第4話 交換条件(その4)
自動車兼トラック運搬船(PCTC)には、車を固縛する装置類が重要である。
乗用車は、シャーシのアイと甲板の金物をBL(破断)1.2tのベルトで結ぶ。
通常4本とか8本のベルト類で車を固定する。これがラッシングベルトである。
オルセンの部屋は会議室と違って、重厚なマホガニーの家具で整えられた重役執務室である。隣接してダイニングルームがあり、そこで昼食となった。
中小企業では望んでも叶えられない、エグゼクティブの環境である。
それは藤原がコーヒーに口をつけた時だった。それまでの口調とは打って変わって、真摯に困っているという言葉で話を始めた。
「この船の荷主が日本の自動車会社で、共同運航も同じ系列だと君も知っているだろう。実は彼らが無理難題を押し付けてきている」
彼が言うには相手の要求が度を越して、NAJOCの購入品まで系列を使えというらしい。特に困っているのは、1隻3万本が必要な車両個縛用ラッシングベルトだという。
指定された日本製は1本5ドルで、NAJOC標準の倍らしい。1隻当りの差額が円換算で約1500万円。これが6隻で、すべてNAJOCの追加負担になるという。
しかも運航契約期間中の補充も、すべて指定のベルトを購入せねばならないのであった。
「これでは船を運航すればするほど赤字が増える。何しろベルトは消耗品なのだ」
えらくオルセンは言葉を荒げて、いかにも憤懣やる方無いと言い募る。背後に何があるのか知れないが、藤原は聞くしかなかった。
新造船の設計はあらかた完了し、もう起工式まで間がないと言うのに、問題解決の糸口さえ見えないと言うのである。ただオルセンの粘りで、同じ性能であればメーカーには拘らないという所まで先方の妥協を引き出した。
荷主にすれば、時間的に他で作るのは無理だという思惑で、とにかく文書を交わした。そこへ藤原が飛び込んできたというのである。
ベルトは破断力が最低1.2トン。数量は1隻3万本で、1986年10月末に第1船。その後2ヶ月ピッチで計6隻である。
これがオルセンの要求する、ナミゾウの発電機を発注する為の交換条件である。
発電機が1隻約8000万円。ベルトがUS$で7.5万ドル、1$200円のレートで1500万円になる。合計が1隻約9500万円。これが6隻である。
だがベルトを作るといっても、それを判断する知識も資料も藤原は持っていない。決断次第で、6億近い物件を取るかあるいはゼロか、藤原は二者択一の選択を迫られた。
(あの社長が……、どう言うか……)
それは無謀な掛けだと思えた。新日本貿易創設以来、義父の口癖は「石橋は叩いても渡るな」であった。戦時中、ボロ船の商船を操って、敵潜水艦のウヨウヨいる海域を生き抜いた猛者が、酒を飲むたびにそう言った。
だがそれは「川を渡るなら自分で橋を架けろ」という事だと、解釈している。
(私がオスロへ来たのは、この為か……)
そう考えると、藤原は最後の決断を下した。
但しそれは新日本として何も条件をつけられない正に一方的な交換条件だった。
(第5話へつづく)
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船木




