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「槿(むくげ)と桜」【前編】  作者: 船木千滉
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第2話 大聖堂近くのレストラン(その2)

船は造船所が造るが、船の一生は人の生き様にも似て一種複雑怪奇である。

船を造るために必要なもの、それは恐らく資金と荷物と時期の三つであろう。

恐らくというのは、これは商船の話であり、他の船種となるとまた別である。

車やトラックを、作る国から使う国へ、儲かる時に造るのが今回の船である。

注:PCTC(Pure Car and Truck Carrier)


 午後5時半過ぎ、藤原は机の上を片付けた。ロンドンへ来るのはこれが最後かも知れないと思うと、机の細かな傷でさえ愛おしかった。


 何はともあれ約束の時間に遅れるのが嫌いな藤原は、早めにレストランへ向かう。


 通りへ出ると、都会にしてはどこか日本の港町のような風情がある。テムズ川沿いの通りは、狭くて曲がりくねった路地が多かった。


 約束の店はすぐ近く。路地道が霧雨に濡れている。大ぶりの石畳の表がキラキラとして、どこか歴史の重みを謳っているようでもある。


 藤原は Taberna の店を気に入っている。特に鯛のアンコーナ風クリーミアンチョビソース。辛口の白ワインに良くあう。それに地中海風の内装で充分なスペースがあり、他の客が気にならないのも藤原の好みであった。


 武田は先に来ていた。その表情はいつになく神妙で、思い詰めているのは明らかだった。


「どうも……、お待たせしました」

「あっ藤原さん、急にお呼びだてしまして」


 そう言って腰を上げる武田を押し止め、藤原は対面に座る。すでに藤原は神戸の上田と電話で話をしていた。武田は多くを語らなかったようだが、そこは海千山千の上田らしく、ナミゾウの動きをキャッチしていた。


 藤原は本題を避けた。武田が新日本のライバル、極東商会へも接触していることを聞いていた。それだけに事は急いてはいけない。だが武田も名うての営業マン、デザートが出るまで終始世間話に終始した。


「ところで武田さん、話というのは……」

 結局藤原の方が折れて、話を始めていた。


「はい。実は西日本重工と東海造船が建造を決めた、ノルウエーのNAJAC向け自動車運搬船ですが、どうもうちの旗色が悪く……」


 NAJACは、Norway & Japan Ocean Carrierという、日本とノルウエーの合弁会社である。日本の自動車と韓国のトラックを運ぶ、自動車兼トラック運搬船(PCTC)を複数隻建造するという、大型プロジェクトであった。


(つづく)


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