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ゾンビがはびこる世界だけど転移特典持ってます!  作者: 赤野用介@転生陰陽師7巻12/15発売
第2巻

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33話 警察署の探索

 荒廃した街を進んだ車は、やがて警察署前の駐車場で、静かに停車した。

 警察署は、かつての威圧感を失っていた。道路側に面した窓ガラスの半分は割れており、出入り口は開きっぱなしになっている。


「着いたね」


 助手席の結依が、若干緊張した声を上げた。

 シンと静まり返った警察署は、まるでホラーゲームの舞台となる廃墟のような、異様な空気を醸し出していた。


「人間は、明らかに居なさそうだな」


 人間は居ないが、ゾンビが居ないとは言っていない。

 ここで「結依、ホラーゲームは好きか?」と冗談で尋ねれば、緊張を解きほぐせるだろうか。それとも怒られるだろうか。


 ――右手で鋭いツッコミを入れた後、絶対に車外に出ないと言いそうだな。


 安全地帯を確保した後、隼人だけで探しに行けと言われかねない。

 ここまで来て、それは困ると考えた隼人は、思い付きを自重した。


 ――銃、残っているかなぁ。


 ゾンビが徘徊していれば、一般人が家捜しできないので、まだ可能性が有る。

 いずれにせよ中を探さなければ、答えは出ない。


「それじゃあ降りて、探しに行くぞ」


 二人を車内に残すよりも、隼人の傍に居させるほうが安全だ。

 そんな隼人の判断に、結依は応じつつも念を押した。


「ちゃんと守ってね」

「勿論だ。だが銃も準備しておけ。菜月も行くぞ」

「わたしも銃が欲しいですね」

「そのために探しに行くところだ。必要性を再確認できたな」


 率先して隼人が降りると、結依と菜月も車外に出た。

 車の鍵を掛けると、三人は足早に署内へ入っていった。


 署内は、ひどい荒れようだった。

 机や椅子が無秩序に倒れており、机の上の物は、床一面に散らばっている。


「パソコンとかは、持ち出されなかったんだなぁ」

「電気、使えないからね」


 3年前は、床に落ちているモニターなどにも価値があった。

 隼人が昔の感覚で口にしたところ、ゾンビがはびこる3年間を体験した結依が、認識の食い違いを修正した。


 署内の壁には、鈍器を用いた戦闘痕らしき凹みや、染みもあった。

 そして壁の下には、頭部を破壊されたゾンビが一体、転がっていた。


「あれは倒されて1年ほどかな。白骨化前だ」

「……倒されたゾンビって、骨になるんですか?」


 3年前にゾンビが発生した地球では、まだ確認出来ていないのだろう。

 恐る恐る尋ねた菜月に対して、隼人は異世界での確定事項を述べた。


「倒されて動けなくなったゾンビは、いずれ骨になる」

「でもゾンビは、魔素で動くから、骨にならないんですよね?」

「いや、4~5年で骨になる。そろそろ初期のゾンビは、白骨化するはずだ」


 ゾンビを動かせないウイルスは、限界まで拡大したと判断するのもしれない。

 活動を縮小させて、バクテリアに負けて、身体を分解されて骨になるのではないかと、隼人は別の転移者から聞いたことがあった。

 もっとも異世界では、だから何だという扱いであったが。


「それを発表すれば、ノーベル賞を狙えますかね」

「どうだろうな。知ったところで、役に立たない知識だと思う」


 ノーベル賞を断念した隼人は、探索を再開させた。

 床には文房具、破れたファイル、書類などが散乱している。

 拾ったFAX用紙には「県内で大規模パンデミック発生。県警本部に集結せよ」と印字されていた。

 送信日付は2年ほど前で、指定日時は「可及的速やかに」となっている。

 慌ただしかったであろう当時の状況が、容易に想像出来た。


「ここの警察官達は、県警本部に移動したらしい」

「銃とかも、持っていったの?」

「多分、そうだろうな」


 隼人は渋面を浮かべながら、署内を見渡した。

 通路の奥には、倒れて割られた自動販売機がある。

 金属の歪んだ跡があり、誰かが必死に飲み物を取ろうとした形跡が窺えた。


 ――署員が去った後、探索に来たんだろうな。


 窓ガラスは半分以上が破壊され、外の光と風が直接入ってくる。

 その奥の通路からは、わずかに金属の擦れる音が聞こえてきた。

 誰かが金具を引き摺りながら、ゆっくりと歩み寄っているような異音だった。


「隼人」

「ああ、分かっている。先客が居たようだ」


 隼人は空間収納から槍を取り出して、二人の前に出た。

 音は次第に大きくなり、やがて廊下の角から、二体のゾンビが姿を現した。

 どちらも男のゾンビで、一体は中年、もう一体は若者だ。

 二体は隼人を認めると、不気味な呻き声を上げながら、歩み寄ってくる。

 隼人は軽く周囲を見渡した。

 廊下の幅は、槍を振るうのに十分な広さがある。


「少しだけ下がっていてくれ」


 低く告げた言葉に、結依と菜月が数歩後退した。

 後退を見た中年ゾンビが、ウイルスを感染させたいという獣の本能的な表情で、途端に駆け出してきた。

 ゾンビに襲われた一般人が恐怖で叫ぶのは、無理からぬ話だろう。


 ――慣れているけどな。


 隼人は槍を構えると、鋭い突きで中年ゾンビの首を貫いた。

 すかさず槍が振るわれ、槍に引っ掛かった身体が、窓の外へ放り投げられる。

 瞬く間に一体が、戦場から排除された。


「成ってから、時間が経ちすぎだな」


 二体目も知性は感じられず、愚直に迫って来た。

 隼人は振り払った槍を引き戻しながら、横薙ぎに振るった。

 槍が二体目の胴体を打ち据え、そのまま振り抜いた。

 二体目は、車に撥ねられたように盛大に吹っ飛ぶ。そしてドゴンッと大きな音を立てながら、壁に激突した後、廊下に崩れ落ちていった。


「吹っ飛ばしただけだと、動く可能性がある。トドメは大事だ」


 隼人は槍を振り上げて、崩れ落ちたゾンビの頭部に振り下ろした。

 ガンッと叩き付けられた槍で、ゾンビの頭部が破壊される。

 撃破を確認した後、隼人は槍を振って、穂先の汚れを振り飛ばした。


「排除した」


 隼人が告げると、結依と菜月が恐る恐る近づいてきた。

 二人の様子を見た隼人は、槍を収納する。


「いつもそんな戦い方だったの?」

「ドラゴンとかは、頭部だけでも噛んでくるから、なお悪いぞ」

「……ドラゴン、居たんだ」

「30メートルくらいの奴は、頑張って皆で倒したなぁ」


 なおアフリカゾウが頭胴長で7メートル、ティラノサウルスが12メートルだ。

 地球で30メートル以上の陸上動物は、アルゼンチノサウルス、スーパーサウルス、トゥリアサウルスなど、数えるほどしか存在していない。

 そんなドラゴンは、隼人の鎧に使われる素材の一部にもなった。


 はたして地球と異世界とでは、一体どちらが安全であるのか。

 その件について隼人は、言及を避けた。

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― 新着の感想 ―
持ち物は竜燐の鎧だった 異世界にはモンスターのスケルトンはおらんかったのかな 魔素ウィルスには骨動かす根性はなかった
銃器は無しか。 県警本部に集結という事は、機動隊の装備もないんだろうな。 県警本部には色々溢れていそうだけど。 消防署でも色々漁ろうよ。 あと狙うは自衛隊の訓練施設か。
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