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ゾンビがはびこる世界だけど転移特典持ってます!  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第2巻

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48話 ゾンビVS特務大尉

 目が覚めたら、ホテルがゾンビに囲まれていた。

 隼人の現状を端的に表すなら、そのようになる。


「夕暮れ頃に数十体が来たようだが、日が暮れてからも新手が続々と押し寄せて、最終的には数百体になったそうだ」


 テラスから外を見下ろした隼人は、背後の結依と菜月に状況を説明した。

 情報源は、ホテルの2階にある宴会場に居た人々である。

 宴会場には、こんなに居たのかと驚くほどの人数が集まっていた。


「展望風呂で戯れていたから、ちっとも気付かなかったなぁ」

「聴力、良いんじゃなかった?」

「普段から雑音なんて聞いていられない。意識しなければ、普通の聴力だ」


 ゾンビの警戒なんてしていないと宣った隼人に、結依は呆れた表情を浮かべた。だが隼人は、平然と開き直っている。

 隼人達は、ホテル10階の引き戸とテラスを二重に閉めたフローリングに居た。あるいは、引き戸を閉めた屋内の展望風呂に入っていた。

 二重窓は、外部からの騒音を40デシベルも軽減できるといわれる。

 普通の聴力だった場合、30メートルも下の屋外にいるゾンビ達の呻き声など、聞こえるはずが無いし、聞きたくもない。

 朝起きて、引き戸を開けたところで、ようやく異変に気が付いた次第だ。


「それでホテルの人達は、何て言っていました?」


 テラスの下に広がる困った状況を眺めながら、菜月が尋ねた。

 問われた隼人は、2階の宴会場に集まっていた人々の話を思い起こす。


「大発生の原因は、未払いで追い出された連中だそうだ。ショッピングモールの方向から、ゾンビを連れてきたらしい」

「ゾンビ、わざと連れてきたんですか?」

「そうらしい。追い出された男達4人のうち2人が、自転車のベルを鳴らしながらゾンビを引っ張ってきて、ホテルの周りを一周したそうだ」


 話を聞いた結依と菜月は、呆れと軽蔑が混ざったような表情を浮かべた。

 ホテルの宿泊代を払わなければ、追放されるのは当然だ。

 それを理由に怒るのは、単なる逆恨みでしかない。


「その阿呆共は、ホテルを一周したところで連れてきたゾンビに襲われたそうだ。ついでに言えば、仲間の2人もゾンビに混ざっているらしい」

「犯人が居なくなったことは、良かったのかな」

「そうだな。少なくとも、追加のゾンビは来ない」


 結依の総括に、隼人は賛同した。


「それと、ホテル自体も安全らしい」

「そうなの?」

「素手や鈍器では、鉄筋コンクリートの外壁を壊せないからな」


 ゾンビは、元が人間の身体だ。

 外壁を素手で殴っても、腕のほうが折れる。

 裏手の搬入口も、荷下ろし用のコンクリートの段差が、車の突入を防いでいる。極めて優秀な成り立てゾンビが車を使えたとしても、やはり突破は不可能だ。

 そして徒歩で上がれるスロープの先には、スチール製のドアがある。

 スチール製のドアだけを突破できても、厚さ5センチメートルほどのステンレス鋼の扉を破壊しなければ、ホテルの内部には入れない。

 ホテルに立て篭もっていれば安全で、兵糧攻めに困るくらいが関の山だ。


「昨日の時点で、1001号室は1ヵ月分、714号室は半年分を支払い済みだ。半年ほどは、そのまま引き籠もれなくもない」

「いつの間に払ったの?」

「カントリーエレベーターから戻ってきた時だな」


 追放された男達を見た隼人は、車と往復する振りをして米を運んだ。

 そして30キログラム用米袋2つで、1001号室を半月延長し、714号室も5ヵ月延長した。


「問題は、1001号室を1ヵ月分しか確保していないことだな。この状況では、外に出て追加の米を持って来たと見せかけることは、出来ないな」


 ホテルの出入口を通る際は、ホテル従業員の西山達に監視されている。

 大きな袋を抱えて出入りはしたが、空間収納が無ければ、持ち込めて1袋分。

 ホテルに立て篭もりながら追加の米を出すのは不自然で、このままだと1ヵ月後には、1001号室から退去しなければならなくなる。

 隼人は、ガラス張りのシャワールームを眺めた後、重々しく呟いた。


「714号室に戻るのは、無理だな」


 結依の小さな手が、ベシッと隼人を叩いた。


「この人、馬鹿じゃないかな」


 指摘を受けた隼人は、馬鹿とは何だったのかを思い起こした。

 秦の丞相が、第二代皇帝に鹿を献上しながら「珍しい馬でございます」と言い、周りの臣下が自分と皇帝のどちらに付くかを試したと、隼人は記憶する。

 そして正直に鹿だと言った者達は、全員が後日に処刑された。

 皇帝は「馬鹿にされた」と言われ、「正直者は馬鹿を見る」の言葉にもなった。

 そのような状況で正直に答えることは、「馬鹿正直」とされた。


「確か馬鹿って、嘘吐きが馬で、正直者が鹿だよな」


 圧力に屈するのか、それとも自分を貫くのか。

 はたして隼人は、自分が鹿で良い気がした。

 そして空間収納から、右手用の手袋を取り出す。


「ここに弓掛という、鹿の革手袋がある」


 隼人が取り出した弓掛とは、弓の弦を引く際に使用する手袋だ。

 過去の転移者が伝えたのか、隼人の部隊は和弓を使っていた。

 弓掛を嵌めた隼人は、次いで和弓を取り出した。

 和弓は、戦国時代に有効射程が400メートルと謳われた弓胎弓だ。

 日本の弓道には、尋矢という言葉があって、4町(436メートル)を超えると優れた射手とされた。

 鹿の革手袋を嵌めて矢を携えた隼人は、自分に正直であることを選択した。


「俺は鹿で良い。風呂付き客室のために、成敗してくれる」

「……わぁ。この人、馬鹿だぁ」

「俺は自分に正直な鹿だ。馬とは一緒にしないでくれ」

「全部引っくるめて、馬鹿って言うんじゃないかな」


 呆れる結依を尻目に、隼人は手すり壁の壁際に立ち、真下を見下ろした。

 そして空間収納から矢を取り出して、右手に持つ。


 矢の鏃は、射通す用途の尖矢に分類される柳葉で、金属部分はダマスカス鋼。

 ダマスカス鋼は、柔軟性と靭性に優れ、使用した矢の8割が再利用が可能。

 その矢を番えた隼人は、ゾンビの一体を狙い、弓の弦を強く引き絞った。

 腕が作る力の円弧が、狙いを定めたゾンビの頭部に正確に向けられる。

 ヒグマ並の剛力で引かれた弓、弦、矢は、まったくぶれない。


 刹那、空気を切り裂く音が、シュバァンッと唸った。

 射られた矢が一直線に駆け下りて、天上からゾンビの頭部に深々と突き刺さる。

 頭蓋骨を貫かれたゾンビは、そのまま倒れ込んでいった。

 唖然とした結依と菜月が、倒れたゾンビと隼人を交互に見た。


「俺の矢は、500メートルくらいは飛ぶ」


 10階のテラスから地上の標的までは、30メートル程度に過ぎない。隼人にとっては、ほぼ外さない距離だ。

 しかもゾンビ達の大半は、直上からの攻撃を理解できておらず、ホテルの周囲に群がったままだった。

 だが極一部だけは、同族の頭部に突き立てられた矢を見て、顔を天に向けた。


「まずは、お前らだ」


 天を仰いだ賢い集団の一体の額に、ダマスカス鋼の鈍い輝きが叩き付けられた。

 すると前頭骨を割られたゾンビの一体が、仰向けに倒れていく。


「5秒あれば、1本射れる」


 空気を切り裂く呻り声が、ホテルの正面に響き始めた。

 シュバァンッ……シュバァンッ……と、規則的な呻り声が上がっていく。

 その度に地上では、ダマスカス鋼が骨を割る音が、ズガアンッと響いた。

 矢を突き立てられたゾンビ達は、次々と膝を折り、崩れ落ちていく。

 頭部への命中率は、8割ほど。

 隼人は疲れを見せず、命中精度は次第に上がり始めた。


「どうなってるの」

「凄いです」


 結依の呆れと菜月の関心を背に受けながら、隼人は矢を出して番える。

 そして槍を投げ付けるが如き威力で飛ばし、ゾンビの頭部を叩き割っていった。


「俺が1001号室に宿泊した後に来たのが、お前達の敗因だ」


 隼人は、どれほど大量のゾンビが来ようとも、あらゆる手段を用いて徹底的に戦うという気概を見せていた。

 傍に居る結依は、呆れの表情を浮かべている。

 ゾンビを倒すのが可哀想とは思わないし、倒す行為を否定したりもしないが、くだらない動機のために必死になりすぎではないかと、言外に告げている。

 その点について隼人は、個人あるいは男女の考えの違いだと捉えた。隼人にとっては、現状における相当な重要事項である。


 攻撃を受け続けたゾンビ達は隼人を認識し、隼人を掴もうと手を伸ばして、呻き声を上げている。

 だが隼人は、垂直に建ったホテルの10階に居て、どう足掻いても届かない。

 そして9階までの窓は、身を乗り出したりは出来ない仕様だ。

 一方的に攻撃を行えて、味方への誤射の恐れも無い状況だ。


「従軍していたときに比べて、温すぎるな」


 隼人の手が、機械のように矢を番え、弦を引いて、射続ける。

 5分で50体、10分で100体、それを黙々と続けていく。やがて倒れたゾンビの数が、歩いているゾンビの数を上回った。

 すると隼人は角度を変えて、周囲のゾンビへの攻撃も始めた。

 20分、30分。

 隼人は攻撃を止めず、相手が反撃不可能な状況で一方的に狩り続ける。

 攻撃開始から1時間を過ぎて、ホテルを囲んでいたゾンビは掃討された。


「矢は4000本ほどしか無い。再利用するために、射た矢を回収してくる」

「再利用って、射たのを使えるの?」

「ダマスカス鋼は、日本刀とかの玉鋼と真逆で、8割くらいを再利用できるぞ」


 隼人は素早くホテルを出て、矢の回収を行った。

 即座に動いたのは、宿泊客に話し掛けられて足止めされたり、高性能な矢を他人に回収されたりしないためである。

 隼人が弓を携えながら、険しい表情でゾンビが倒れている場所を歩くと、流石に宿泊客も邪魔をして来なかった。

 おかげで隼人は矢を回収できて、シャワールームも堅守できたのであった。

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特務!特務!特務!(違うトコの掛け声(たたえています 撃ち下ろしだけでEDFクリアするような爽快感 遮蔽に隠れたり逃げたりする某巨人の様な奇行種は居なかったのが一安心(今後現れそうではありますが …
しかし成り立てゾンビが思った以上に頭良くて悪知恵働いてビックリした ゾンビゲームやゾンビ小説ではゾンビがバカだからなんとかなってたのに怖い怖い
こーれは調子乗っちゃってますねぇw まぁ巣の確保とメスの前で良いとこ見せたくなるのはゴリラゆえ致し方なし
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