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人世一夜の日登美荘 《ひとよひとよのひとみそう》  作者: 亜麻矢 幹 《あまやかん》
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第1話 「僕が正義で君が悪」 【3】

 ジャスティーダが慌ただしく移動と着替えをしているおよそ5分の間、現場はいまだ収拾つかず荒れている。警察官たちは飛び跳ねている戦闘員たちをずっと追いかけ続けていた。しかし、戦闘員たちの方が遥かに身軽だった。かたや機動性に特化した黒タイツ、かたや警棒や拳銃までも携帯するいわば重装備。その上、彼らは総勢20人ほどもいて、わずか3人で捕まえきれるはずもない。しばらく彼らを追い回していた警察官たちは、ついに全員、息を切らして地面にへたり込んでしまった。

「はあ、はあ……な、なんという奴らだ」

「イー!」

 戦闘員たちは勝ち誇った。シャイニング・レディが年配の警察官の側に歩み寄り、彼を助け起こした。

「大丈夫ですか? いきなり激しい運動をすると身体によくありませんよ」

「はあ、はあ……ありがとう……ちょっと走っただけで息が上がってしまった……やはり、寄る年波には勝てないということかな……」

「いいえ、まだお若いですよ。確かにあなたよりも彼らの方が若く、そちらの巡査さんたちより若い者もいるかもしれません。ですが、単純に比較の対象とするべきことではないのです。そもそも彼らは、我が組織の下で常に厳しい訓練を積んでいますから、一般の方がまともに張り合おうとすること自体、無茶なのです」

「ああ、そうだったのか……ふう……」

 警察官は息をつき、溜飲(りゅういん)を下げた。

「言われてみれば、私もここしばらく、凶悪犯を追い回すことはなかった……少し運動不足だったかもしれない」

「そうですよね。大切なのは、無理をしないこと。健康に留意して、年齢にふさわしい体力をつける心構えですね」

「まったくだな……うん」

「ところで、おわかりいただけましたか? 見ての通り、私たちは悪の組織。つまりは傍若無人が常で罪を犯すことも許される存在なのです」

「それは……まあ、そうかもしれないな」

 警察官は腕を組み、唇を噛んだ。

「だが……だからといって、このまま見過ごしてもいいものだろうか。ううむ……」

 ジャスティーダが広場に戻ってきたのはそのときである。あの警察官は、今、奴らに懐柔されようとしている。ここは自分が頑張るしかない! 彼は大きな声で叫んだ。

「そこまでだ! 悪の組織!」

「む?」

 突然、響きわたった声に、ちらしを配っていた戦闘員たちの動きが止まった。

「警察のみなさん、お待たせしました、後は私におまかせください!」

 シャイニング・レディはジャスティーダにいぶかしげな顔を向けた。ジャスティーダが「それって、どうよ」と思ったのは警察官や通行人たちも怪訝そうな顔をしていたことだった。

「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ! ひとつ、他人(ひと)より貧乏だけど、品行方正、無事息災! 問われて名乗るもおこがましいが、悪を倒しにただ今参上! 正義の味方! ジャスティーダ!」

 シャイニング・レディはなんて節操のないセリフなんだろうと思ったようで取り合わなかった。

「ほら、活動、やめないで! きちんと宣伝する!」

 シャイニング・レディは戦闘員たちに向き直って叱咤し、仕事を続けさせようとする。

「やめなさいっていうの! 俺の口上を聞きなさいよ!」

 ジャスティーダが叫び、動きだそうとした戦闘員たちは、またぴたりと動きを止めた。シャイニング・レディは挑戦的な視線をジャスティーダに注いだ。確かに、この突然のちん入者が彼女たちに敵対する立場を主張した事に代わりはない。

「そこのあなた。聞き捨てならないことを口にしましたね。正義の味方ですって?」

「そのとおり! たまたま通りかかった縁だが、貴様らの悪事をこのまま見過ごすわけにはいかないと思っている! さあ、観念するのだ!」

「お断りします」

 シャイニング・レディは冷たく言い放つ。

「突然そんな事を言われても、はいそうですかと引き下がるわけにはまいりません。我々とて誇り高き悪の使徒。いかなる場合においても妥協はできません」

「交渉決裂というわけか」

「最初から交渉なんかしていないでしょうが!」

 一瞬、イラッとしてシャイニング・レディの語気が荒くなる。だが、すぐに自分を律した。相手のペースに乗ってはいけない、と自分に言い聞かせる。

「まあよいでしょう。ならば、そのちっぽけな正義、貫いてみなさい! 戦闘員たち!」

「イー!」

 シャイニング・レディの鶴の一声で、戦闘員がジャスティーダを取り囲む。

 ジャスティーダは唇を噛んだ。なんと融通が利かない連中なのだろうか! これだけ精魂込めて説得しているというのに! だが、事ここに至っては仕方がない。相手は実力行使の道を選んだ。己も同じ道を往くしかない。

「パワーフィールド・オン!」

 ジャスティーダはバックルのスイッチを入れた。すると、ぶうんと重たい音が響いて手首が光る。光は炎のように揺らめきながら手先を包み込んだ。これがジャスティス・スーツの能力、パワーフィールドである。さらにパワーフィールドは足首の周りにも同じように展開されてブーツを輝かせた。

「さあ、来い!」

 ジャスティーダが構えると同時にひとりの戦闘員が飛びかかった。先ほど披露した優れた運動性能を発揮して、ぴょいんと高く跳躍すると、かざした手刀をジャスティーダに振り下ろす。ジャスティーダは両腕を顔の前で交差させ、その攻撃を受け止めた。衝撃を受けて、一瞬パワーフィールドが強く光る。ジャスティーダは腕を振り抜いて、戦闘員の身体を斜め下に弾き飛ばした。

「やあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「イッ!?」

 戦闘員は豪快に地面に叩きつけられてゴロゴロと転がった。

 間髪入れずにふたりの戦闘員が横からスライドしてきて、ジャスティーダに襲いかかる。ジャスティーダは腕を大きく左右に開いて裏拳を放った。どどんという音ともに、ふたりの戦闘員は跳ね飛ばされ、放物線を描いて噴水に落ちた。高く水飛沫が上がり、時期の早いお湿りをアスファルトに提供した。

 戦闘員たちは苦戦の最中(さなか)にあった。次々とジャスティーダに飛びかかるが、ことごとく弾き飛ばされてしまう。放射状に吹き飛んだ彼らは、ベンチに、花壇に、鉄柱に、勢いよくぶつかって次々と戦闘不能になっていく。

 周囲からは拍手と歓声が上がった。すごいパフォーマンスだ、と感心する声が飛び交っていた。ジャスティーダはうなずいた。正義を貫き、常に無辜(むこ)の民衆の支持を得ていると確信した。

「さあ、次は誰だ!」

 ジャスティーダが派手に見得を切ったとき。

「私です」

 それまで動向を見守っていたシャイニング・レディがジャスティーダの前にゆっくりと歩み出る。いつの間にか、最後の戦闘員も倒れ、残りは彼女ひとりだ。

「なかなかやりますね、正義の味方。まさかパワーフィールドを使うとは予想だにしませんでした」

 ジャスティーダは息を呑んだ。なぜ、こいつがパワーフィールドを知っている? これはアイベリーの存在と同じく重大な機密事項だ。

「どうして私がパワーフィールドの存在を知っているのか、と問いたそうですね」

 せせら笑うかのようにシャイニング・レディが後を続ける。

「教えて差し上げます。こういうことです」

 シャイニング・レディが構えた。胸を張って両腕を伸ばして外側に大きく開く。同時に手首と足首の周りにジャスティーダと同じ光の輪が飛び出た。

「私のシャイニング・スーツもパワーフィールドを展開させることができるのですよ!」

「なんだって!?」

「勝負! 正義の味方!」


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