表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
みっくす爬虫類  作者: 更新は気ままに
4/4

石竜子少女4

 外の喫茶店と、言ってみたは良いものの、別に外に出れば喫茶店がある訳ではなく、出てあるのは広大な自然である。まぁ、ベンチはあったのでそこに腰掛けた訳である。


 近くの自販機で買った飲み物を彼女に差し出す。


「ほい」


「あ、ありが・・・ポカリ? め、珍しいね」


「糖分補給にはうってつけだろ?」


 チラッとみた感じ、彼女の目の前に広げられていたのは参考書の数々だったので、それを考慮した上での配慮だった。まぁ、彼女はポカリを飲んでいる姿が似合うだろうなぁ、とそんな勝手な思い込みで買っただけなのだが。

 柚芽巳はその言葉で納得し、感謝の言葉を告げながらキャップに手をつけ、首を傾げる。


「なら、消費もしてないのに、何で柊くんは糖分補給しようとしてるの? 頭爆発しない?」


「しないって。って、結構なチクチク言葉をおっしゃるんですね、柚芽巳さん」


 人が人なら、チクッと刺されて風船みたく、破裂しているまである。傷害罪で訴えちゃうぞ♡ 心持ちは、逆に逮捕されたいまである。勿論相手は柚芽巳さんであるのだが。婦人警官コスプレを見てみたいのは、男が誰しもが夢見る事である。欲を言うなら手錠プレイまでセットで。


 と、そんな妄想を、隣に座っている男がしているとは一切思っていない柚芽巳さん。こくっ、と喉を鳴らしながらポカリを一口。やはり絵になる。


「チクチクって、そりゃ、あんなクラス全員を敵に回すような言い方をされたら、チクチク刺したくなるのも分からなくないでしょ?」


「う、そ、それは・・・」


 それはそんなつもりで言ったんじゃない、別に、俺が違う立場で、違う人間であれば、おそらく俺の立ち位置は、彼の方だっただろう。でも、だから、わざわざ口に出して、自分の非力さを言ってきた彼には、少しだけ苛立ってしまったのだ。

 でも、それは、自分のエゴである。確かに、彼女が、柚芽巳さんが怒るのは少しだけわかる。


 だけど、彼女は頭を振って、謝罪の言葉を口にする。


「まぁ、でもそうね。ごめんね、柊君。確かに大人気なかった」


「いや、別に。確かにそう言われても良い理由はちゃんとあったもんな。柚芽巳さんが謝る理由はないよ」


「うん、でもごめんね。確かに、柊君の言いたい事もわかるよ、うん。カッコいいね柊君は」


「カッコいいって、そんな会って数日で告白されても、俺、どうやって返答すれば・・・」


「冗談だよ冗談。そんな真面目に受け取られると、本格的に距離をおかないといけなくなっちゃうから。社会的に」


「そこまで!?」


 冗談風に言って見せる彼女の、その表情は、別に、真面目そのものだった。やばい。折角できた2人目の友人を、こんな短時間で失ってしまうのか、と諸行無常に打ちひしがれていると、まぁ、それでも良いか、俺には木崎川さんがいるし、と変な二股根性が出てしまう。いやぁ、モテる男は辛いねって話。

 若干、このままだと、虚しさがテンションを上回ってしまうので、何かしら話題を変えないとな、と考える。だが、柚芽巳さんの話は終わっていないみたいだった。


「まぁ、でもカッコいいよ。別の立場でも、私は木崎川さんに声をかけようとは思えないもん。・・・で、そんなヒーローな柊くんは、そんな彼女の為に調べ物?」


「うん、そんなところ。ほら、神社の事を色々と調べたら、繋がるなぁって」


「ん、神社? 木崎川さんの事を調べに来たんだよね? 学校を抜け出して」


「学校を抜け出したのは別に良いだろ、つか、抜け出したって言うなら柚芽巳さんもじゃん。・・・え? 神社だぜ神社。ほら、水蛇神社。今は石竜子神社だっけか」


 優等生筆頭っぽい柚芽巳さんでもサボるんだなぁ、と感慨深い気持ちになりながら、高校始まって1週間と少しでサボり始めている自分の親不孝ぶりに涙が溢れてしまう。オヨヨ。まぁ、何か言われたら虐められたんですとか、適当にそれっぽい話をすれば良いだろう。うん。俺は悪くない。

 俺の悪さは回避されたのだが、問題は柚芽巳さんである。何で、どうして、何の理由があってこの場にいるのか、少しだけ気になった。


「抜け出すって・・・まぁ、5限目で今日は終わりだからね。不良な柊くんには難しかったよね、うん。将来が楽しみだよ」


 どうやら普通な事情だった。何だよ、5限で終わりだったのかよ。どうしたよ、俺への連絡網、いきなり不備か? おそらく不備の理由は人間関係だろう。原因がはっきりして良かったね! 俺の気分はダダ下がりだけど。

 まぁ、そんな理由があって彼女が早かったのだ。呆気なかった。


「でも、本当に何の関係があって神社の事調べてるの? 確か、その神社って十数年前に倒壊したって話を聞いてるんだけど」


「え?」


「うん倒壊。大きな地震があったみたいで、確かなんだっけ? もう、古いものだったし、年数が経ってるとかどうこうで、放置されてるとかだったけど・・・」


 倒壊? いや、まぁ、この際、倒壊どうこうは別に関係はないのだ。もしかしたら原因の発端が倒壊にあって、もしかして立て直せばどうにかなるかもしれないって少しだけ活路が見出せるだけなのだから。本当の問題はその前だ。


「関係って・・・いや、なぁ、柚芽巳さん」


「な、なに?」


「木崎川さんの事、柚芽巳さんから話を聞いてもいいか」


 もしかしたら、もしかすれば、思っているより、考えているより、簡単な話だったかもしれない。そんな期待を込めて、俺は人伝に木崎川さんの話を聞いた。


「いや、実際のところは私は何も知らないよ。もしかしたらおじいちゃんとか、おばあちゃんとかの世代なら何か知ってるかもしれないけど、私が知ってるのは、私がお母さんから聞いているのは『木崎川』には近寄るな、話をするな、関わるなって事だから。まぁ、でも、それも今、冷静になって考えればおかしな話だよね。良く理由も分からないのに腫れ物みたいな扱いをして」


「じゃあ、何が原因かとかって聞いてないんだな?」


「うん。多分、それは私以外の人も同じだと思う。その関わらないの話の大小はあるとしても」


 であるならば、だ。俺は、俺が思っている以上に、その事柄に対して、色々な人が色々な考えを張り巡らせて今に至るのだろう、と考えられる。何年前か、何十年前か、恐らくそれ以上か。長い月日を掛けて、原因だけを忘れるに至ったのだ。

 そうだったら、俺は彼に謝らないといけないのだが・・・まぁ、それとこれは別なのだろう。謝る謝らない以前に、彼らは知らないのだろう。理由を知らされないで、拒否して、否定して、除け者にして、存在自体を腫れ物にして、月日と共に忘れ去る。考えとしては、良い悪いは別にして、正しいのだろう。今があるのだから。


 でも、だからと言って、その誰かの考えで彼女が、木崎川が無理を強いられるのは、少し、いや、相当に理解できないものがある。


「そうか、うん。分かった、ありがとう柚芽巳さん」


 と、そう言って飲み終わったペットボトルをゴミ箱に捨て、立ち上がる。


「えっと、柊君、私に何か出来る事とかって無い? いや、確かに、今更何か行動を起こすってのも、彼女に対して失礼な感じがするけど」


 優しいんだな、と素直に感じた。

 柚芽巳は優しい、それは入学する前に、迷子と出会った時から感じた事だったのだが、今、日を改めて、再度思い知った。まぁ、どの口が言うのか、と言われるかもしれないが、今まで平行線を辿っていた、当事者の1人が行動を起こそうとしているのだ。


 でも、だけど、それは恐らく悪手だ。

 顔も名前も知らないけど、昔の人が、昔なりに考えたやり方が繋いで今になっているのだ。それを、崩す訳にはいかない。


「ごめん、これは俺が、俺1人がやらなきゃいけない事だから、人数が少ない方が良いんだ。だから、柚芽巳さんは、終わった時に、彼女の居場所を作ってくれないかな? これこそ、木崎川さんに対して失礼だと思うけど、絶対、確実に柚芽巳さんにしか頼めない事だから」


「うん、分かった。じゃあ、頼まれちゃうね」


 彼女の肯定を背後に、さて、行動に移そうかと足を踏み出す。それは一歩二歩、と歩数を重ねる毎に少しだけ、気がかりが重なっていき、それはようやく思い出せた。急いで引き返す。


「えっと、柚芽巳さんって木崎川さんの家って分かる?」


 そんな俺の顔を見て、目を見開き、息を零して淑やかに笑う。声を零して笑う。笑って・・・って、笑い過ぎじゃ無いですかね? 過呼吸になってるじゃん。そこまで面白い話じゃ無いでしょうに・・・。






・・・・・・・・・・



「いや、マジかよ」


 思わず声を零してしまう。

 スマホの地図アプリを見返しながら、再度見直すが、やはりそこであった。


 重厚な、重圧な、果てしない古風な雰囲気を感じる大きな両開きの門、果てしなく囲っている柵の隙間から見えるのは庭園だ。庭園というよりほぼ、ゴルフ場と表して良いほどの広大な緑がそこにはあった。


「リアルにこんな大豪邸あるんだなぁ、と香奈太君はしみじみと思いました」


「感想文みたいになってるわよ」


「わぁ!?」


 おっかなびっくり、聞き慣れた、彼女の声に反応して振り返る。そこには、白いワンピースを着た、花のお嬢様みたいな感じの木崎川さんが居た。ちなみに麦わら帽子を被っている。


「もう少し出会うのが遅かったら叶わぬ恋をしちゃうところだったぜ・・・」


「そんな高嶺の花みたいに思われても困るんだけど・・・で、家に何か用? そう言えば家の住所教えてなかったと思うけど・・・は、犯罪は許容できないわよ? 流石に」


「いや、俺は何だと思われてるんだ・・・普通に聞いたんだよ、柚芽巳さん、木崎川さんも知ってるでしょ? ほら、入学テスト満点だったあの子」


「ああ、柚芽巳さん・・・あの、花のような綺麗で、可憐な笑顔が素敵で、でも、そんな雰囲気とは違った活発なスポーツ少女な柚芽巳さん?」


「めちゃめちゃ知ってるのな。うん、その柚芽巳さんだよ」


「そりゃ、知ってるわ。だって、幼馴染だもの」


「へぇ、そうなんだ。意外、木崎川さんって、少し言い方が悪いけど、ずっと1人だと思ってたから」


「・・・何気に失礼なこと言ってるわね。まぁ、でも、折角来てくれたのだから家に上がって」


「い、家に・・・? でも、その両親とかの挨拶とかって・・・」


「別に友人を家に招き入れるのに、そんな大それた形式は入らないでしょ・・・まぁ、うん。それに、この家は私と、居たとしてもお手伝いさんしかいないから」


「え? それって、」


「石竜子様関係で、ちょっと別居中。一人暮らしってのも案外悪くないのよ? 何でも自由だし、何やっても勝手なんだから」


 そう言いながら大きな扉・・・に埋まっている小さな、普通の大きさの扉を開いて中に入る。手招きされる。少しだけ頭を下げて、初めて異性の家の敷地に入ったことに対して、感慨深いものと言うか、初めてがこんな規格外で良いものなのか、と嬉しいような、難しいような、複雑な感情が浮かんでしまうが、目の前の、花畑が似合いそうな美少女を見れば、そんな事はどうでも良く思えてしまう。


 でも、そんな美少女とお近づきになれたと言っても、何を言われても良い訳ではない。


「だけど、学校は休まないで出席したほうがいいと思うけどな」


「そ、それは・・・そ、そうよ! 早帰りでもないのに、この時間に居るのはおかしいわ! どうしたの、虐められているならオススメの避難場所を教えてあげられるけど・・・?」


「心配の仕方が被害者すぎるな!!」


「嘘よ嘘、怒らなくても良いじゃない、冗談なんだから。うん、しっかりと避難場所くらい教えてあげるから」


「怒ってる原因はそこじゃないんだけどね、木崎川さん!?」


 そんなやりとりに笑みを溢す木崎川。そんな、こんな軽いジャブみたいなやりとりで笑ってるんじゃあ、この先が思いやられるぜ? 何だって、もう1人、いやまだまだ居るかもしれないが、やりとりに、もっと、人数が加わるんだからな、と思いながら、下らないやりとりを返しながら、やはり、気圧される家の中に案内する。いやぁ、敷地の中、庭みたいなところで散歩するとは思わなかったよ。どうして、一直線で玄関まで行ってるのに、ここまで遠いんでしょうね?

 木崎川さんの、家の立場がどんなものか、私、気になります!! まぁ、話的に神社関係の人なんだろうと思うけど。


 招かれた茶の間で、差し出された、あっつ〜いお茶を啜りながら、そう考える。落ち着いたところで切り出す。


「木崎川さんの、石竜子様について、少しだけ進展があったからそれの報告に来たんだ」


 そう言ったところで、木崎川さんが手に取っていた煎餅がポトリ、と彼女の手から離れた。口は、その煎餅をまだ待っているようで、半開きのままだ。・・・そこに指を入れてみたらどうなるんだろう? と、考えて、無謀な冒険心は時には、自決の刃になる事を認識する。多分、話半分な彼女の口に指を突っ込んだら、煎餅だぁと勝手に判断されて食いちぎられるだろう。

 妙に鋭い歯に危険視を覚え、心の中で留めておく。綺麗な歯並びだなぁ、との考えもついでに留めておく。


「そ、それ、それって本当なの? いつもの冗談って訳じゃなくて?」


「そんな俺がいつも冗談を言ってるみたいな言い方はやめてくれよ、木崎川さん」


「・・・あれって冗談じゃないの?」


 木崎川さんの手には何か、鋭いものが握られた。


「いえ、その通り、冗談でございますので、その滅相な、和菓子を切り分ける道具をこちらに向けないでいただきたい」


 本気で刺される未来が見えた。


「昨日、俺が言った話があっただろ? ほら、信じる人間がいなくなれば、信じる対象は居ない事になるって話。それが実際に、知らないところで、事実としてあるっぽいって話だ。実は、今日、木崎川さんの家を紹介してもらう前に柚芽巳と図書館でばったり出会ってさ、それで君の、石竜子様の話を、遠回しに話す事になったんだ」


「勝手に・・・は言ってないわよね?」


「ああ、流石に言ってはない。デリケート過ぎる話だから、勝手に、俺の考えで口に出すことはないさ。で、直接的には言わなくて、水蛇神社、そして石竜子神社の事を伝えたんだ。そしたらなんて言われてたと思う?」


「さぁ?」


「その神社は数十年前に倒壊してるって言われたんだ」


「倒壊って・・・いや、でも私は幼い時、正確な年齢は覚えてないけど、実際に、実在した石竜子神社を見たことがあるわ。それって、つまり・・・?」


「うん、少しずつ、皆んなの記憶から君の、木崎川さんの、そして石竜子神社に対する記憶が、知識がなくなっているか、変化しているみたいなんだ。これは、柚芽巳さんが言っていた事なんだけど、表面的な、関わってはいけない的な話は聞いた事があるけど、その事に対しての理由は知らないって言っていた」


「それってつまり、昔の人が、柊くんと同じような考えに至って、それを実際に行動に移したって事よね。そうだったんだ・・・」


「だから、多分、君のその環境は誰かの悪意でも、悪戯でもなく、善意のものだったみたいだけど・・・まぁ、褒められたものじゃないよな。普通に反吐が出るよ。例え、それで今に繋がったとしても」


 手に持ってしまっていた湯呑みを、本当に力強く握っていた事を、ふと気付いてしまい、ゆっくりと手を離す。

 俺は、でも許せない。そこにどんな背景があったとしても許せない。だから、


「んで、話に来たのは報告って面もあるけど、聞きたい事があったからな。目的としてはそれが本題だ」


「聞きたい事・・・?」


「ああ、旧水蛇神社、現在は石竜子神社の場所だ。直談判って訳だな。それをしてくるから」


 神とは言え、今は、信じるものが少なくなった、言わば形だけの神様だ。であれば、怖くとも何ともない。まだ、現実の総理大臣とかの方が、立場的には全然恐ろしい。直接何かしてくる訳ではないって所が似ている所だな。まぁ、身の振り方で世が変わるってのも似ているが。


 カタン、とこの空間を音で色付けるように、鹿威しの音が響く。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ