モブと夏休み5
「颯加入おめでとう!かんぱーい!」
「「「かんぱーい!」」」
「どうもー」
「さあ食えよ!肉も野菜もいっぱい買ったからな!」
「お金は私が払ったんですけどね」
「あごめん、私電話出てくる」
「行ってらー」
「……颯、ぶっちゃけ菊のこと、好きだろ?」
「なっ?!」
「反応が図星過ぎ!てか、分かりやす!」
「オラでもわかったぞ」
「日野颯、恋愛にうつつを抜かすのは後だぞ」
「……はい」
「ほーら食え食えー!!」
「ふー!ごっそさーん!」
「もぉ、お腹いっぱい…」
「颯もっと食えよー!だからヒョロっちゃうんだぞー」
「ちょ!気にしてるのにー!」
「颯の反応面白いのぉ!」
「阿佐ヶ谷さんまで……」
「そういえば、あのブラザーズは?」
「なんかまた買い出し行ったらしい」
「流石にもう入んないわー、なぁこの後どうする?」
「颯、ちょっと外の空気吸いに行こ!」
「あ、あー」
……行ってこいのサインかな?
「うん、行こ!」
「いってらー!」
「いってきー!」
ー道路ー
「颯、ごめんね、いきなりあんなこと」
「いやいやいや、全然」
「……実はね、私が転校したのは、父さんの指示だったんだ」
「父さん?」
「顔も声も分からない、でも母さんはこの話相手が父親だって言うの。もちろん戸惑ったけど、私の過去エピソードを語ってたから父さんなんだなって思ったの」
「……菊の過去エピソードって?」
「そこ掘り下げんなし!それでさ、ある日突然連絡が来たんだ、今すぐ引越して、この学校に転校しろって。それで今のとこに住んでるって訳」
「そんなすごいことが…」
「って話してる間に、ほら」
「これが…本物のラジ館……」
本当なら、豊田さんと……
「颯、明日あなたはヒーラー役になってもらうわよ」
「えっでも僕能力者じゃないし」
「大丈夫、これ」
「スマホ?」
「スマホ型の回復機だ」
「なんだそれ?」
「見てて」
"ドカン"
「えっ、なにしてんの?!なんで自販機に頭突きした?!」
「いったー!!ほら、そこ見て」
「……あっ!HPが!」
「みんなのHPがのってるでしょ、それで私のHPが減ってる。まぁまだかすり傷程度ね、それじゃ、回復して」
「えっとー、これ?」
"faaan"
「はい、痛み消えましたー」
「ほ、本当に?」
「HP、見てみて」
「あっ、全快してる」
「すごいでしょー!でもー、あんま使わない方がいい」
「なんで?こんな便利に回復出来るんだよ?」
「それには、大きな欠点がある。SPって知ってる?」
「SP?」
「RPGでよくあるでしょ?HPとSP。現実世界でも同じように存在する」
「すご!」
「HPは見ての通り上限があるが、SPには……」
「ない!」
「正確には、"わからない"だ」
「わからない?」
「ここでいうSPとは、"寿命"なんだ」
「じゅ……」
「回復量が大きければ大きいほど、寿命は削られる。ただ、いくら削れるかとか詳しいことはわからない」
「じゃあ、僕って」
「少なからず、寿命は縮んだね」
「……そんなもの、使えるわけ」
「ごめん!でも、颯にこうしてもらわないといけないほど、相手は強いの!……彼女は、強いの……」
「……」
「お願い、1回、この1回だけ!それに、世界線が変わればこれはリセットされる、寿命も元にもどるんだよ!」
「……」
「ねぇ颯」
「……ちょっと、君たち深夜になにをして」
「やば、颯走れはやく!」
「え、ちょ!」
「こら、待ちなさい!」
ー路地裏ー
「なんとかまけたね、危ない危ない」
「菊、速いよ……」
「颯が遅いだけー、はぁ、予知でわかったはずなんだけどな……私もまだまだかな」
「そういえば、予知は寿命使うの?」
「もちろん」
「まじか…」
「ていっても、1分先の予知で1分縮むって感じ」
「そう、なんだ」
「1ヶ月先で1ヶ月分、1年先で1年分、100年先なんか予知したら即死だね」
「なんか、怖いね」
「今までの能力を見てきてね、全部いい感じに都合が悪い仕組みがあるんだよね。遠い未来を予知してもそこまで生きれるかわからなくなるし、回復したらその分寿命減るし……私さ、嘘ついた」
「嘘?」
「私、何年、何百年先の未来も予知出来るの。でも……意味ないじゃん?そんなことして、それに…怖い」
菊の声や体が、震えていた。
「怖い、怖いのぉぉ!!」
「ちょっ、落ち着いて!けいさ」
「あっいた!もう逃さないぞ!」
「や、やばい……」
やばい、やばい……捕まる、、
「颯走れ!!」
「?!」
いつのまにか、菊は後ろにいて、僕は全力で追いかけた。その直後、後ろから爆発音がしたが、それを見るほどの余裕はなかった。無心で走り続け、秘密基地へと帰ってきた。今気づいたけど、ここって神田駅の近くだったんだな。
「はぁ、はぁ、」
「流石に颯も疲れたよね、お疲れ」
「うん、ありがと」
「……明日に備えてはやく寝よ?」
「うん」
菊の背中は、とても逞しい姿をしていた。
ー7月31日ー
「本日未明、秋葉原の路上にて、男性の死体が発見されました。年齢は30歳から45歳で……」
これ、昨日の……
「どうやら、朝ごはんは帰ってきてからになりそうですね」
「力じゃ負けないぜー」
「この小娘は調子に乗りすぎじゃ」
「絶対に、やろう」
「颯!」
「菊…」
「準備、いい?」
「……あぁ、あぁあぁ!!やったるよ!!」
「颯、元気になったじゃん」
「よしみんな、行くぞー!!」
「「「「「おー!!」」」」」
これで、いいんだよな……