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「はっ!はっ!」
ここは人知れぬ山の中。
一本だけやたらと太い木を人形がわりにして、何度も何度も剣を振るう。
「今日はこんなとこだな…」
そう呟き、山を降りていく。
見ての通り、修行をしていたのだ。
この世界には、人間の他に異人や異形と呼ばれる存在がいる。
そして俺は人間、奴らとは圧倒的に身体能力で劣っている。
殺されないためには、少しでも強くならねばならない。
だが、これは正直気休め程度でしかない。
奴らは人間より遥かに強大な力を持っている。
いかに訓練したとしても、やられるときはやられるだろう。
「こんな荒れた山で何をされているのですか?」
山を降りる途中で声をかけられた。
それは白い帽子をかぶり、白いローブを着た女だった。
「…修行の帰りだ」
「修行…ですか」
「ああそうさ。異形とかに喰われちゃたまんないからな」
「それはよいですね」
「けど、あんたらからすりゃ、全然大したことはないだろうな」
女は俺より背が高く、青い杖を持っている。
この出で立ちからすると、恐らく異人だろう。
それも、かなり上位の。
「…そう、ですね。確かに、人間がいかに気張ろうと私達からすれば大した事はない。
特に、上位種の私にとってはなおさらね」
「…まあ、そうだろうな。
いいよ、俺を殺りたきゃ殺りな」
どうせ俺には家族も友達もいない。
ここで死ぬんなら、それはそれでもいい。
「そうですか」
女は、優しい目で俺を見てくる。
「なんだよ?」
「修行をしていたということは、力を欲しているのではありませんか?」
「まあな…
こんなしがない人間でも、強くなりたいって気持ちはあるんだよ」
「やはり…
それでは」
女は俺に歩み寄ってきた。
「なんだよ?」
「あなたの望みを叶えましょう。
力を、授けます」
そして、
「っ!?」
腹に手を突っ込まれた。
「大人しくしなさい…
あなたが人間である限り、私に楯突く事はできない。
しかし…」
視界が真っ白になる。
「これからは、あなたは私と同等の存在となるのですよ」
「…?」
今、何をされたんだ?
全くわからない。
「何が起きたかわからない、という顔をしていますね。
お教えしましょう、あなたはもう人間ではない。
私、つまり司祭と同等の立場の異人…魔皇になったのです」
「…俺が、魔皇に?」
魔皇ってのは確か、魔法使い系の異人の最上位種族。
俺が、そんなものに?
「さあ、それではいきましょう」
女に手を引っ張られる。
「お、おい!どうする気だ!」
「大したことではありませんよ。
ただ、ちょっと助けてもらうだけです。
…世界の平和を保つために、ね」