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十品目:気持ち的に広島風ズボラオムソバ

 災害、流行り病があったとして、最初の人の死因はそれらが原因だと思う。だけど、のちの死因は人によるものだと思う。


 後手に回る対策。政府の迷走に暴走、リーダーシップの無さ、軽薄な発言等々。あとは感染対策を怠る者、他人を思いやれない者、軽率な行動をする者たちによる被害の拡大だ。


 ズビビッ!! ゴキュゴキュ!! ぷはーっ!! スビッ!!


「お姉ちゃん。なんか真面目なこと言ってるけど、オムソバ食べながら、強めの柑橘系炭酸ジュース飲んで、唇の端にソースとか青海苔つけてたら全部台無しだよ」


 お姉ちゃんが珍しくバラエティーの衝撃映像を見ながら宣った。


「紗羅はどう考えてるの?」


「え? 私? 確かにお姉ちゃんがいう通りだと思うよ?」


「そうじゃなくてさ。よくいうじゃない? 決まりごとのように、こんな御題目をさ。こんな時だからこそ人々に希望や勇気、夢を与える―― ってさ」


「うん……」


「じゃあね。もし、今、世界中で流行り病が蔓延していて、さらに『スポーツの世界の祭典』の開催が目前に迫っている。世の中は不安に満ちている。だけど紗羅には祭典への出場権があるの。どうする?」


 お姉ちゃんはさらに続ける。


「その流行り病に有効なワクチンがない。あったとして、選手が優先されたりするとして、やっぱり特権階級や上級国民が優先される。だけど訪れるのは選手だけじゃない。観客も来る。何せ、夢を食い物にする祭典だからね。お金落として貰わないと困るでしょ」


「うん……」


「それで、どうするの? こんな時は声を上げないの? 祭典中止や辞退の声を、直訴したりはしないの? 署名を集めたりはしないの?」


 私は答えられない。


「まぁ、無理な話よね。兵隊さんには拒否権は無いもの。御偉いさんに逆らえば非国民とかだものね」


 お姉ちゃんはシラケたように、冷めたように言い残して席を立つ。


 お姉ちゃんは皮肉屋だ。あと、夢とか希望とかという言葉にも冷めている。それは先ほどの『食い物』という言葉でもわかる通りだ。


 お姉ちゃんは言った。フィギュアスケートをすると選んだのは貴女なのだから。だったら憧れとか夢とか理想という幻想を捨てなさい、と。何故なら、それらを何時までも抱いたままだと、それ以下にしかなれないから、とも。


 何故なら、採点は人の目と好き嫌いによるものだからだと。


 学校のテストが悪ければウチは叱られる。それは普段の勉強―― 授業をちゃんと聞いて、ノートをとり、宿題をして、予習と復習もしているかが点数に現れるから。通知表は担任とかの贔屓だからだと。


 憧れは真似、理想はトレース。ならば希望は高得点を夢見るということだ。では、それに届かなければ? どんなに練習をしても、本番で出来なければ? それらは反転してしまう。劣化品、偽物、現実を突き付けられ、身の丈を想い知らされ、絶望、悪夢に変わる。


 習い事、一時の憧れ、熱に浮かされただけなら傷が浅い。それだけなら気楽に辞めれば良い。


 まぁ、習わした親は堪ったものではないけれど、親が熱に浮かされたなら、まぁ、自業自得ではある。


 それ故に、夢を食い物にしているとお姉ちゃんはいう。


 ――だからって意地悪だよ。


 人気スポーツなら、プロ契約で普通に保証されていたりするけれど、マイナーや社会人ならどうだろう? 祭典出場とメダルはその後のキャリアに繋がる。引退してコーチ、講師、タレント、就活、スポンサー……。


 ――お姉ちゃんなら十分に理解していることだと思うのに……。




 ――とか考えてるんだろうなぁ。


 我ながら意地悪な質問をしたと思う。まぁ、こんな一致団結、機運を高めようっていう時に、一人冷めてるからボッチなんだけどね。


 ――でも、さあ。抑えられない、終わらない、その見通しが立たないのに『祭典』だとか言われてもねぇ。言い方は悪いけれど、暇潰しにはなるだろうけどさ。それ以上に不安しか無くない? まぁ、兵隊には特攻させて、国民には竹槍持って戦闘機に立ち向かえ、敵兵隊に犯されたくなかったら手榴弾で自決しろ、一億総特攻までいこうとした国だから、何十年経とうが、御偉いさんが国民の安全なんて考えてないのは変わらないか。


 祭典を開催しないことが人々の安心と感染を拡大させないという希望だと思うわたしである。


 それでも開催だというパーリィピーポーを理解出来ないわたしは間違っているのだろう。


 ――いや、人ゴミが嫌いなだけで、パーリィ料理もお祭り屋台料理も好きだよ? そこにいかないで、自宅で作って楽しむだけだけどさ。


 いつも利用しているお店が物産展を催していた。


 いい匂いがしていたのだ。


 まず手始めに作ったのがオムソバだ。いや、まぁ、広島焼きを単純に手抜きした結果がオムソバという結果になっただけだけどさ。


 本場の人からすれば邪道で遺憾だろう。だけどズボラな人が作る飯だと目を瞑って許して欲しい。


 因みにわたしはお好み焼きは広島焼き派である。


 かつて広島に修学旅行に行き、本場の広島焼きを食わず、何故かホテルの中華が広島の修学旅行飯だったという、とてつもなく微妙で、シラケる、残念な修学旅行となった。わたしはとても食べたかった。広島焼き。


 広島焼きお好み焼きも、広島焼き風お好み焼きも売っていないのだ。レンチンも何処もかしこも関西風だ。何でなんだよう!!


 豚バラスライスを食べやすい大きさに切って、炒めている間にレンジで中華麺をチンして水分を飛ばして、そのままフライパンに投入して、カリッとしてくるまで焼く。麺に豚の油の風味を吸わせる。


 パチパチという音になったら裏返して焼いていく。ヘラの角で麺を解していく。持ち上げて解していく。面で解すと麺が切れるからだ。


「豚バラと麺を端によせ、キャベツを投入。キャベツの上に麺を乗せてキャベツを蒸していく。時折、蒸気の出る位置を変える為に麺を解す。いい忘れていたけれど、豚肉が焦げないように別皿に移すか、麺の上に乗せるとかする。わたしは麺の上に乗せた。


 麺もキャベツも肉も混ぜ解して、麺を焼く。焼きそばソースをかけて混ぜて、ソースの水気を強火で一気に飛ばす。ジューッ!!という音が乾いたパチパチという音になったら焼きそばは完成。もう、焼きそばのスパイスソースの焼ける匂いが堪らなかった。もう焼きそばで良いじゃない? と思うけど、ガマンガマン。ジュルリ。


 さっとフライパンを拭いて、油を大さじ1温める。卵を二つ割り、ヘラの角で黄身を崩して白身と混ぜ薄く丸く伸ばす。そこに焼きそばを乗せる。この時焼きそばは端に乗せる。薄焼き玉子焼きを破れないようにフライパンから剥離して焼きそばに被せる。あとはお好み焼きソースに青海苔、かつおぶしを振りかければ気持ち、もしくは気分的に広島風ズボラオムソバの出来上がりだ。


 まぁ、イカ天や天かす、その他を使っていないからね。本当にズボラ飯なんだけどね。じゃあどの辺りが広島風だって聞かれたら、キャベツの千切りの量とだけ。


 二皿目食えるのかって? 余裕で食えるね。だって白飯食ってないからね。今から少し盛るよ?


 紗羅が練習へと出る。


 ――ミニオムソバを持ってくか。


 以前作ったチキンライスクレープの時みたいにして。




お姉ちゃんの問に対する答えは出ていない。


 ――と、いうか出せないよ。


 私はリンク常滑を流しながら滑り、悶々と考え続けている。


 ――だって、出られる時に出ないと、次があるか分からないし、もし、引退前とかピーク時なら尚更だもん。セカンドキャリアも考えないといけないし……。


 でも――


 ――もし、感染が爆発したら?


 ゾンビにはならないけど、ハザード系ゲームのような状態なんだよね。


 感染者が溢れて、自分の意思で彷徨く。そう考えると怖い。


 ――う~。お姉ちゃんのアホ~、バカ~。何で意地悪いうの~。


「ん~。それはお姉ちゃんの仕事場がブラックだからだよ?」


「ウワッ!! お姉ちゃん!! ビックリさせないでよ!!」


「ゴメンゴメン。家出るときまで悩んでたからね」


「お姉ちゃんが意地悪いうから」


 お姉ちゃんはわたしを抜かして綺麗にターンを決めると、私に向き合いながら滑らかに滑る。


「だって、祭典の出場より、結果よりも妹の健康や命の方が大事だもの」


 目から鱗が落ちた。


 ――というか、力が抜けた。


 拍子抜けって奴だ。


「さっきも言ったけど、ウチの仕事場は病は気から精神なのよね。『咳と熱があるから病院に行くので休みたい』と連絡するじゃない」


「うん」


「『電話をかける余裕と病院に出歩ける元気があるなら来い。忙しい時期に休むな。もし、休むなら今月の給料無しに近くするぞ』とかね。『そんなのは休む理由にならない。休むなら、辞めろ。それが嫌なら出社しろ。ただし遅刻分は給料から引くからな』ってな感じよ」


「酷ひどっ!! 非道だよ。お姉ちゃん! そんな所早く辞めるべきだよ!!」


「辞めたくても、辞められない大人の事情があるのさ」


 お姉ちゃんが諦めの笑みを浮かべる。それは今にもお姉ちゃんが消えてしまいそうな笑みの浮かべ方だった。


 不安に駆られた私は慌ててお姉ちゃんにすがり付く。


「まぁ、意地悪言ったのはわたしだしね。ねえ、あのゲームに疑問を持たなかった?」


 お姉ちゃんが私の頭を撫でてくれる。


「え? あのゲームって『スターチス』?」


「そうそう。だって魔法と剣って、それを使う前提の話だからね。魔物退治に癒し」


「うん」


「そこに“聖女”なんて必要になるほど、ローゼンクォーツ皇国は―― 世界は逼迫し、尚且つ〈七つの大罪〉の驚異に曝されている。ナレーションには流行り病もあって、それも原因だと語られてる」


「うん」


「なのに、皇城―― 皇宮は煌びやかで、皇帝も皇妃も皇太子も豪奢な意匠の衣装とドレスを纏い、暢気に学園に通い、恋愛に現を抜かし、困窮する国民の税金で禁忌の身分違いの結婚をしようとしてる。皇太子も主人公ちゃんの聖女もこれから、その税金で苦労なく、ひもじい思いも、みすぼらしい格好もしないで済み、住むところも豪邸、豪華絢爛だ」


「でも、英雄の子孫と聖女だから」


「だったらさっさと戦の最前線に行くべきね。身分違いの恋を貫きたいなら、皇太子が皇族から籍を抜いて、貫いて英雄の子孫として旅に出るべき」


「身分違いの恋が叶うから夢があるんだよ」


「そんな夢、早く捨てなさい。もしくは野良犬にでも喰わせてしまいなさい。そもそも英雄の子孫っていうけれどかなり薄れてるからね。混ざりに混ざれば、それはもう違う在り方でしょうに」


「ゲームのシナリオに厳しい」


「今の流行りはそんな夢物語じゃあないわ。みんなリアルを求めているのよ」


「じゃあリアルな展開って?」


「聖女の暗殺。罠に嵌めての嵌め殺し。その罪を着せられるのがソーナ。その後の国の滅亡」


「うわぁ……ドン引きの鬱ゲーだ」


 誰がそんな鬱ゲーを買うのだろうか。


「いや、同人作家に人気タイトルのゲームのシナリオを書かせてクソゲーに仕上げるよりはマシじゃない? 文芸、文学って鬱もの多いじゃない?」


 とんだ偏見だ!!


「うぅ……でも、流行り病で生活苦の中、恋愛に浮かれてる国の次代を見ると怒りが出てくるよ。次代が不安だよ。英雄の子孫の名が聞いて呆れるよ」


「で、その結果、過去に戦争していた国から、いろ~んな難癖つけられたり、約束事を反故されたり、ごねられたり、挑発されたりしているのが続編なんだよね。皇帝になったアルフォンスと皇妃フォーリアと愉快なブレンズは、その対応でてんてこ舞いってストーリー」


 ――『ブレンズ』とは、ブレインとフレンドを合わせたお姉ちゃの作った造語。俗に呼びて『お友達内閣』と云うなり。


 しかも、軍は解体、国を護る旧武装の騎士しかいない。それも派閥争い、権力闘争と足の引っ張り合いに明け暮れる者たちが纏める騎士隊だ。


 リアルに置き換えても、リーダーシップがないと隙になるよね。流行り病に対応出来ない国のリーダー。これ幸いと、色々仕掛けてくる国は出てくる。あの国とか、あの国とか。


 どちらも中途半端な対応になってしまうんだろうなぁ。で、そこに政治家の何かが出て来て、また混乱……とかね。


 そう考えると、スピンオフのゲームって現実的なんだなぁ。



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