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六品目:玉子焼き

 具材の味がお出汁に溶けて、そのお出汁がまた具材に染み込んだ二日目の関東煮かんとだきは昨日よりもさらに美味しくなっていた。


 関東煮のお出汁に玉ねぎを入れて黒胡椒、白胡椒、すりおろしニンニク、すりおろし林檎で味に変化をつけて、牛こま肉で牛丼にしたり、豚バラでチャーシューにしたり、醤油と砂糖をさらに加えて角煮にしても良い。あとは、肉うどんとか。


 お出汁のリメイクを紗羅に話すと、基本の味が一緒だからさすがに飽きると呆れられた。


 でも、美味しく出来たお出汁を捨てるなんて勿体ないと思ってしまう。


 世の中にはトレーディングカードやシールだけ抜き取ってお菓子を捨てる輩がこの時代になっても居る。どんなに時代が変わり、物が新しくなっても人がやっていることは変わらない。


「それで、日向さんとお姉ちゃん何作るの?」


「今日、お姉さんたちが作る、それはね。玉子焼きだよ! 紗羅ちゃん」


「玉子焼き?」


 紗羅はわたしが手にしている焼き器を見て首を傾げる。


「えっと……お姉ちゃんが持ってるのどこをどう見ても鉄製でも、焦げついたりしないように加工が施されたフライパンじゃないよね。そもそも玉子焼きに何でたこ焼き器なの?」


「そりゃあ、これ熱伝導率の良い胴で作られた焼き器だからね」


「だから作るのはたこ焼きでしょう?」


「違うよ。たこ焼き(・・・・)のルーツとされる『玉子焼き』よ」


 鉄板や焼き器は育てなければならない。今日、満を持して登場させたわたしの焼き器。焼き器が馴染むまで何度も油を敷き、『玉子焼き』を焼いて、綺麗な紙や布で焼きカスなどのゴミを拭き取り、少量の油を塗って冷たく暗い場所に保管するというのを繰り返した。焼き器を水洗いしてはいけないのだ。


 焼き器を火にかけて熱する。


 ――焼き器を仕上げている間、当然わたしのおやつは『玉子焼き』だったんだよね。


「兵庫県の“明石(・・)”市とかで食べられてる『玉子“焼き(・・)”』なんだって」


 日向が『玉子焼き』が何処の料理かを紗羅に教える。しかし、残念ながら明石ダコはない。タコが苦手なわたしはカニかまを使うのだ。


「日向、先ずは小麦粉60g計って」


「了解」


 日向はメモリとにらめっこしながら丁寧に分量を計っていく。


「ふぅ。次は?」


「じん粉だね。はい。これも60gだよ」


 じん粉とは小麦のデンプンで、グルテンを取り除いた粉のことだ。たこ焼きは外はカリッと中はトロッとという感じだけど、玉子焼きはプルふわなのだ。


「計った粉を振るいにかけて、お出汁を入れて溶いていくよ。日向は卵3つ割って、それを溶いて」


「任せて!」


 お出汁は白だしと水で割ったものだ。水400ccに白だし50ccを日向に溶いて貰った玉子を加えてる。


 これで種の出来上がりだ。熱した焼き器に種を流して、そこへカニかまを入れる。

 あとは、形を丸く調えながらふっくらと焼きあげる。


 玉子とお出汁の優しい匂い。


「紅生姜とかこんにゃくとか刻みネギとかキャベツいれないんだね」


「そうだね。お出汁のシンプルで優しいのが特徴かな。あとは、たこ焼きみたいに青のりやかつお節、ソースやマヨネーズも使わないかな。使うとしてもソースのみで、ソースやマヨネーズのかわりに、つけ汁に浸けて食べるのよ」


 そのつけ汁を日向が作っている。水200ccに白だし50cc、薄口醤油小さじ1と2分の1を沸騰寸前まで沸かして魔法瓶に入れる。


 まだ焼き上がってないからね。2つ焼き器を用意してもあと二回焼かないと駄目だからね。


 まぁ、先に二人に食べて貰うとして、おかわりが必要なら余った分を分けて食べて貰えば、少しは一緒に食べられるかな。


 あげ板に乗せれば『なんちゃって明石風玉子焼き』の出来上がりだ。


「熱々のうちに二人は食べて。最初の二つくらいは玉子焼きだけで、次はつけ汁に浸けて、残りはソース、お試しでソースをつけた玉子焼きをつけ汁につけて食べても美味しいとわたしは思うよ」


 つけ汁にはネギを散らす。


 こってり濃厚なソースがつけ汁と合わさって、また味わい深くなるのだ。

 ソースの味をつけ汁の優しい味がまろやかにしてくれる。


 紗羅は首を傾げている。


「うーん……なんかよく分からない。美味しいけど……」


「それ、きっと『たこ焼き』のイメージがあるからだよ。『たこ焼き』と全然違うもんね。ね、紗羅ちゃん」


「うん、日向さんの言う通り、そうかも。たこ焼きのイメージがあるからかも。あと、玉子焼き――だし巻きみたいな感じだけど、形は違うし、ふわふわ柔らかなのはオムレツみたいだけど……」


「かなり横着、ズボラ飯にするなら和風オムレツ風でもかまわないと思うけど、今回は形から入ってみた」


「お姉ちゃん、それもつくったことあるんだ」


「もちろん」


 わたしは胸を張る。基本、わたしは楽につくれるなら、そうやって作るし、目分量、感任せの自分好みに仕上げる。まぁ、基本は確りと出来ているから出来ることだ。


 最初はたこ焼きとの違いに戸惑っていた紗羅も、美味しいとおかわりをして食べてくれた。


 日向は何度か泊まりに来た時に作っていたから、わたしのこういったご当地料理になれている。


 わたしは片付け、日向は紗羅とお仕事だ。紗羅の衣装のデザインを二人で考えると言っていた。


 片付けが終わったらわたしはプラモデルを作る予定だ。


 

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