」


 その一言に眉をひそめる。


 確かに、こんな執着は異常だろう。だが、私は前世で彼女を護れなかった。その罰を受けることもなく、再び彼女と巡り会えた。それを単なる偶然とは思えない。


 しかし、それ以上に厄介なのは、この執着の起源にある記憶だ。前世だけではない。その前の前世でも、私は彼女を護れなかった記憶を持っている。


 私は幾度となく転生し、ただ一人を護るためだけに生を繰り返しているのだ。



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