* 新たな生(1)
えっとぉ、新作でございます。まず『黄昏の森の鬼娘』を差し置いてこの作品にばかり最近夢中になってしまい、ミツキちゃん達の方を放置してしまっている件につきまして、続きを楽しみにしてくださってる読者の方々にも深く謝罪させていただきます。ですが!!この作品もそれなりに手応えがある出来ですので、どうか何卒お楽しみ頂けたら幸いです!!!!
ん…?あぁ…そうか…余は、死んだのか…。
そうか…ようやく……。
だがまさかあんな最後を迎えるとは…実に情けないな…。
父上や母上…妹達も…おそらく死んでしまっただろうな…。
やけに瞼が重い気がするが、きっとこれは気の所為だ。
何故なら余はあの時に死んでしまったからだ。別に死後の世界を信じていないわけではないし、現に今こうしていられるのも既に死後の世界とやらにきてしまったからなのだろう。
だが、それならこの瞼の重さはなんだ?
身体は軽い、匂いも感じる。少し甘い匂いだ。
だが先程も言った通り余は死んだのだ、なのにこんな感覚…感じるはずがない…
「****!*******」
なんだ?何か音が……いや、これは声か?だが何を言ってるのかが分からない。余はこの大陸全ての言語を把握しているはずだが、そのどれにも当てはまらない余の知らぬ言葉が余の耳を通り抜けていく。ただ1つ分かることは、その声の主は女であるということ、そしてもう1つ声が聞こえるが、こっちは男の声だろうか。
状況が全く分からないため、仕方なくその重い瞼を押し上げ、目を開くと───
「……ぁぇ…?」
そこには、余よりも遥かに身長の高い黒髪の綺麗な女が余を抱えていた。
状況を理解するために目を開いたのに、さらに状況が分からなくなってしまった……一体何がどうなっているんだ…?
視線を横に向けてみると、その女よりも身長の高い赤髪の男がいた
2人して余を見つめて何か話している。ちなみに余はこの2人は全く身に覚えもないし、おそらく見かけたこともましてや会ったことすらないだろう。
それに、今更だが身体の痛みがない。視界も良好だし、出そうと思えば声だって出るだろう。つまり、余はまだ死んでは居ないということだ。
兎にも角にも、一旦身体を起こし周りを確認しなくては……
「…ぁぇ……」
なんだ?身体が上手く動かない、仕方ない…この女の肩を借り……て……
───女の肩に手を置こうとしたその時、余は初めて、自分の身体の状態に気づいた。
なんとその置こうとしていた手は、遥かに短く、小さかった。まるで赤ん坊の様な手に、思わず目を丸くしてしまった。
いや、手だけじゃない、足も、身体も、何もかもが赤ん坊のそれだった……
「は……?」
・・・・
あれから4年の時が流れた。
この4年で学んだことは多くある。まずは余の身体だが、これはもう完璧に幼児の身体だ。近年ようやく歩けるようにはなったが、まだまだ生前の様な動きは出来なかった。これは所謂転生…というものだろう。昔に宮廷魔術師の知り合いから少し話を聞いたことがある。だがその話とは記憶も身体も何もかもが新しくなり、新たな生を歩むという話だった。でも実際今の余には生前の記憶もあるし、死んだ時のこともしっかりと覚えている。
まぁこの事については追追研究していくとしよう。
そして2つ目、ここは余の居た世界とはどうやら違う世界らしい。
魔力の濃度が余の居た世界よりも圧倒的に濃い。そしてある程度この家にある本を読み漁ったところ、余の知っていることは何1つとしてなかった。言語を始め国の名前や地域の名前、魔法の使い方すら余の知識とは全く異なっていた。しかしどうやらこの家はなかなかのお金持ちらしい、生前の余の暮らしには程遠いが、食べ物は充実しているし、物もある程度揃っている。
そして3つ目、この世界の言語をマスターした。これはもう…嫌でもわかるようになってしまったので特に言うことはない。最初に見た時の2人は余の生みの親の様で、その2人から話を聞いて嫌でも覚えてしまった。
文字も本を読み漁るうちに理解出来るようにもなった。
そして4つ目、先程魔法の使い方が異なると言ったが、実は余のやり方でも魔法は使えた。それこそ生前よりも精度が良く、威力も上がっている様だった。余の魔力も生前より上がっているような気がする。
「リアー!何処へ行ったのー!」
「おっと…そろそろ行かねばか……」
母上───ククルカ・リヴイエス。余の生みの親だ。
母上が余を呼ぶ声が聞こえるということは、そろそろ父上が帰ってくる頃なのだろう。
ちなみにこの世界での余の名前は───スティーリア・リヴイエス。なかなかどうして悪くない名前だ。
「あ、こんな所に居たのね!ほら、もうすぐパパが帰ってくるわよ」
「あぁ…すぐに下へ向かうとしよう」
我が家は3階建ての少し他より大きな屋敷である。
父はこの地の領主をしていて、かつこの領の傭兵をしているらしい。ここは田舎なので、王都とは違い、魔物が出ることがあるそうな
「もう。またそんな喋り方して…今日はお客さんが来るんだからあんまりヤンチャしちゃ駄目よ?」
「…分かっております故ご安心を、母上」
そう、今日は父の宰相に当たる立場の親友が来るらしい。ちなみに父とその人は長年共に過ごしたり、狩りに出かけたり冒険に出かけて行くほどの仲らしく、よく仕事を手伝っているので余が勝手に宰相と呼んでいる。
どうやら余と同じ歳の娘が居るらしく、今日はその子と余を会わせたいのだという。
「…ここ最近…貴方は本当に4歳なのかと疑ってしまうわ」
「…?大丈夫ですよ。私は見た目通り、母上が産んでくださったスティーリアです。」
「そう…よね…。うん!リアはこの世でたった1人のあたしの大事な大事な娘だものね!」
「はい」
余は母上に向かって微笑んで見せる。
そして母上と共に1階の客室まで行くと、そこにはもう父上と宰相殿が居た。だが肝心の宰相殿の娘とやらが見当たらない。
「…?父上───」
少し辺りを見回しても見当たらなかったので、父上に何処にいるのか聞こうと思い、父上達の方を向くと、そのソファーの後ろからひょこっと銀色のアホ毛が見えた
「ほら、カウラ。きちんと挨拶しなさい」
「ぅ…でもぉ……」
「……。」
人見知りなのかなかなか姿を見せてくれないご令嬢。今回の目的が余達の顔合わせでなければこのまま余が立ち去ればいいだけの話なのだが…今回はそういう訳にもいくまい。
余はそっとそのソファーに近づき、しゃがみながらご令嬢に顔を合わせる。
「ぁ……」
「初めまして。私はスティーリア・リヴイエスと申します。ぜひ貴方のお名前をお聞かせ願えないでしょうか」
余はご令嬢に向かって優しく微笑みながら、自分の名前を告げる。そうすると、少し緊張が解れたのか強ばっていた身体から少し力が抜けて、こちらをちゃんと見てくれるようになった。
「ぁ……え…えっと…カウラ…カウラ・リーベスト…です…。」
「…そうですか。カウラ…うむ。良い名前ですね。貴方にぴったりな美しい名前です」
「へ…ぁ……」
そう言うと、顔を真っ赤にしながら顔を逸らしてしまった。
何か気に触るような事を言ってしまったのだろうか……
それにしても…カウラは今まで余が見てきた人物の中でもかなり上位と言っていいほど美しい子だ。余にそういった趣味があるわけではないが、つい魅入ってしまう。
絹のように細かく綺麗な銀色の髪に、翡翠のようなエメラルドグリーンの瞳。顔立ちは宰相殿によく似ているが、まだ子供なのによく整っていて、肌もすごく綺麗だ。
「…よし。なら娘達との顔合わせも終わった事だし、そろそろ話を始めようか。」
「そうだな。カウラ、スティーリア嬢と何処かで遊んできなさい」
「…あなた、話って…?」
「……スタンピードだ…。」
「「…!!」」
スタンピード。この言葉には聞き馴染みがある。生前もよくスタンピードがあちこちで起きていて、よく討伐に向かっていた
「父上…そのお話には私も───」
「駄目だ。お前のような子供には少し難しい話だ。」
「でも…」
「リア。心配する必要はないぞ。だから今はカウラ嬢と共に居てやってくれ」
「……分かりました。」
確かに…今の余は子供だ。魔法は生前より使えるとはいえ、身体は基礎もなっていない貧弱そのものだ。ここは大人しく"裏方"に回るとしよう。
「カウラ様。行きましょう」
「…は…はい…」
カウラ嬢に向けて手を差し出すと、そっと握ってくれた。
そのまま余は部屋を出た。父上が小声で「すまない」と言っていたのもきちんと聞き逃さず。
おそらく今回のスタンピードは余程規模が大きいのだろう。その話を切り出した時、宰相殿の目に少し不安があるのを感じた。
「…ミゲルダ…何もあんな言い方をしなくても…」
「仕方ないだろう…娘に余計な心配を掛けたくない。」
「今回のは、それ程大きいものなの…?」
「…あぁ。既にアリア領とクロリンデ領が壊滅したと聞いた。この調子だと、3日後にはうちの領にも魔物の群れが到着するだろう」
「援軍は…?」
「要請はしたが、未だに返事はない。」
「そんな……」
「…ククルカはスティーリアと領民を連れて逃げるんだ。フィリップにはすまないが、俺たちと一緒に戦ってほしい」
「当たり前だろ!ここまで着いてきたんだ。今更逃げるような真似はしないさ」
「でも…あなた……」
「大丈夫だ。戦いが終わればすぐそちらに行くさ」
───予想的中だな。実は部屋を出る前、部屋の中の会話を全て盗聴できるよう魔法を使った。どうやら父上のあの態度…もう覚悟は決めているらしい。それにしても、まさかそんなに早くここへ到着するとは…クロリンデ領からここまでは馬車を使っても1週間はかかる距離だ。それをたった3日で踏破するとは、この世界の魔物とは相当厄介だな。
さて…どうしたものか……
「あ、み…見てください…!出来ました…!」
「おや、すごく上手ですね!これは宰相殿もさぞ喜ばれる事でしょう!」
「えへへ」
一方こちらではカウラ嬢を庭園へ連れてきて、花冠を父上にプレゼントしたいと言うことで、作り方を軽く教えたらすぐに習得し、立派な物を作り上げていた。
そして、カウラ嬢がまた花畑の方へと向かっていった、その瞬間だった──────
ここまでのご精読ありがとうございます!そして、この作品を、この私を見つけてくださりありがとうございます!
これから先もどんとん投稿していくつもりですのでどうか続きを首を長くして待っていただけたら幸いです!