表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「槿(むくげ)と桜」【前編】  作者: 船木千滉
5/41

第2話 大聖堂近くのレストラン(その3)

商船の寿命は20年から25年。新造船に発電機を納めれば部品は最後まで売れる。

故にメーカーも、その部品を扱う商社も、船主の指定を取ることは重要である。

ただ新興船主のNAJACに、何の伝手もなく船主工作を請負うのは無謀だった。

 ナミゾウの装置は一隻で八千万円は越える。船主指定が取れるか否かは別として、問題はナミゾウが新日本に幾ら口銭を払うかである。


 上田の話では新造は6隻一括で、納期から逆算すると契約のタイムリミットは10月末。つまりあと半月で決めなければ失注する。それだけに武田は焦っているに違いなかった。


「造船所は、何と言っているのですか?」

 藤原はあくまで順当な質問から始めた。


「リードヤードは東海ですが、うちの出足が遅く、船主はフィンランドのボルツラを指定していて、取りつく島がないのが実情です」


(ほう……えらく正直に出てきたなあ)

 内心そう思いながら、藤原は話の落し所を探った。


 上田の話では、実際のところ武田は日本側の船主が決定権を持つと判断して、オスロへのコンタクトを怠ったらしい。すべては武田の判断ミスが原因だった。


「分かりました。多少昔の伝手があります。とにかく明日、オスロヘ飛んでみましょう」

「えっ、本当ですか――」

「その代わり、高いでっせ……」


 藤原に勝算がある訳ではない。

 実際コネもない。だがそれが藤原の仕事の流儀であった。


「はい……、2%で、いかがでしょうか」

 武田のオファーに、藤原は表情を変えない。


「まあ、取れるかどうか……、ですな」

 そう呟いて藤原は、コーヒーカップを手にした。


 しばらく逡巡した武田は、身を乗り出して言う。

「3%でお願いします。これで精一杯です」

 と言って顔を上げた武田の目は真剣だった。


(この男も追われている。重役への道が消えるか否かの土壇場なのだろう。だが今更、この時期に先の見えない仕事を受けるのか)


 藤原は自虐的になりながらも、心の底から熱いものが湧き上がるのを感じた。

 ただこれは、灯滅せんとして光を増すことかも知れない、と覚悟をしていた。 


(つづく)

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ