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バイク

作者: kaHo

「あのさぁ、俺はお前のパシリか?」

と、後ろでもたれ掛かっている幼馴染こと沢城梓さわしろあずさに不機嫌そうに言う。

「パシリなんて人聞きの悪い! 大事な用があるかられん()()()してるの!!」

と返答する梓。

最近バイクを買ってから、しきりに乗りたいと言い出して聞かないので俺はうんざりしていた。

なんでってここ最近、月2くらいで最寄り駅ではなく、大きな駅まで送り迎えしろというのだ!

それに梓の持ってるカバンはえらくでかい。

毎度旅行にでも行っているのだろうか? と疑うくらいだ。

まぁ、梓がどこ行こうと勝手なんだけど、俺を巻き込むなとは言いたい。

そう思っていると、いつの間にか大きな駅に着いた。

梓はバイクから降りては、

「ありがとう、蓮。あと一回の辛抱だからさ、またお願いね!」

と足早に駅の中へ。

おいおい、まだパシリにされるのかよ、と20分かけて家路に着く。

「ただいまー」

疲れた様子で玄関に靴を散らかしながら入る。

「もう、蓮! 靴くらい揃えなさい!」

と、怒涛のごとく母親に怒られる。

今日は災難の日だ。

家の電話が鳴る。

母親が出ては、世間話をしていそうだ。

ソファーに座っては、別に見たいテレビ番組もない。

部屋に戻って寝よう。

ーー

翌日。

バイトでファミレスで働いている。

ったく、日曜日は混むんだよなーとあくせくしながら、事なきを得てバイトは4時間程度であがらせてもらっている。

明日は学校。

もうすぐ、高3になるのだ。

進路、真剣に固めなくちゃな。

そう思っていた矢先のことだった。

翌日。

学校に向かうと、皆何故だが騒がしい。

2年D組。

やはり、梓はいない。

また迎えに来いってか。

やれやれだ。

俺のクラスであるC組に入ると、男子が寄ってたかって俺のところに来る。

なんだよ、ハーレムなら喜ぶが男が来ても嬉しくないっての!

そう俺が思ってると、

「なぁなぁ滝沢、お前D組の沢城さんと仲いいよな?」

1人の男子生徒が何故か興奮して聞きに来る。

確かに、あいつは誰にでもサバサバして人懐っこいからなぁ。

べ、別に、あいつが誰に好かれようと勝手だけど。

俺みたいなそこらへんにいる男子とは違い、目はぱっちりして鼻筋も通っていてぷっくりした唇で化粧もしなくても可愛い。

恐らくだが、男子に好かれるThe女子なのは間違いないが。

そんなことを思いながら、

「まぁ、そこそこ」

とムスッと返事する。

「ならさぁ、昨日のあれホントなんだよな?」

「 やべー、この学校から芸能人がでたってことか?!」

と、訳の分からないことを口走る男子共。

俺は、

「なんのことだ?」

と質問してみると、男子共が正気か? と疑うような目で俺を見る。

何やら蚊帳の外にいるようだ。

全く理解できん。

「……お前、知らないのか?」

と訝しげに問われる。

「だから、何だよ?」

と、俺は声を荒らげてしまった。

すると、目の前にスマホの画面を見せられた!

「美少女オーディション?」

俺は更に訳がわからなくなる。

男子共はこれとは言わんばかりに、

「ここに書いてあるだろ? 沢城さんが演技部門グランプリって! 画像もほら!」

と見せてくる。

確かに梓がいる。

斜めがけのたすきには『演技部門グランプリ』と書いてあり、整えられたサラツヤ髪の上には冠が。

「昨日テレビでやってたんだよ! 最優秀グランプリにはならなかったけど、演技うまかったぜ」

と、男子一人がさも自身がしたと言わんばかりの言いようだった。

俺は衝撃を受けた。

だって、あいつ最近旅行ばっかで、こんなオーディション受けてるなんて一言も。

いや、でもあいつ一言も旅行なんて言わないし、俺が勘違いしてただけなのか?

その日は、授業なんて頭に入らなかった。

家に帰ると、母親と梓が笑い合って玄関先に立っていた。

俺はつい小走りになり、梓の肩を引いた。

少し息が切れた。

「おまっ、ハァハァ。お前、なんで隠してたんだよ!」

と、ご近所迷惑甚だしい大声で聞いてしまった。

「だって受かるかわかんなかったし……でも、私受かったからには、頑張ろうと思うんだ! 応援してね!」

といつもの梓だった。

でも、どこが遠くに感じるこのモノは一体なんだろうか?

ーー

いつの間にか春休み。

あいつは東京に行ってしまう。

『最後の頼みなんだけど、明後日バイクで送ってくれる?』

と、昨日メールが来た。

だが、俺は返すことが出来ず既読無視。

なんだろうか、この心に穴が空くような気持ちは?

明日は俺のバイトでもあるってのに。

結局、俺は梓と話もあまりできず会えなくなっちゃうのかな。

なんで、こんな気持ちに?

もやもやが残ったままやる気も出ず、布団に潜り込んでいた。

翌日。

俺は早々バイト先に向かっているさなかだった。

電話が鳴る。

バイクを横に寄せて、見てみる。

そこには、『母』と書いてあった。

渋々出ると、

「あんた、何やってるの?梓ちゃんあんたいないって言ったら、悲しそうにしてたわよ!? 何かしたの?」

と、怒られた。

「別に何もしてないよ! バイトあるから切るぞ!」

そう言って、そそくさと切った。

なんだろう、この気持ち。

梓と別れちまうのが怖いのか?

でも、俺がどうすることもできやしないじゃないか!

『本当にそうか?』

心の奥で聞こえる俺自身の声。

『まだ、やれることはあるんじゃないか?』

とても響く素直な俺自身の声。

そう、問われると俺は自然とバイト先ではなく、俺の家の最寄り駅に行った。

するとホームでは下に俯く梓がいる。

俺は咄嗟に、

「梓!俺、お前の事が好きだ!」

と大声で言った。

だが、運悪く電車が来て、『好きだ』という言葉がかき消される。

あぁ、早く気づくべきだった。

何であいつのそばにいてたいって素直に言えなかったんだよ……。

悔やまれる。

俯く俺。

自然と涙が溢れてくる。

電車は行ってしまったようだ。

これで、梓とはさよならか……

「バカ! 大事なところ聞き逃したじゃん! もっかい言ってくれないと……後悔するじゃんか!」

と泣きながら、ホームに佇む梓がいた。

「バカはお互い様だろ? さぁ、乗れよ? さっきの言葉もっかい言わせてくれよ」

俺たちは、とても不器用な人間のようだ。

でも、何故だろう。

梓の言葉で、安心してしまった。

俺は恐らく、梓以外は好きになれそうもないと思うのだった。

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