第2話 大聖堂近くのレストラン(その1)
英国で有名な食べ物と言えば、タラのフライにポテトの FISH & CHIPS であろう。
それを日本のビジネスマンが食べるのは、たいてい昼食で BARへ入った時である。
カウンターで大ジョッキと共に、真昼間からビール飲んでと、恐縮しながら……。
英国に美味しいものはない!とは言わないが、結果的に夜は中華かイタ飯になる。
10月14日金曜日、スコットランドでの所用を終えた藤原は、ロンドン事務所へ戻った。週末オランダで休養を取る予定で、その前に事務処理を済ませるつもりでいた。
留守中、部下の上田から伝言が入っていた。ナミゾウの武田に連絡して欲しいという。先方は新日本と同じ通りのビルに入っているナミゾウUK。大阪に本社がある発電機メーカーで、創立七十年の老舗メーカーである。
武田は新日本が部品を扱い始めた頃からのつきあいで、当時はまだ駆出しの主任だったが、今では現地法人の取締役だった。なにはともあれ藤原は電話を入れた。
「いやー武田さん、藤原です」
「いつぞやは、代理店会議で失礼しました」
「いやこちらこそ、その節は……。何かお話があると、上田から連絡を受けたのですが」
「はい、実は私一昨日まで日本におりまして、上田氏から専務さんがイギリスにおいでだと伺い、それでアポをお願いした次第です。実は折りいってお願いがあるのですが、今晩いかがでしょう、お時間を頂けませんか……」
含みのある物言いに、この時藤原は週末のロッテルダムは駄目だという予感がした。
「分かりました。それじゃ夕食をご一緒しましょうか。大聖堂近くのイタ飯、あのレストラン、タベルナとか言いましたかね?」
「ああ、Tabernaですね。それじゃあ……、六時でよろしいですか」
「けっこうです、では後ほど……」
藤原の放ったダジャレを、武田はスルーした。いかにも切羽詰まっているようだった。
電話を切って時計を見ると午前十時。日本との時差は8時間。神戸の企画課長・上田の顔を思い浮かながら、夕方電話をすれば会食の前に聞けると踏んだ。
(つづく)