住宅営業『斎藤』の物語
ガラガラガラ・・・・・
はぁ、はぁ、はぁ・・・・
『お!斎藤。遅かったじゃないか!俺のおごりを食わないとはけしからん奴だって、皆で言っていたところだ』
『はぁ、はぁ、はぁ、すいません・・・・
道に迷ってしまって、はぁはぁはぁ・・・・』
『ハハハ!なんだその言い訳は!会社から一本道なのにか?まぁいい。そんなとこに立っていたら、お店の邪魔だからここに座れ。
お前の席を取ってあるからな!俺と田中の間だ!
俺の隣で嬉しいだろう?
それよりも田中の隣であることの方が嬉しいか?
ハハハ!』
『ありがとうございます。大場課長』
『ん?課長?俺は課長じゃないぞ?
でもまぁこの調子で皆が頑張ってくれたら、課長への昇進も夢じゃないかもな!』
『課長!そしたら私、店長ですかね~!?』
『お?田中は店長に立候補か?ただ、ここにいる営業は皆手ごわいぞ~。
何しろ俺の部下だからな!
今のトップも油断してたら3日天下だからな~!』
そうだ、そうだ~! 次の店長は俺だ~! よっ!課長!
なんだよ!今更ごますりかー。
そんながやで店内にいっぱいになっている頃、隣にいた田中さんから声を掛けられた。
『斎藤君、ごめんね。
こういった雰囲気好きじゃないでしょ?
無理やり誘ったみたいでなんかごめん』
『いや、謝るのはこっちの方ですよ。
色々とご心配おかけしました。
これからは自分でしっかりと歩いていきます』
『ん?
・・・・
・・・・
・・・・
もしかして、紀香となんか話した?
あいつ、何か言ったんじゃないの?』
『紀香って?北野さんのことですか?
だったら何も?
そもそも話したことないですしね。
あぁただ、電話番をお願いしますとは言ってきました。
あと、『ありがとう』って・・・』
『ん、ん、ん~~~~
なんか怪しい~~~~?
・・・・
まぁいいや。
それよりも斎藤君のお肉勝手に頼んどいたけれど、納豆ステーキで良かったよね?
前に納豆が大好きだって言っていたし?』
『はぁ?!
なんですか、納豆ステーキって!!!
そんなメニューがあること自体おかしいですが、それを頼むセンスもおかしいでしょ!!!
ありえない!本当にありえない!!!』
『はぁ!!!こっちだって心配してあげたてたのに、何その態度!!!!
もう良いです!
斎藤さんの分まで私が責任もって食べちゃいます!』
『じゃあ、僕の分のステーキはどうなるんですか!!!』
『当然なしです!』
『!!!!!!』
『おい皆見ろよ!こんなとこで痴話げんかが始まってるぜ!
似たもの同士、仲良くしろよ~』
『店長!』
『大場さん!』
『おお、こわこわ、ハハハ!』
・・・・・
・・・・きっと、この人たちとなら上手くやれる。
自分が輪に入っても良いんだ。
人をキライにならなくても良いんだ。
これまで複雑で出口なんて見えなかったこの道に
明るいゴールが見えたようで。
こんなところから本当の自分がスタートしていった・・・・
ただし、納豆ステーキは好きになれなかった・・・・