第4話 交換条件(その3)
発電機を売り込む営業は、どんな仕事でもそうなのだが、簡単な事ではない。
船主に取って重要なことは、船会社に依っても違うが、やはり安価安全安心。
機械的な知識と営業トークだけでは足らず、やはり知見と経験がものを言う。
走り去る白いベンツの、リアウインドウ越しに、運転手の背中を見送りながら、
「ほんまに、ここでおうてるんやろな……」
と、藤原は森の入口でそう呟いた。
車道から見るに民家としては大き過ぎる。
会社とも思えない。
だが引き返すにはもう足がない。
仕方なく玄関へ向かった。
だが案ずるより生むが易し。
案ずる藤原の前で重厚な扉が開いた。
オルセンだった。
あらかじめ部屋の中から見ていたのか、タイミング良く出迎え、
「Yah, Mr.Fujiwara, long time no see!」
と言って、背高の腰を折るようして出迎えた。
彼は細いフレームの眼鏡の奥で瞳を輝かせ、両手で藤原の手を握る。
そのまま木の温もりのする廊下へ招き入れると、改めて言う。
「藤原さん、また会えて本当にうれしい」
「いや――オルセンさんもお変わりなく」
藤原は人見知りする。よく営業が務まったと思う。
だが海の仕事は傲慢であってはならない、という義父の言葉が今も生きていた。
藤原が案内されたのは、中庭に面したガラス張りの部屋。10人程が座れる楕円テーブルがあり、会議室というよりテラスといった雰囲気。
大ぶりのガラスは白いフレームで縁取られ、天井の一辺まで切り込んであった。
吹き抜けのガラス天井から陽射しが注ぎ込む。その淡い光が水平に屈折して、中庭の観葉植物を浮かび上がらせる。こんな事務所で、と藤原でさえ憧れてしまうほどだった。
勧められるまま椅子に腰を下ろすと、背の高いブロンズ女性が入室。飲み物を聞かれ、コーヒーを頼むと、オルセンも何か言う。
担当者を呼べと言ったのか、やがてラフな格好の男達が現れた。
藤原の前に四人が座り、奥のオルセンを加えれば五対一の会議である。
オルセンを補佐する工務監督、機関長、電気技師、そして購買部長の四人だった。
さっそく藤原は会社紹介からナミゾウの発電機と、説明を始めた。
だがなんとオルセン以外は、ナミゾウの会社名さえ知らなかった。
(さて……、どうするか)
話をしながらも、藤原は無理をしなかった。ナミゾウをゴリ押しするような手法は取らず、あくまで自分の営業スタイルを貫いた。
発電機の納入レコード、そして新日本の供給体制やアフターサービスと、ナミゾウを使って得るメリットなど理詰めの説明に終始した。
もちろんナミゾウを知り尽くしているオルセンがいる上での話である。
ただ機関長からの質問には、さすがに藤原も閉口した。
(ここに上田がいれば……)
何度そう思ったことか。
だが会議は昼までかかって概ね成功を納めた。さすがに藤原もこめかみが痛むほどだった。ただオルセンの満足そうな表情に、成功の確信を得ていた。
だがその後オルセンは簡単な昼食をと言って、藤原を自分の個室へ招き入れた。
そこで彼は頼みごとがあると、表情を強張らせた。
「この船で、非常に困ったことがある」
そう言って彼は藤原に迫ってきたのだった。
(つづく)




