ヲタクのハートブレイク
暗いリビング。カーテンも開けずにお姉ちゃんがやさぐれている。
ソファーに膝を抱えて座り、死んだ魚の様な目で録り貯めをしていたアニメを見ている。積まれたディスクケースの数から察するに昨日から見続けているようだ。
――あれは流し見になってるなぁ……。
メガネのレンズに映るテレビの移り変わる光が虚しく色を変える。
――ん〜。こんなお姉ちゃんの姿は見せられないなぁ。
今日はテンさんと愛衣さんが遊びに来る。先日の話の続きもするのだ。
――あー……。アニソンの替歌を口ずさんでるよ……。
落ち込んだ親友を居酒屋で慰めてる様な感じになっている。
落ち込んでゲソばっかり食べてる親友に「どうしたんだ?」と訊ねたあとがひどい。だって落ち親友に「太陽のようにウザい」だもん。
そりゃあね。真夏の太陽とか鬱々とした時の晴天太陽はウザい時だってあるけどさ。
夢は身の丈に合って無ければ辛くなるだろうし、石橋叩いて危険は冒さないって言うのも一つの考えでもあるけどさ。
そりゃあね。何時も何時でも全力全開なんて出せないよ。むしろ出せない。人体とか脳とかにリミッターがあるからだ。全力全開パワーなんて火事場のバカ力っていうのがそうなんだろうけどさ。元気、夢、勇気を与えるようなアニソンがメチャクチャネガティブになっちゃった。
ドアの隙間から覗いてドン引きしてる私に気付いたお姉ちゃんと目が合った。
お姉ちゃんが手招きをする。幽霊が手招きしているみたいで軽くホラーだ。
「な、何……お姉ちゃん……」
「守破離について考えているみたいだけれど……」
何故それを知っているのだろうか?
「う、うん。少し悩んでる」
私はお姉ちゃんのとなりに座る。
因みにお姉ちゃんが見ているアニメは変身少女を騙さない優しいマスコットが出てくる朝のアニメだ。
「現在、過去の一番綺麗なものを自分の中に吸収出来て、それをマティアの下で学び、自分の身体に合ったものへと出来て、さらに昇華出来たと思える? それが目に見える形になった?」
私が答えられないでいると、お姉ちゃんが言葉を続けた。
「一番最初の基礎――土台は憧れ。次に実際に滑って見て、第一感想にそれが自分に合っているのか。そこから習い事みたいな感じになって、「ただ楽しい」から続けるのか、選手――それも超一流か一流のどちらかを目指す、なる、と腹を括るのか選ぶことになる。そこからが本当の、選手になる為の基礎レッスンが始まる」
「うん」
「基礎は何処までいっても守らなければならない、失くしてはならないもの。破はマティアや周囲の想定内を打ち破りなさい。結果をちゃんとだしてから。話はそれからね」
頭を一撫でされた。それきりお姉ちゃんは一言も発しなかった。なので私はリビングを出た。
ただ、頭を撫でられた時に「二刀流はやめな」と言われた。
『二刀流――言葉はかっこいい響きだけど中途半端になるだけだからね』
二兎追うなら事前に罠を仕掛けて作戦立てて自分に有利になる状況を作り出して、二兎とも狩れ――というお姉ちゃんが、リビングを出る私に呟いた。




