三品目:お弁当
三品目とありますが妹ちゃんサイドのお話です。
時間は少し遡り――
「うー……」
私は机に突っ伏して低く唸る。
「紗羅さん、生きてる?」
「示し逢わせたような集中放火受けてたじゃん」
私の席の前のクラスメイトで親友の天道 美智瑠。テンさんだ。
もう一人、空いた席のに跨がるように座るのは三隅 愛生。親友のアイさん。
そう、アイさんが言うように一時間目から四時間まで授業で徹底的に当てられたのだ。
「ほら、元気出しなって。奏那さんのお弁当も不味くなるよ」
「それはやだ……。元気出す。お弁当食べる」
私は鞄からランチバックを出す。
――今日のお弁当はなぁにっかなぁ♪
私、楽しみでワクワクしてきたぞ!!
「愛生、購買は?」
「みんな持参だから、アイさんも作ってきた」
三人が机に出したお弁当、そして中身も三者三様だ。
テンさんのお弁当は渋い。映えなんて考えていない、ごはんの上に昆布の佃煮、その上に海苔。白身の魚のフライに磯辺揚げ、赤ウインナー、だし巻き玉子にきんぴら牛蒡という“のり弁だ。
「タルタルソースじゃないんだね」という私にテンさんは――
「白身の魚のフライには醤油じゃないの? 煮切り醤油なら尚良し」
「アイさんはウスターソースかなぁ。そう言うサラサんは?」
「気分かなぁ。醤油かウスター。お姉ちゃんもそうだしね」
アイさんのお弁当はサンドイッチのお弁当だ。ハムサラダにハムたま、シーチキン。おかずはミートボールに唐揚げ、卵焼きにミニナポリタンスパゲッティ。、アイさんのお弁当にも赤ウインナーが入っている。ポテトサラダデザートにはみかんの缶詰のみかん
「アイさんが作れるのは簡単な物だけだからねぇ。ミニナポリタンて言ったって焼そばの麺だしね。卵焼きも形調えてないのを見栄えが良いところ使ってるし、あとは冷凍をチンして、子供の頃からお世話になってるミートボールだよ」
「そんなこと言ったら自分で作ってない私はどうなるんだよぉ……」
ガックリと項垂れる。
そんな私のお弁当は薄焼き玉子に包まれたミニオムライス―― クレープオムライスが二つ。コンビニの手巻き寿司サイズだけど巻き寿司の形じゃない。ましてやおやつとかのクレープの形でもない。クレープと付くのは玉子焼きが甘めだからという理由。どちらかといえばチキンライス包みだ。
甘めの薄焼き玉子を焼いて、チキンライスを長方形に握って、プレゼントを包装するようにして出来たのがクレームチキンライスだ。
おかずはコーンクリームコロッケにミニナポリタン(焼そばだ絶対!)にウインナーと玉ねぎの卵とじ(玉子炒め)にミートボール。
――玉ねぎペーストにマッシュルームが使われていてるから、ケチャップとソースに砂糖を少々加えて煮込みソースを作って市販のトマトソースミートボールをアレンジしたやつだぁ。
パセリが振ってある。
そしてサラダにはコールスロー。
デザートには保冷剤代わりの冷凍ゼリー。今日は暖かいしね。
「お姉ちゃんの本気と横着を見た」
「え? どのへんに?」
「使われてる具材がほぼ一緒だからね。卵、ウインナー、玉ねぎ ピーマン、コーン……。たぶんチキンライス――チキンじゃないけど、それを作るのに出した材料で作れるおかずを作ったんだよ。コーンクリームコロッケもコーンクリームシチューの残りをリメイクしたんだと思う」
コーンクリームシチューもカップスープの素を使っていたから、リメイクすることも考えてたんだ。
友達とお喋り、そしてお姉ちゃんのお弁当、美味しかった。御託はいらない。人は自分にとって本当に美味しいと思える料理を食べた時、言葉を失くす。そう、美味しさを噛み締めるのだ。スッゲェ元気出て来た。どんな難問も解いてやる。回答王に私はなってやる!!
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「ちょっ! サラサん顔、顔! 美少女が絶対しちゃいけない顔になってるし!!」
「紗羅さん気持ちはあるのですが解りますが、それはいかがなものかと……」
そう、私は今、チベットスナギツネのような表情をしている。
何故なら、意気込んで迎えた午後の授業、午前中の爆撃が嘘のように止んだのだ。
――終わった……何もかも、な。
「帰る」
「あ、うん。明日」
「サラサん元気出すし。なんならアイさんがサラサんの好きなカスタードクリームぎっしりのシュークリーム買ってあげるし?」
――美味しいシュークリームに会いに行く!!
「ちょっと元気出たっしょ?」
「アイさん……惚れてもいい?」
「ん~カモン」
腕を広げるアイさんにヒシッと抱きつく私。
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練習から帰宅すると、お姉ちゃんが帰って来ていて、家の鍵を取り出しているところだった。