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「おっ野菜、やさいっ」
ツナギに着替えて、今日からは午前中の涼しい間に庭仕事を手伝う。
「希望されるので勤務にいれますが……。三階から降りるときは、絶対に短いメイド服を着替えてください」
「はい、未熟なメイドだとばれないようにですね」
シファヌ先輩からの忠告に頷く。
寝坊した日から、お願いして短いスカートで働かせてもらっている。
やっぱりスカートに引っ掛けて何かを壊す確率が減るし、動きやすいのだ。だが、三流メイドを雇っているとなっては家の恥だろう。
「まあ、そうです」
階段を下りて、中庭に着いた。きれいな草花だけでなく、野菜が植えられた場所がある。それに植えられた木は果樹もあった。
「はっ、もしやヴァーナードのおうちも借金まみれ」
「経営状況は今年も最高益の黒字です。何を見てそんなことを思われたのですか」
「貴族の家で家庭菜園をするって、あんまりない事だと思っていたので」
貧乏でないならよかった。
お金がすべてとは言わないが、お金は大事だ。お腹がすくのは辛い。
「ヴァーナード様の会社では陣車以外にも農作業に係る魔法陣、土壌改良や水の散布、害虫対策などに係るものを販売しています。それの機能確認を行う関係で小規模の温室がいくつかあります。ご主人様からのご伝言で、こちらの中庭は好きにしていいですが、他の温室などは測定中なので勝手に入らないように、くれぐれも気を付けてくださいとのことでした」
凄い念を押された。
「え、ヴァーナードって、魔法陣を売っているの?」
「………ご存じ、なかったのですか」
「だって、誰も教えてくれなかったから」
「……アリアさんは、ご主人様に興味がないのですか?」
驚いたように聞かれて首を傾げた。
何故だろう、子供のころはたまに来るヴァーナードにとても喜んでいた。確か、いつもすごくおいしいおやつを持ってきてくれたのだ。
学校に行く頃から、あまり興味がなくなった。二年になった時、ヴァーナードが入学して、あっという間に同級生になって、それからは勉強を教えてもらっていた。
正直なところ、ヴァーナードは教師には向いていない。いつもため息ばかりつかれていたし、世間話のようなことも、時間の無駄だとなかった。
ふと、それなのになぜ、嫌がらせとか、別に恋人がいると聞いて凄く腹を立てたのかと疑問に思う。
「ちょっと前から、ざわざわしだして……」
これだと質問の答えとしておかしいと反対に首を傾げた。
「んー、よくわかりません。それより! お野菜のお世話をしましょう!」
まあいいやと仕事に戻る。
シファヌ先輩は結構お話してくれる。手を動かしていれば口を動かしていても怒らない。
ヴァーナードと違って優しいいい先生なのは確かだ。
この日は、庭仕事でシファヌ先輩に褒められた。
そして、午後にお茶の淹れ方を教えてもらった時に、叱るを超えて絶望されてしまった。
「最高級茶葉が……どうして」
手本として淹れてくれたお茶は、春の木漏れ日のように美味しいかった。おんなじ茶葉を使ったのだけど、私が淹れたお茶は、母がいつも気付け薬に淹れてと言うのと同じい味に仕上がっていた。
私が淹れたお茶を飲むと、妙薬みたいに元気がでると評判だったのだ。
「あ、でも、私が淹れたお茶は、元気が出るって母を始め家族が褒めてくれてます!」
「………」
シファヌ先輩は何も答えてくれなかった。
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