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「槿(むくげ)と桜」【前編】  作者: 船木千滉
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第3話 オスロへ(その1)

ノルウェーの首都オスロは北緯59度。札幌が43度程だから、その位置が知れる。

10月から急に日が短くなり、12月には夜明けが9時前、3時過ぎには日が沈む。

10月の平均気温は6℃前後。でも街に立ってみれば、心温まるものを感じさせる。


 10月5日土曜日午後遅く、藤原はすっかり日の落ちたヒィスロー空港にいた。本当ならオランダで週末を過ごしているはずだった。だがナミゾウの武田の意向を受け、急遽予定を変更し、ノルウエーへ飛ぼうとしていた。


 午後7時半発、オスロ行きスカンジナビア航空365便への搭乗を待つ間、藤原は薄暗い航空会社のラウンジに入った。


 日本と違って北欧はどこも室内が暗い。間接照明のせいか、はたまた国民性の違いか、時として日本人には鬱陶しくなることがある。


 思えば、どこへ行っても煌煌と電気がついている日本。明るいことは当然だという風潮がある。だがそれでどれほどのエネルギーが費やされているのか、誰も考えはしない。


 オイルショックから十年、喉元過ぎれば誰も気にしていない。ただ今の藤原は、せめて照明だけでも明るくして欲しかった。


 空港のラウンジは、土曜の午後だというのにほぼ満室。週末を自宅で過ごそうとする単身族か、ビジネスマン風の男が多かった。


 ただ羽田のラウンジと違って、鼠色のスーツで背を丸めて缶ビールを呷る者はいない。皆ゆったりとアームチェアに腰掛けて手に雑誌を持ち、時折コーヒーカップを口にする姿はいかにも優雅だった。


 為替がどうなろうと、日本が欧州に追いつくには時間が掛かる。藤原には、そう思えて仕方がない。だが弱気は禁物とばかり、改めて身を正した。


 過小資本とも言われる潤沢な含み資産を持つ、資本金1億の会社の専務取締役である。国内外450名の従業員を従え、連結総売上が250億超の会社のナンバー2である。


 入社以来、順風満帆に出世してきた。


(だが……何か違う、何かが足らない……)

 そう考え始めると、もう止まらない。


 やはり照明が暗すぎると、落ち込む藤原だった。


(つづく)

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