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 学校は、秋口から新年度で、冬までが前期、冬休みを挟んで春先から初夏までが後期になる。


 今は年度が変わるお休みの期間だ。冬休みも夏休みもそれぞれ二ヶ月あって、前期後期もそれぞれ四ヶ月半ほどだ。


 なので私は約二ヶ月、みっちりと修行し、完璧なメイドになってヴァーナードをぎゃふんと言わせるのか目標だ。


 そう、これはなぜか婚約破棄するはずがメイドにされた話ではなく、メイドからメイド長へ成り上がる話になるのだ。


「アリアさん、雑巾の絞りがきつ過ぎます」


「しっかり絞れって言われたので」


「普通のご令嬢なら、ここまで絞れないと思うのですが……」


「力だけは誰にも負けません! 鍛えてますから!」


 なぜか胸を張ると、先輩が微妙な顔をした。


 掃除の基本は上からだと言われて雑巾で上から順に掃除を始めたが、ずっとダメ出しを受けている。


 昨日と違ってより細かい仕事をするため、注意事項が多い。メモを取る時間もない。


 基本的には掃除がお仕事だが、奥が深い。私は実家では家庭菜園以外は許可されずほとんどしてこなかった。理由は簡単だ。手伝うと仕事が増えるからだ。


「では、昼の休憩です。アリア様、お食事をお運びしますから着替えをお願いします」


「はい」


 アリア様と呼ぶ時は婚約者でアリアさんと呼ぶときは後輩メイドとして扱ってくれているようだ。


 けれど、あんまり私は使い分けられず、基本後輩メイドのモードになってしまう。


 メイド服から婚約者用の部屋に用意されていた服に着替える。


 持って来た服は全部洗濯に出されてしまった。用意された服は、多分高い。肌触りが高級だと訴えかけているので、できればメイド服でご飯を食べたい。


「お着替えはお済みですか?」


 着替えができるくらい広いクローゼットで着替えて出ると、シファヌ先輩がテーブルに昼食を並べていた。


「ごっはん!」


 つい声が弾む。実家なら母に品がないと叱られるところだが、ここにいるのはシファヌ先輩だけだ。急いですまし顔を作る。


「あれ、シファヌ先輩のお昼はここで食べるんじゃないんですか?」


「メイドがご婚約者様と食事の席を共にすることはございません」


「え……」


 実家では、結構普通にメイドさんとご飯食べたりしていたのに。普通ではなかったのか。


「えっと、一緒に食べちゃ、いけないですか」


「……」


「その、お仕事中の休憩なら、一緒に食べられるかなって思ってたから」


 学校ではぼっちだった。別に一人のご飯が嫌なわけではない。食べ物と真剣に向き合う時間になる。だけど、夏のお休みで実家に帰るはずが帰れなくなって、家族とご飯が食べられると思っていた。家族や誰かと一緒に囲む食卓の温かさを知っていると、一人で向き合うお皿が少し冷たく感じる時もある。


「私の食事は、下に準備されていますから」


「……はい」


 わがままを言って困らせてはいけない。


 一人でお昼を食べて、休憩時間の間に自分の部屋を掃除して置いた。


 長いスカートのメイド服を新しく用意してくれたが、短い方が涼しいし、何よりもものを引っ掛けるリスクを減らせるのではないかと気づいてしまった。


 シファヌ先輩ととても根気強く私に指導している。スカートの丈を短くしたのは、失敗を減らすため。優しさだったかの。新人いびりなどと考えたことを反省する。


 その後、休憩時間は休憩するように怒られ、午後の仕事を済ませた。


 合間におやつの時間があって、また一人で寂しかったが、おやつはとても美味しかった。


「夕食も、一人ですよね」


 しょんぼりと確認すると、ため息をつかれてしまった。


「メニューは、使用人のものになりますよ」


「はいっ」


 久しぶりに人と一緒にごはんを食べる。些細なことだが、嬉しい。


 ご飯を食べた後、お風呂に入ったり、就寝準備をさせられた。だが今日は夜の仕事の説明もあると言うのでこのまま終わりではない。


 ふと、シファヌ先輩はいつ休んでいるのか……もしかして、ごはんの時間は休憩時間だったのではとはっとした。これからは、我が儘は言わないようにしよう。


「夜の務めと言っても、ヴァーナード様はメイドに娼婦まがいのことは頼みませんのでご安心ください」


「しょーふ?」


 きょとんとして聞くと、シファヌ先輩が咳払いした。


「いえ、気にしないでください。メイドは、メイドの仕事だけすればいいと言うことです」


「はいっ」


 ヴァーナードが就寝する前に使うものと朝起きて使うものを準備しておく。水差しの水をきれいにしたり、入浴の準備を整えておく。実家にもあったが、ここには魔法陣を使って家具がたくさんあって、蝋燭ではなく魔法陣で灯りをともしていた。


「アリアさんに夜番までしてもらう予定はありませんが、そういった仕事があると今晩は経験していただきます」


 そう言うと、続き部屋に入る。最初にメイド服に着替えた部屋だ。


 スカートの短いメイド服が二着かかったままになっていた。今日は渡された長い丈のメイド服だけど、明日はあっちを使っていいか聞いてみよう。


「基本的に夜中に起こされることはありませんが、暗殺未遂もあるので一人はここにつめています。アリアさんも夜に何かあれば私を起こしてください。仕事ですから、気になさらずに」


「はい」


 夜中に起こされるのは腹が立つのに、大変な仕事だ。


 次男のアリルド兄がいきなり夜中にピアノを弾き出した時は、母と一緒に殴りに行った。メイドさんは、ご主人様に起こされてもすぐに仕事をしないといけないとは、大変な仕事だ。


「ここで今日は眠ればいいんですねっ」


 熟睡させないためか、簡易的なベッドがある。それに、床に毛布が置かれていた。


 もうシファヌ先輩は優しい面倒見のいい人だと分かっている。だから、お前は床で寝ろと言う意地悪をされるとは思っていない。


「アリアさんは、ベッドを使ってください」


「大丈夫です! このベッド二人くらい眠れますよ!」


 やっぱりベッドを譲られた。想定していたので解決策は考えていた。


「………それは、流石に」


「考えてください。新人メイドが仕事を教えてもらっているのに、先輩を床に寝させられると思いますか?」


「ご婚約者様と一緒のベッドで眠るのもいかがなものかと」


 正論で論破したはずが、別視点の正論を投げ返された。


「ぬぐぐ。じゃあ、妥協案ですっ。私が壁際で寝ます」


 攻防の末、シファヌ先輩を床で眠らせることはなかった。


 隣で寝転がるシファヌ先輩の顔が近くなった。もっとお姉さんかと思ったが、二十代半ばくらいのひとだった。


「おやすみなさいです」


「はい、明日は朝の仕事もしてもらいます。朝が早いですからもう寝てください」


 灯りを消すと、月の明かりが小窓から入り込み、薄くあたりを照らしていた。


 ヴァーナードが私に意地悪をしていたのだから、メイドの仕事でもきっと色々な嫌がらせを準備しているとわくわく……覚悟していた。


 なのに、メイドのお仕事を教えてくれるシファヌはとてもいい先輩だ。


 仕事は普通にあるけど、今日もお皿を割ったし水の入ったバケツをひっくり返した。怒られたが一緒に片づけてくれた。


 普通に、人手が足りないだけだったのだろうか。実際、私はシファヌ先輩としか会っていない。


 うとうとしながら、まだシファヌ先輩が起きているのを感じる。寝付けないのかなと思って、寝ぼけながら子守唄を歌ってあげて、眠りについた。


 次に目が覚めたのは太陽の光が起きろと騒ぎだしたからだ。


「んむにゅ。おはようございましゅ」


「ん……」


 横のシファヌ先輩が、眠そうに目を擦る。もうちょっと寝ててもよかったのかもしれないなぁと考えていたら、毛布を跳ね飛ばしてシファヌ先輩が飛び起きた。


「っ! 寝坊ですっ。三分で支度してください!」


 悲鳴に近い声を受けて、慌ただしくメイド服に着替えた。



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