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短編まとめ

【短編】残念だけど、ちょっと聞いてほしい。

 ああ、うん、ちょっと良いか。疲れてるか?大丈夫か。

 まあ、昨日、浴びるほど酒飲んでたもんな。体調崩すのも無理もない。でも身持ちを崩すのは絶対にやったらいけないぞ?


 それで、お前には少し話したいことがある。外に行こう。

 え?別に何もしないよ。流石にリンチとかないって。お前には、ただ言っておきたいことがあるだけなんだ。

 行こう。















 ..........まず、俺は、お前のことはすごくよく頑張ってる奴だと思う。毎日毎日魔法の練習を絶えず積み重ねてるのは、俺達皆知ってる。それで、お前にも沢山助けられた。

 覚えてるか?俺がかぎ爪野郎に重傷負わされて、死にかけてた時。他のパーティメンバーも死にかけだったろ?それをお前が、身を挺して回復させたんだ。あの時、お前がいなかったら、確実に俺達は死んでた。改めて礼を言うよ。


 ――ああ、立ったままだとつまらないか。歩きながら話そうや。


 その他にも、お前、ダンジョン攻略してた時あったじゃないか。そこで野宿するって言って、そのエリアが水びたしになってるのを忘れて、荷物を置いちまったんだな、フィンのやつ。そのせいで俺達は貴重な薪を濡らしちまって、火を焚けなくなったわけだ。

 でもお前が薪を乾燥させて、火をつけてくれたおかげで、無事あったかい飯が食えたよ。あんときのスープは美味かったなあ。正直食料なんて尽きてたから、その辺で拾ったモンを食うしかなかったろ?ゲテモノだらけでとても食べられた料理じゃないと思ったけど、腹減ってたんだろうなあ。


 そうそう、それからあいつ。あのときのリーネルの顔は傑作だった。いちど小型のドラゴンを倒してたんまり金が入ってきたときあったろ。皆に「無駄遣いは止すように」って言って小遣いとしてそこそこの額分配して、あとはパーティの活動資金と貯蓄に回してたんだが.......賭場に入り浸る馬鹿が一人居たな。

 あいつの腕っぷしは買ってるが、あの悪癖だけはどうにかならないもんだろうか。掛け金が一日ですっからかんになって他メンバーに泣きついてたって話は、俺らの笑い話として定番だよな。


 あと、お前、俺の母さんの葬儀に参列してくれたよな。まあ他のメンバー皆そうだったんだけど、治らない病って知りながら、色々と、薬とか、魔法とか、そういうのに関して勉強してたんだろ?

 俺、正直諦めてたんだよ。母さんもたぶんそうだった。

 だがお前のおかげで、きっと母さんは最期まで希望を持ってたし、俺も母さんと病気と真正面から向き合えた気がする。

 あの時、お前が魔法で墓に花を降らしてくれたのは忘れないよ。一生。


 .....お、ガキがいるな。元気いっぱいで何よりだ。ああ、危ない、そんなに走り回ったら――それ見たことか。転ぶに決まってる。


 え?ああ、おう、どうぞ。やっぱお前ってお人よしだよな。損しそうな性格してるけど、お前のそういうとこ、俺、嫌いじゃないぜ。

 ほら、親切なお兄さんが怪我を治してくれたぞ。こういう時はありがとうって言うんだ。



 懐かしいな。

 俺もお前もああいう時期があったな。

 俺が先陣切って無茶に突っ込んでいって、それをお前が止めて.......その繰り返しだったんだな。お前と出会ったときも覚えてるよ。学舎で一人浮いてる奴だったし、俺は興味が湧いたんだ。

 皆から遠巻きにされてたが、話してみりゃあずいぶん面白れぇ奴だってわかった。お前もお前で、俺のこと結構好きだったんじゃないか?だって、こんなところまで、なんだかんだ言いつつ、ついてきてくれたんだもんな。もう25年か。はは。

 おっさんになると時間が経つのはあっという間だなあ。


 俺は結婚して、ガキもできて、いかにも良夫賢父!って感じだろ?

 え?違う?......冗談だよ。俺なんて、お前が居なかったら、ダメダメな、突っ走ることしか知らねぇガキのまんまだった。きっと冒険者業も長続きしなかった、すぐに死んでたに違いないだろうからな。

 お前は相変わらず魔法の研究に打ち込んでるよな。空き時間で。それすごくいいと思うぞ。正直、お前には冒険者じゃなくて研究職の方が似合ってると思うくらい――




 .........................

 .......................................

 ...............................................あぁ。


 ごめんな。お前も分かってたよな。だってお前、俺より頭いいし。


 今回話したかったのは、お前に、パーティをやめてもらいたい、っていうことだ。




 俺らのパーティはときどきSクラス級の依頼だって舞い込んでくるようにまで成長した。お前の助けがなかったら、絶対にありえなかった未来だ。

 だけど、お前は本当に、ほんとうによく頑張ってる。

 それは俺がガキんときからいっちばんよく知ってる。いつもお前とはいっしょだった。

 お前は本当に頑張って、頑張って.........だけど............でも.................


 ごめん。

 はっきり、言わせてもらう。


 お前の実力は、足りてないんだ。俺たちのパーティの水準に。



 勿論お前が望むんだからさ、――俺はどこまでもこのメンバーで行ってやるって思ってた。だけど、俺は........失うのが怖い。お前が死ぬのが、怖い。


 お前はほとんど、ギリギリBクラスの魔法士で、どちらかというとCクラスに近い。

 これから舞い込んでくる依頼をこなすにはもうそろそろ限界があるだろ。お前、賢いから分かってると思うけど。

 でも、お前が望むなら、お前の意志だから、って、このままいかせてしまうのが怖いんだ。死んだ時に、お前の顔も、自分の顔も見れなくなるんだ。



 ここまでついてきてくれたことには本当に感謝しかない。

 俺の無茶ぶりにつきあってくれて、ずっと嬉しかった。

 俺のわがままに、ここまで付き合ってくれてありがとう。



 ...........知り合いがさ、魔法の研究してるんだ。お前、それに興味とかないか?よければ紹介したい。

 もしかすれば、冒険者よりも、研究者っていう方がしっくりくるかもしれないし。

 でも、パーティを抜けたからって言って、お前と俺たちの縁が切れるわけじゃないから。

 俺はお前のことはいつまでも相棒だと思ってる。

 お前も、俺のことを親友だって思っててくれ。

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