第4話 交換条件(その1)
オスロへ入った藤原はベルグと再会し、いよいよオルセンとの再会を期す!
藤原は食欲のないままホテルのレストランへ行った。どこも同じようなアメリカンスタイルの朝食は味気ない。それでもミルクを多めに入れたコーヒーはありがたかった。
朝食後、9時を過ぎてベルグに電話した。
「休日に申しわけないね……」
そんな呼びかけに、ベルグは声を荒げる。
「俺が何年日本人と仕事をしていると思うんだ、えっミスター藤原。いつも君達がどうやって休みを過ごすか、俺は忘れてはいない」
ベルグは相変らず。その物言いに苦笑するしかない。
彼は車で迎えに行くと言って、10時過ぎにはホンダシビックに乗って現れた。
何年ぶりかに会うベルグは赤ら顔を増々赤くして、そのままバイキングの映画でも出られそうな雰囲気だった。彼は元機関長。神戸に来る度、義父の武弘と飲み歩き、その後船を降りて新日本の代理店を始めたのである。
昭和30年から40年代、世界中の船が日本で建造されたと言っても過言ではない。高度成長の担い手として、重工長大の旗頭である造船は、外貨を稼ぎ出したのである。
船が就航すると、主機関を始め発電機、ボイラーなど、その部品は廃船になるまで必要となる。これに目をつけたのは藤原であった。
業界に先駆けオフコンを導入。日本メーカーの販売代理店権を獲得し、毎年600社を超える世界の船会社へ部品の供給を始めた。
機関長出身のベルグは、その人間関係をして欧州一の売上を上げた。だがオイルショック以後、日本出来の船が激減した為に、会社を存続できなくなったのだった。
「ミスター藤原、オルセンには連絡を入れました。今晩にでも電話をくれとのことです」
シビックを発車させるなり、ベルグはそう言った。
思ってもみない彼の早業に、藤原は返す言葉もなかった。
だが事は動き出した。
(つづく)