夢見る過保護ちゃん に
まだまだですよー。
小針さんが管理課から、うちに飛ばされると言う噂はマッハで駆け抜けた。
教育係の主任が胃に穴を開けたのが決定打だったそう。かわいそうに。検査の班長が管理課の部長に泣きつかれたんだと。どんだけ孫可愛がりなのか。いや、ほんとの孫じゃないけど。
辞めさせる決断もあったはずなのに。
そして班長、娘みたいな歳の子にデレデレしてる姿、お姉さま方からどんな目で見られてるか知ってる?
その本人は呑気にやってきた。
噂を聞いてた検査のお姉さま方は、戦々恐々だったよ。
でもすぐにあれ? なんかそれほどでもなくない? になった。
挨拶はできるし、受け答えも笑顔だからね。管理課みたいにウロウロできないのもよかったのかも。
でもなぁ、と私と紀伊は半信半疑だった。
うちの課は、クリーンルームがあって、検査と加工はクリーンウエアを着るんだけど、私達は暇になるとその着替える部屋の隅で内職みたいな作業をしたりする。
そこに、小針さんが班長と入ってきたんだよね。ウエアを着るのにもたつくのは仕方ないよね慣れだよねで済んだけど、ブーツのファスナーが上がらないってある?
「……見た?」
「……見た」
上がらなーい、とか小針さんが言った瞬間、班長(既婚者子供有シリに敷かれるタイプ)がサッと膝まづいてファスナーあげてあげたのよ。
「お姫さまか?」
「夢見る夢子ちゃんかも」
思わず2度見したね。いくら娘みたいな歳の差だからってあれはないだろと、速攻でお姉さま方にチクッといた。すっごい目で見られてた。
小針さんにできる仕事がまだ無いからって、私達の内職に連れてこられた時はどうしようかと思ったわ。
一通り説明してやってもらったけど、確かに返事はお利口さん。でもやってみると間違いだらけ。言われたことを飲み込んで、理解して応用することが出来ないみたいだ。
あと、人の話を聞かない。うわ、致命的。
私達のやってるのを見ない。普通見て覚えるのも仕事の内なんだけど見ない。じゃ紀伊のやり方は分かりやすいから見て、って言ったのにチラっと見てすぐに自分の世界に戻る。
覚える気がないのか、私達を見下してんのかケンカ売ってんのかコラと。
その内、検査のお姉さま方もわかってきたみたい。だって毎日同じこと説明しなきゃいけないんだもの。みんなああ、ってなったよ。
休憩は毎回彼女のやっちまった話になった。
え、本人いるとこで? いや、いないし。彼女、女子と休憩する意味がわからないそうだ。班長とか自分をチヤホヤしてくれる男の人のとこにしかいかないんだよ。
それで女子が優しくないとか、どの面が言うのか。誰かが「女子はみんな彼女の足元。女子の上に男子がいて自分はさらにその上ってナチュラルに考えてそう」とか言ってたけど、なんかとんでもない思考回路だな。いや違うよねとは誰も言わなかった。
女子の園にいるのに、自分が1番下なのに、会話してくれる人を見下して、誕生日プレゼントあげますぅ、とかやらかして、しかも他の人にはそれより安いのあげるとかあげなかったりとか、もうホントバカじゃね? と。
プレゼントするなら同じ金額で差をつけないは基本だし、会社なんだからあげなくても誰も文句なんて言わないよ。あげるならこっそりすればいいのに、堂々とみんなの前でひとりだけとかするからおかしくなるんだよ? と優しい人が説明しても理解してもらえなかったらしい。
てか、誰も言ってくれないからって「私の歓迎会はいつですかぁ」とか自分から宣う阿呆とつき合いたくない。
男子の前で自分の体重言って気を引こうとするのも勘弁してほしい。男子ドン引きだったさ。
そんな感じで、皆が距離をとると泣くんだよ。情緒不安定なんですぅ、って。
勘弁してくれよ、マジで。
更に続く(笑)