表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「槿(むくげ)と桜」【前編】  作者: 船木千滉
8/41

第3話 オスロへ(その3)

ヒィースローからオスロへ空路約2時間余り。だが時差の1時間が加わる。

日本から英国までの疲れが取れないまま、深夜の移動はきついものである。

だが藤原はベルグからの話で道が開けたこともあり、苦にはならなかった。


 ノルウエーのオスロは北欧最古の首都である。南北に百キロ近く走るフィヨルドの北端にあり、北緯六十度辺りに位置している。


 針葉樹の森に囲まれ、なだらか丘陵地帯に広がる街並は北欧ならでは。バイキングのお国柄、ロマンに溢れた人々が造ったのであろう、住む者に安らぎを与える街である。


 もうすっかり日の暮れたオスロ空港へ、藤原の乗った365便は滑り込んでいった。


 ヒィスローから電話を掛けたベルグは、突然の電話を喜んでくれた。事情を話すと、彼は驚くべきことを聞かせてくれた。


ベルグ曰く、なんとNAJOCの主席工務監督は、藤原と旧知の間柄であると言うのである。


その名は Mr.H.Orsen。それは十年程前、オスロの船主がロンドンのコンサルと、トルコで貨物船を建造した。そのコンサルと藤原は懇意で、日本製機器の調達を任せてくれた。その際、オルセンは船主側の監督であった。


 思わぬ幸運に恵まれた藤原は、何度もベルグに礼を言って、翌日彼と会うことにした。


 10月6日日曜の朝、藤原は糊のきいた固めのベッドシーツに違和感を覚えながら、目を醒ました。土曜の夜、オスロへ入りホテルへチェックインしたのは、11時過ぎだった。


 ベッドに入っても寝つけず、シャワーを浴びたら目が醒めてしまった。

 それでも少しまどろんだが、気がつけば朝になっていた。


 起き上がって厚手のカーテンを開けると、まだ明けやらぬ窓の外に針葉樹の森、ロンドンとはまるで違う風景がそこにあった。


 古風な把手をして窓を開くと、シンと軋むような外気が入り込んでくる。その冷たさの向こうで、部屋の灯りを受けた木々の濃い緑が鈍く光っていた。


 その清々しさに藤原は、身も心も再生されるような思いで、起抜けのけだるさはすっかりどこかへ消えていた。


(さて、勝負はこれからだ……)

 と思うと、久しぶりの充実感を味わう藤原だった。


(つづく)


第4話、明日以降の掲載となります。

よろしくお願いします。 船木

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ