こっちに来るな
「おい、今日の放課後、あの森へ行かないか?」
僕の友達の圭介は唐突にそう言った。
「いやだよ、立ち入り禁止だし…それにあの森に入るにはあの道を渡らないといけないじゃないか…」
僕の住んでいる町には奇妙な噂があった。
それは渡るときに呼吸をしてはいけないという道だ。
呼吸をしてしまうと身長約2mの大男に襲われてしまうらしい。
自分も一度行ったことがあるがその道はとても長く、ずっと息を止めていられる自信のない僕はすぐにリタイアして戻った。
そのこと以来、僕がその道に近づくことはなかった。
なにしろその道の先にあるのは立ち入り禁止の森なので道を渡るメリットがない。
「大丈夫だよ、俺らもう中学生だぜ?」
「いや、一人で行けよ。」
「それに実際あの噂が本当なのかお前も気になるだろう?」
圭介は頼むように言った。
僕は正直、ただの噂話だと思ってはいるがあの場所は少し不気味だし近づきたくなかった。
「僕は行かない。」
「なんだよ、お前なら行ってくれると思ったのによ。
じゃあ俺一人で行くよ。」
失望されたみたいだが一人で行ってくれるならいいだろう。
嘘だと思ってはいるがあの噂が本当なのかも気になるしな。
そう思いながら僕は家に帰った。
次の日、学校に登校して圭介に昨日のことを聞こうと思ったが集会の時間になっても圭介の姿はなかった。
「圭介が遅刻するのは珍しいな」
友達がそう言った。
確かに僕も圭介が遅刻しているところを見たことは一度もない。
そろそろ先生が話し始めるので僕は先生の方を向いた。
「生徒の皆さんに大切な話があります。」
学年主任の先生がそう言った。
主任の先生はウイルスのこともありマスクをつけていて、さらになぜか分からないが今日、左目に眼帯をつけていた。
だが先生はとても背が高いので顔が少し隠れていても、一目見ただけですぐ誰か分かる。
「すでに知っている人もいるかもしれませんが、昨日、2年⚪︎組の⚪︎⚪︎圭介君が何者かに襲われて現在も意識不明の重体だそうです。犯人はまだ捕まっていないため皆さんもなるべく外出を控えましょう。」
「え……」
僕は頭が真っ白になった。
「先生としては――――――――」
先生はその後も何かを話していたが僕は驚きとショックで何も聞き取ることができなかった。
その日は何も考えずに家に帰った。
次の日に圭介が一命を取り留めたことが分かった。
圭介が倒れているのを見つけたのは学年主任の先生らしい。
先生によると圭介は道の前で倒れていたという。
しばらく圭介は学校に来なかったが一ヶ月もすればいつも通り学校に来た。
僕はしばらく事件のことには触れない方が良いのかと思いあまり聞かないことにしていたが、中学校を卒業するときに思い切って聞いてみることにした。
事件から1年以上経っていたので少し忘れているのかと思っていたが、圭介はあの日のことを昨日のように鮮明に語ってくれた。
あの日、圭介はできるだけ息を止めて道を渡っていた。
すると突然、森の方から目出し帽を被った身長190cmくらいの男が走ってきたという。
慌てて息を吸ってしまったが今はそれどころではなかった。
圭介は驚いてその男の片目を攻撃したが
その瞬間、その男が圭介の首を絞めてきて大声を出したという。
こっちに来るな と
その声は妙に聞き覚えがあったらしい。