井崎の場合:04
夏の太陽の滞在時間は近年の地球温暖化によって月夜を追いやり始めていた。僕らの子ども時代ではおよそ考えられないことだけれど、僕らのような大人が職場から住処へと帰る時間帯になってもまだ外で遊びまわる学童たちの姿を見かけることも多々あった。そのため、時折り不毛な郷愁に足を取られそうにもなったけれど、僕はその度に、これまでの世の中のゆとりから滲み出たこれからの世の中のゆとりを逼迫させていくのだろう稚拙な犯罪のニュースを見聞し、いつまでも子供ではいられないんだと自戒していた。大人になることは、世の中のやさしいものを諦めるということでもある。
そうして、僕が社会を機能させていく歯車の一員として大手調味料会社の商品開発課に迎合されてから1年程経った頃のことだ。大学を卒業する間際、21歳の岐路において散り散りになって以来久しく連絡を取っていなかった内藤からエマージェンシーの通信があった。
僕は通信を受けた際、同僚の一人が嘘をこいて欠席したことがひょんなことから明白になってしまった飲み会に上司数人と同僚一人と居た。有難いけれども僕の身にはならなさそうな助言と、悪い冗談みたいに達者な同僚の相槌とに板挟みにされながら、僕は段々と気概も語気も萎ませてしまって、とうとうトイレへと敗走した。
洗面台の鏡で真っ白けな顔色をした男と対面している時のことだ。尻ポケットに収められたスマホが僕の胃と同じタイミングで震えた。
代わり映えしない悪いニュースのてっぺんで、内藤からの通信は〝最悪だ〟と吐露していた。
〝どうしてこんなことになるのか。ある意味、井崎の言った通りになった〟
僕は思わず笑みをこぼした。しかし心は相変わらずひしがれたままで、僕は幾層にもこびりついた哀しみをこそげ落とそうとするかのように、むりにでも笑い声を絞り出した。海辺のゴミ捨て場に打ち棄てられたヴィオラの音色のように掠れ切った笑い声が、ドア向こうの談笑に侵されつつあるトイレの内側で胡乱に響いた。
〝僕はいま女っ気のない飲み会に出てるよ。同僚が欠席するためについた嘘がバレて雰囲気最悪なんだ〟
既読はノータイムで付いたけれど、なかなか返信が来なかった。なので〝大方、コロナを疑われるのが面倒くさいからって体調不良を理由にできずに親戚との会食を理由にしたんだろうけど〟まで打っていた文章を全選択で削除して〝彼女のこと?〟と核心をついてやった。またも既読が付いたけれど、根っからの太鼓持ちである同僚が上司からの前衛的なパスにどんなサービスショットを──根も葉もないタレコミを流されるのはいくら無抵抗主義の僕と言えども不本意だ──打つのか判断しかねたため、僕は〝後で電話するよ〟と返信を待たずに送った後、申し訳程度に手を洗ってから不穏が大口を開けているのだろう飲みの席へと戻った。
飲みの席へと戻った後でてんやわんやありながらもなんとか最終的には自室のベットに到着して、僕は記憶の中の内藤とちっとも変わりないトーンで送り出される受話器越しの声に耳を傾けた。そしてなんとなんと、内藤の彼女のお見舞いに付き添う羽目になった。本当、なんとなんとだ。一つだけじゃ足りないくらいだ。僕自身、その時は随分と酔いが回っていたこともあって、二つ返事であんな口約束を了承してしまったのだろう。
会社の規律に拘束された僕が指定した日にちには本当に古びた経血然とした色合いの長椅子に腰掛ける羽目になり、社会から打ち棄てられた人間たちが跋扈する様を眺める羽目にもなった。僕は僕が想定していたよりもずっと居心地が悪かった。それに加えて、彼らのような社会的弱者、いわゆる負け組が僕にとってはまだ見下げるべき対象ではなかったということに、僕はやや機嫌を悪くしていた。しかし自分の機嫌は自分で取らなければならない。それが社会人として生きるための必須項目の一つだと、僕は自分で自分の機嫌を取れなかった連中を目の当たりにしながら痛感していた。
北関東のだだっ広い緑の土地にぽつねんと建設されたサナトリウム──Googleマップで見たらさながら顕微鏡から覗いた の のような具合でサナトリウム付近の人家は死滅している。
サナトリウム、またの名を精神病院、またの名を、現代社会が敷いた安泰かつ複雑多岐なレールから滑落してしまった者たちのための受け皿──サナトリウムという言葉が流布し始めた当時は結核患者の療養所という意味で使われていたらしいけれど、医療技術が発展していくにつれてどんなに空気の悪い都会で何人が肺をやられようともすぐさま適切な治療を施せるようになった。当時では日本国民の手に余った流行病の療養所として使われていた施設が、現代では同じく日本国民の手に余る精神病の隔離施設になっている。僕がそのことを口にすると「この世の中は透明なウイルスに汚染されているんだ」と、運命の人と引き離されてしまったらしい内藤は憎々しげに吐き捨てた。
僕は初めての土地に連れてこられた猫のように首を縮めて、こっそりと辺りを見渡してみた。ここでは入院患者だけではない、通院患者の診察等も受け付けているらしい。再検査を懇願する長髪の女の涙交じりの声が先程からロビィ一帯に轟いている。視界の端では処方箋の確認を何度もねだる少女の姿がちらりと映り込んでいた。恐ろしい場所だ。この場にいる人間が総じて悍ましいせいだ。しかし、傍からだと、僕ら2人もノイローゼの連れみたいに映るのかもしれない。
「悲劇のヒロインって言葉があるだろう。あれは本当に女のためにある言葉だ」
内藤がおもむろにそう呟いた。
「確かに、悲劇のヒーローとは聞いたことがないね」
「男は自らの身に降りかかる悲劇を甘んじて受け入れるべきだという共通認識が世間に浸透しているせいだ。井崎、もう一度周りを見てみろ。このロビィには女ばかりだ。女は女の弱さを理解している。それゆえに強かなんだ。男は悲劇を捩じ伏せるだけの力を要求されるが、女は周囲の献身によって、悲劇と共存していくことが可能なんだよ」
確かに、視界の端に映る少女の父親と思しき人物以外には1人として男性は見受けられなかった。それにしたってたまたまだろうけれど、内藤の持論の補強にはそれでも充分な効果があったのだろう。僕は得意そうな表情をしている内藤にぶつけた。
「そういうことで言うと〝どうせ私が悪いんでしょ〟っていう悲劇との共存を助長させたのは、彼女の周囲の献身ということになるんだよね。そこには内藤も含まれていたんだ?」
「……あの子は狡いんだ。自分以外に悪の比重を傾けるのが上手い。きっと、本当に自分が悪いという状況に対峙したことなんかないに決まってる」
内藤は頭を抱えて両肘を膝に押しつけ、さながら考える人の第二形態然とした姿勢になった。
僕は明け方の夢のように母のことを思い出していた。自分の息子の心境を構わずに大人の男の方をばかり構っていた母は、当時の僕、そしてその延長線上に存在する現在の僕にとって本当に〝悪〟そのものだったけれど、当人はそういった諸々をまるで些末なことだと言わんばかりに奔放な生を謳歌していた。
そういう意味では、内藤にとっての悩みの種であるメンヘラ女がしていることとは違うのかもしれない。しかし、母は母で悪の比重を傾けるのが、というよりも取っ払うのが上手かった。その結果として、本当に自分が悪いという状況を回避していた。一口に言ってしまえば〝誰も悪くない〟という言葉を悪用している人だったのだ。それは母が、たとえば僕のような人間にとっては〝誰かの悪に縋れる〟ということがどれほどの救済になるのか見当もついていないということであり、そんな母はやはり僕の母らしく、僕以上にタフであるということなのだろう。
僕は〝どうせ私が悪いんでしょ〟という言葉について想像を巡らせてみた。もしもそんな言葉を母に面と向かって吐かれたらどんな気持ちになるだろう。開き直ったような姿勢に頬を引っぱたきたくなるかもしれない。そんなのはあくまで相手に罪悪感を植え付けるための言い回しに過ぎないからだ。僕だったら、いずれはそんな相手にすらも罪悪感を抱いてしまう自分自身を嫌いになってしまうかもしれない。そんな時に自分を嫌わないための方法はまず先に相手を嫌うことのほか無いような気がするけれど、どうだろう。
あの子、という柔和なイントネーションから推察するに、内藤はまだ執心しているのだ。どころか僕の想像した通り、あの子に対してそういった罪悪感を抱いてしまう自分自身を嫌いになりつつあるのかもしれない。これは重症だと、僕は素人ながらにも内藤の精神状況を分析した。
この約束の日にちを取り付ける以前、内藤と電話で話した時の内容を頭の中でおさらいしてみる限りだと、僕のまとな脳みそでは内藤に非があるという回答は到底導き出せなかった。それだからといって、彼女のほうに非があるとも言い難い。それが精神病の厄介なところなのだろう。
曰く、内藤の彼女は学生時代に深刻な心的外傷を負い、人と対面で接することに拒否反応を起こすようになってしまったらしい。そのため、単独での外出は忌避されがちで、内藤と会う時も大抵は内藤が彼女の家へ出向いてそのまま時間を過ごすか、内藤が彼女を引率して人手の少ない平日の午後なんかに外を散策したりしていた。
本人にしか計れないことなのだろうけれど〝深刻な心的外傷〟とは一般的にも随分と物々しい言い方に映る。そういえば、昨今隆盛中の少年犯罪では心的外傷を動機とするケースが多くなっていた。世論では〝たとえどんなに恨みがあったとしても法を犯すほどの報復はしてはいけない〟とする批判派や〝やられるくらいならやってしまえ〟とする擁護派で分断が生じていた。僕がどっち派であるかということは他でもない僕にとっては今もこれからもどっちでもいいことなのだけれど、心的外傷による被害を実際に被っている彼女にとっては僕一人どころか自分を取り巻く全ての人間がどっち派でいるのかはとても重大な問題かもしれない。弱さを免罪符にする風潮が出来上がりつつある昨今の世の中の外側で、彼女はほくそ笑んでいるのか、はたまた己の境遇を憂えているのか……内藤の話を聞いてみる限りだと前者なような気がするけれど、それでもまだ彼女の容態をこの目で確認してみないことには断定することは難しかった。
というか、そもそもなぜ僕が友人の彼女のお見舞いの付き添いをしているのかというと……なぜだったろう。受話器越しに送り出されてくるエピソードに怨嗟が混じり過ぎていたせいで肝心の内容が霞んでしまっていた。
「なんで僕を連れて来ようという気になったんだっけ」
「勇気が出なくてな。あの子は俺のせいでこんなにまでなってしまったらしい。会っても、どの面下げてってことにもなり得るだろう」
「来なきゃいいよ」
「そういう訳にもいかないよ、お前……」
「たしかに大人げない言い方だったかもしれないけど、それにしたってなんで内藤のせいになるの? 医者がそう言ったんだっけ?」
「医者は〝周囲の環境を変えた外的要因〟としか言わないよ。だけどそう言われるまでもなく、彼女には俺がきっかけでこうなったことが分かるんだろう。なにせ自分の心のことだからな」
「なにせっていうのもおかしいでしょ。自分で自分の心をどうにかできてない奴のことだ。どころか、どうにかしようとする気概すら窺えないんでしょ。内藤からして、彼女は悲劇との共存に甘んじてるんだから」
「ここで待っててくれよ。あの子は知らない人間の顔を見たらまた気が動転するかもしれないから。終わったら飯でも食いに行こう。だから、待っててくれ」
「ああ……健闘を祈ってるよ」
廊下を迷いない歩調で進んでいく内藤の後ろ姿を見送った後、僕はただ手持ち無沙汰に待つことしかできなかった。てっきり、彼女に顔合わせをするのだと勘違いしていた。そんな予定が消滅したらしたで当然肩の荷が下りたような気持ちにはなれたけれど、なんとなく腑に落ちないような気もして、この埋め合わせは内藤の驕りによって清算してもらおうと心に決めた。
両手の親指から小指までを順繰りに回転させていく手遊びに没頭していた時、不意に、さながらひとひらの雪のように冷たくて重みのない声が降りかかってきた。まさか僕へ向けられた声とは思えなかったけれど、視界前方に青い花柄の刺繡が施されたスニーカーが二足映り込んだので、とうとう観念して顔を上げた。22、3年生きてきて初めて気づいた。ここは、人に声を掛けられたくない場所ナンバーワンだ。
そこにいたのは、女の人だった。僕は何故だか一瞬、後頭部をゴルフバットで思いっきりぶん殴られたような衝撃にあって、息継ぎもままならなくなった。
女の人の纏っている雰囲気は全体的に色素が薄いような感じで、喩えていうなら水で伸ばし過ぎた絵の具で描いた水彩画のようだった。その微笑みはさながらこの世の贋作の象徴のようで、少し足りとも安心することができない。長い睫毛に縁取られた黒い瞳は淀みなく僕を映していた。しかし、いったいその黒い瞳の内側にどんな僕が映っているのかはまるで見当もつかない。
女の人はまた声を掛けてきた。今度はさっきよりも存外優しげな口調で。
「井崎くんじゃない?」
「あ、永田さん」
「憶えてるんだ。ちょっと意外。どうしてこんなところにいるの?」
平然と隣に腰掛けてくる永田さん。髪先が肩をつつくくらいの黒髪から香ってくる木のような香りにハッとする。刹那、僕の脳裏に、かつて生徒会で一緒に活動していた頃の記憶が甦った。
「どうしてこんなところにいるの? って、それはそっちの台詞かもね」
「永田さんはここに入院してるの?」
「まさか。……と言いたいところだけど、現実ではそうなる可能性が無きにしも非ずなの」
「そう、なんだ」
「井崎くんは?」
「僕は大学で知り合った男友達の恋人のお見舞いに付き添ってるだけだよ」
「ああ。療養してるのは彼女さん? だったら大変だね。さっさと嫌いになっちゃったほうが全員のためだけど、彼女さんは嫌わさせてあげないんだろうし」
「まるで誰のことだか知っているみたいな言い草だね」
「ううん。知った風な口利いてるだけだよ。でも、ちゃんと自分の経験則に基づいて言ってる」
懐かしいやり取りを何往復か交わしながら、僕は密かな優越感に浸っていた。かつて学生生活を共に過ごした、他の生徒と比較すれば割かし交流の多いほうだった同級生の女の子が大人になった今は精神病院のお世話になりかけている、と、その事実には確かに一抹の哀切も感じてはいたけれど、それよりももっと、かつては僕よりも人望があって有能だった女の子が今では片っぽの足をレールから外していて、不安定かつ肩身の狭い日々を過ごしている、そうして僕はそんな彼女を過度に蔑むこともなく、まともな大人として柔和に接している──そんな状況が気持ちよかった。結局、僕の懸念していた通りになったのだ。
初めてできた彼女に心酔していた内藤も、我慢することが我慢ならなかった彼女も──結局、今では無力感に満ちた日々を送っている。内藤に対しては、友達のよしみだ、僕の忠告通りに行動する──とはいかないまでも、念頭に置いておきさえすればこんな最悪の事態にはならずに済んだのにという憤りを抱えていた。そして、隣に腰掛けている彼女に対しては──内藤に対して抱いているそれとは違う、もっと傲慢で強大で、ひとまとめにして言えば──まったく僕らしくない──酷く手前勝手な怒りを感じていた。
僕はあの時「大人になれない」と、大人になることを急かしてくる世界への反逆を言葉にした彼女の、あのまっすぐな瞳に迸った火花のような煌めきを綺麗だと感じていたのだ。ずっと昔に目の当たりにした、あの真っ平らな大地が銀色の新雪に覆われている光景、その中をさくさくと歩いていった時の、静かに胸躍るような感動を、あるいは初めて夏の大三角形を自分の指先で結べた時の、全身に触れる空気が宇宙と一体化したかのような浮遊感伴う感動を、もう大人になってしまった今でも恍惚と思い起こせるように、僕は彼女の瞳の煌めきを一つの指針として大切にしていた。
彼女は今や大人であることを要求してくる世界に打ちのめされて、社会の底のそのまた隅に幽閉されそうになっている。僕はそのことが哀しかった。彼女に期待していたのだと気づいた。「我慢すればいいだけなのに」と大人ぶった僕を軽んじ、そしてまた憧憬していた彼女のまま、たとえ生きづらいことに気づいていても、自分の信じる屈折した生き方を貫き続けてほしかった。なのに、こんなところで──こんな、人を人とも扱わないようなところで挫けてしまうのか。
僕は思わず、口にしていた。消えゆく彼女に対する手向けのような気持ちだったのかもしれない。
「ここに来る人たちは、たぶん、大人になるにはあまりに多くのものを大切にしていたんだろうね。世界は僕らの持つ生存権の代償にそれらを捨てることを要求してくる。僕はそれを捨てられて、彼らはそれを捨てられなかった。ここにあるのはそれだけの違いなのかもしれない」
「大きな違いだよ」
「僕の友達の恋人は、僕の友達の代わりになにかを失う事が耐え難かったのかな。何かを得る時はなにかを失わなければならないって言うし。そうだとしたら、やっぱりあいつは救われないな。僕の友達はそういう人のことを好きになってしまったんだ」
「卑怯だって思う? いっそのこと嫌いだって突き放してあげたほうが、友達のためになるのにって」
「そりゃ思うよ」
「そっか」
彼女は黙って、リノリウムの床にサンダルの踵をかつかついわせた。そして壁掛け時計を見上げた後、ふいに僕のほうを見やっておもむろに腕を掴んできた。なぜだか彼女のほうが驚いたような表情になって、ゆっくりと五指を腕から離した。
「なに?」
「私、接触恐怖症の気があるんだって。何者にも縛られたくないっていう意識から芽生えたこの症状が、結果的にはこの人間社会で私の不自由を確立させてる。こういうのハリネズミのジレンマっていうんだっけ。きっと似てるんだよね、そういうのに」
「そんなの、初めて聞いた」
「ねえ、井崎くん、私をここから連れ出して。私がどんなに嫌がっても、私を離さないでほしい」
まっすぐに向けられたその瞳は、ロビィの青白い照明故なのだろうか、存外煌々と煌めいていた。僕は内心、あるいは苦笑を表に出していた。いきなり何を言い出すのだろう。僕はたった今、友人が精神病患者に恋してしまったと零したばかりなのに、聡明で理知的でどこか幼稚な彼女はそれと知っててもなお、僕に自分を捕えていろと、そう言っているのだ。
僕はとても不自由だった。社会の掟にそぐっている訳でもないのに従っている。そのおかげで生きていられる。母のように自由な生き方をしたら破滅してしまうと、僕は子供の時に身をもって知った。たとえその遺伝子を幾らかは引き継いでいるとしても、僕はそんな生き方に囚われない。それくらいの自由は許されているだろうと、僕は子供の時の僕に逐一お伺いを立てるような生き方をしていた。
だからその時に僕が頷いたのは、決して彼女に強制されたのではない。僕は僕の生き方に反しない形で、僕とは正反対の彼女と共に生活することを選んだのだ。