1章ー14
評価&ブックマークありがとうございます!誤字報告も助かります!
なんと異世界分野で日間50位くらいにチラチラとランクインさせて頂きました。
これからもよろしくお願いします。
僕は声の聞こえた方向に急いで駆ける。
ここ最近の筋力アップの成果だろう、走る速度もしっかり補強が出来ている。
地味かもしれないけど、成長スキルは非常に有効みたいだ。
今後も優先して上げていくべきだな。
ただここは慣れない森の中だ、なかなか思うようには走れない。
「うぎゃあああああ!!」
叫び声が止まない。
「くそ!急がないと!」
この先から剣戟が聞こえる。もう少しだ。
深い森を勢いよく走り抜けた僕はポカンと木々の生えていない空間にでた。
前方を確認した僕は慌てて茂みに身を隠す。
そこには…。
異常な数のゴブリンと冒険者らしき人。それから冒険者だった物、それぞれがあった。
夥しい量の血が辺り一面を染めている。
血の海と化したそこでは冒険者を仕留めたゴブリンが次の獲物を物色している所だった。
茂みに隠れながら辺りの様子を注意深く観察する。
ゴブリンの数は21匹。現在、生きている人は3人。
そのうちの2人は冒険者だろう。大きな剣を持っている。
ただ、もう1人は僕と同い年くらいに見える赤髪の女の子だった。
革製の鎧と小さなダガーを持っているが、見るからに怯えている様に見える。
「おいカティ!せっかく連れてきてやったんだ、戦う気がないならおとり役くらいできねぇのか!このクズが!」
冒険者の一人が口汚い言葉で女の子を罵っている。
「ごめんなさい!でも言わせてもらうと、こんな状況で何をどうしたらいいのか分からないの。」
「うるせぇ!いいから黙ってスキルでも使っとけや!このカスが」
この冒険者はかなり横柄な態度だな。
僕があの子なら腹を立ててここにほったらかして逃げるか、むしろゴブリンに差し出すかするレベルだ。
「あたしはさっきからスキルを使ってるじゃない…あたしのスキルは小さい火の玉を放つくらいしか出来ないのよ?こんなにゴブリンがたくさんいたら多少の火傷を負ったくらいじゃ逃げてくれないわよ。そもそも当たんないし…」
横柄な冒険者とカティ(?)が口論を続ける中、もう一人の冒険者は単身でゴブリンの相手をしている。
素早い身のこなしだから暫くは大丈夫みたい。
なんで子供の少女がこの場にいるのかは分からない。しかし、ほっておくわけにはいかない。
その時、僕は父さんの言葉を思い出した。
父さんは確か僕にこう言っていたはずだ…。
「ゴブリンの大きな集団に出くわしたら遠くからでも分かるはずだから、絶対に避けるようにな」
…ごめん。父さん約束は守れそうにないや。
冒険者に関しては危険も織り込み済な仕事だ。
冷たい事を言っているのかもしれないが、力量を見誤った自分自身が悪い。
だから僕は自分の命を犠牲にしてまで助けようとまでは思わない。
…言い訳はやめよう。僕は聖人君子じゃない。
あの冒険者は助けたいとは思わない。
結果的に助かるなら、良し。最優先で助けるのは女の子だ。
確か冒険者登録は12歳からだったはずだ。
僕と同じ10歳だとしたら冒険者にはまだなれない年齢。
当然の事だが、深い森の中をここまで一人でこれるはずがない。
本当にどういう経緯でここにいるのかはさっぱり分からないけれど…。
僕はあの女の子を助ける。
例えどんな経緯だろうと関係ない。
僕が助けると決めた。
「まずはこの状況からどうやって助けるかだよね…」
午前中より少し慣れたと言っても同時に相手が出来るのは3匹が限界だろう。
「これだけの数が相手で開けた空間だと僕の剣術だけでは足りないな。囲まれたら多分、終わりだ。」
じゃあ僕に何が出来る?
「やっぱり請願しかないかな}
しかし残り1回の請願で何を願う?
「さっき取ったスキルは役に立たないし、なんとか残り1回の請願でこの場を切り抜けられないかな…?」
火魔法か?…小さい炎が出せるだけだろう。驚かせるにはいいかもしれないが…。いや、森が燃えてしまうかもしれない。却下だ。
風魔法?…そよ風だったらどうする?ウインドカッター的な魔法が使えるとは限らない。これも却下。
土魔法?…壁が作れたら戦いやすくなるとは思う。これもLvg低いうちは大きい物が作れる気がしない。これまた却下。
魔法スキルでは無理だ。
Lvが低いうちは事態に対応できないだろう。
では…?
たどり着いた答えはやはり自分自身を強化する事だった。
強化というが何も強くするばかりが強化ではなし。
「要は倒されなければいいんだ。」
我が事ながらとんだ脳筋野郎である。
「何かの本でみた英雄みたいにカッコ良い必殺技を出せればよかったんだけど、生憎僕には持ち合わせがまだないんだ。」
ユーリは考えた。敵を倒す方法を。
「やっぱり今の手持ちのスキルではどうにもならない。ここは少しでも鍛えてきた剣術で倒すべきだ」
ただ剣術では、3匹以上を同時に相手にすると怪我を負ってしまう可能性が高い。
当然の事だけど怪我が増えれば倒れてしまうだろう。
「なら、倒れなければいい。傷を負ったとしても治せばいい。そしたらあいつらを斬れる!」
子供の発想だろう。それでもそれを叶えるスキルは存在した。
そうだ戦いながら回復出来ればこれくらいの数なら斬り続ける事ができるはず。
回復魔法では間に合わないし効果の程度も分からない。
ならば!これしかない!!
「スキル『請願』!!僕は倒れない力。傷を負っても事故治癒が出来る力『超回復』が欲しい。」
願いは聞き入れられた。
『スキル【請願】を発動します。ユーリは新たに『超回復』のスキルを得ました』
そのスキルは決して完璧ではない。傷は治せても疲れは治らない。千切れてしまった体はさすがに元には戻せないし、流して失った血はすぐには戻らない。
それに死んだら終わりなのだ。当たり前だが蘇生はしない。
僕が請願をしている間に事態は急変した。
「カティ、これはもうダメだ。いくらゴブリンといえでもこの数じゃあ捌ききれねぇ。俺は逃げるぞ。」
そう言ってカティの腕を掴む横柄な冒険者。
一緒に逃げる気かと思った次の瞬間、横柄な冒険者は最悪な選択をしてしまった。
近づいてくるゴブリン達の方向へカティを突き飛ばしたのである。
「悪いな。俺は逃げるぞ!」
カティを突き飛ばしたとは逆の方向へと逃げ出す横柄な冒険者。
「きゃあ、何するの?たすけっ…」
スキルを得た僕は女の子の元へ駆ける。
ゴブリンの爪が女の子の柔肌に突き刺さろうとしていた。
女の子は「いやっ」と小さい声を上げて目を瞑る。
それを見たゴブリンが嗜虐的な笑顔を浮かべ口元をニヤリとさせる。
獲物を甚振れるのが嬉しいのか、もしくは少女を小袋にするのか食事にするのかでも考えているのかもしれない。
だが、その鋭利な爪は赤髪の少女に届く事はなかった。
「ボトッ」
なぜなら、僕が守るからだ。この少女にゴブリンの鋭い爪が届くことは永遠にない。
「もう目を開けても大丈夫だよ。僕が君を助ける!」
その子は燃えるような赤髪の、目を見張る程の可愛い少女だった。
僕の言葉に従うように目を見開いた。髪と同じ色の綺麗な瞳だ。
戦いの最中なのに思わず魅入ってしまう。
少女も不思議そうな、様々な感情のこもったような瞳で僕をジッとみていた。
二人の視線が合う。ずっと見ていたような気もするし一瞬目が合っただけのような気もする。
不思議だ。目が離せない。
目が合った事が恥ずかしかったのか少し頬が赤くなった少女が僕から視線を外す。
しかし視線を外した事で腕のなくなったゴブリンを目にすると驚いたように再び目をギュッと瞑る。
「少し待ってて、まずはゴブリンを片付ける。」
そう言うと僕は腕を失ったゴブリンの胸を突いた。
自分でもしっかり分かる程手際がよくなっている。
「これはやっぱり剣術のスキルLvが3に上がってそうだね。」
僕は牽制しつつゴブリンのいない茂みに少女を誘導した。
その間に唯一逃げずに生き残っていた冒険者もゴブリンに群がられ息絶えていた。
目の前で人が死ぬのは辛いな…。でも、今の僕の力では何人も助ける事は出来なった。ごめん。
冒険者が倒れた後、ゴブリン達の標的は僕に集中する事になった。
こうなったら牽制なんて効果がない。
「来いよ!僕が全員斬ってやる!!あの女の子は僕が守る!」
僕は夢中で剣を奮った。
まず行ったのは比較的遠くにいるゴブリン達の足止めだった。
「一気に囲まれるとまずいからね」
近くのゴブリンを袈裟斬りに1匹斬り殺しながら、同時に水魔法を少し遠くのゴブリン達の足元に何度か放つ。
水魔法の影響でゴブリンと僕の間に水たまりが出来ていた。
地面がいい感じにぬかるんでいる為、ゴブリン達の移動速度が落ちている。
「よし計算通り。これで少し戦いやすくなる」
次に僕と対峙したのは3匹のゴブリン。
僕を囲むように移動している。
僕は前方のゴブリンの足を狙う。前方のゴブリンは右足を失い動けなくなる。
足を斬る為に少ししゃがんだ姿勢の僕は次に左側のゴブリンの脇腹を切り上げるようにして逆袈裟にする。
その時、「ウッ」僕は右腕に強い痛みを感じた。
そこには血が滴っている。どうやらゴブリンの爪にやられたようだ。
ただその傷も見る間に修復されていく。
まだ少し痛むけど…よし、まだまだ大丈夫。
「くそっ痛かったじゃないか!」
僕は振り向きざまに勢いをつけて斬り付ける。
爪を振り下ろした姿勢でいる右側にいたゴブリンの首を一撃で刎ねる。
いけるかな?とは思ったけどようやく首も刎ねられるようになった。
足を失って這い逃げようとしていた前方のゴブリンにもトドメを差す。
「これで4匹!後は17匹か…。」
多いな…。でもやるしかない。
僕の後ろには少女が隠れているんだ。負けられない。
そこからは正に死闘だった。
いくら超回復すると言っても僕は10歳だ。
相手はゴブリンだといっても背丈は僕とそんなに変わらないし数も多い。
すでに僕は返り血と自身が流した血で全身が真っ赤に染まっている。
斬って、避けて、また斬って、斬られて、斬って、斬って…。
ただ僕は斬り続けた。守り続けた。
どれくらいの時間続けたか分からない。周囲はうす暗くなっており、もうすぐ夜になりそうな時間になっていた。
「これで最後だ。」
僕は最後の1匹の首を刎ねる。
疲労で体がうまく動かない。正直、剣を握る手にも力は残っていない。
傷は癒えているけれど斬られた所はジクジクと蝕むように痛む。
限界だった。どうしようもなく限界だった。
このような状態で首を刎ねようとしたのは間違いだったのかもしれない。
正常な判断げ出来ていなかったのかもしれない。
首は半ばまで斬られていたが、斬り落とす事は出来なかった。
ほっておいてもこのゴブリンは程なく死ぬだろう。
だけどまだ死んでいない。
ギョロッとした目で僕を睨みつける最後のゴブリン。
ゴブリンは僕の首に嚙みつかんと大きく口を開けている。
「くそっ!動け!!」
僕は動くことが出来なかった。
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